韻とアイデアほか

日本語の押韻などに関する走り書きetc...

【Quake(仮)】新ジャンル提唱のための前書き、あと材料各種

 

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固定観念に"震災"を起こせ

 

 塚治虫がコマ割りに革命を起こして"Comic"から"Manga"へ独立させたように、日本のラップミュージックも既存のジャンル...つまりヒップホップやトラップ、グライムなどから独立できないかなと考えるわけです。

 なぜ独立しようとするか!まず第一に『自立した文脈がなければずっと海外のトレンドを追いかけ続けるだけになって、ようするに"先頭"にはなれないから』です。

 今日のマンガ界は数え切れないほどの個性で溢れていて、先人若手ふくめ海外のバンドデシネやアメコミからの影響を公言している作家はたくさんいます。しかしそれら全ての作家が"漫画家"たりえるのはひとえにマンガの作法に乗っ取っているからだと思うわけです。つまりコマ割りや特徴的なデフォルメ技法...などなど、いかなる影響があっても根幹をなす定義の存在を第一にしている。

 何が言いたいかというと、日本の音楽もコマ割りのような新しい技法、枠をでっちあげて、その上でやったらいいんじゃないの、ということです。そしてその大枠の中でさまざまな分岐を新しく作り出していく。海外から分譲された土台ではなく、です。

 

 考えてみてほしいのが、いったいアメリカのどれくらいのアーティストが『あいつは海外のアレのパクリだ』な〜んて言われてると思いますか? あるいはUKのグライムはUSの後追いだったか。逆に『Weeaboo』という単語について考えてみるのもいいでしょう。けっきょくのところ、土台が借り物の時点でコミュニティがいくら日本独自のものだとしても最終的にソレは借り物にすぎないわけです。

 それはつまり、トラップをプレイしている日本のプレイヤー彼ら自身が、実質的にはトラップの同好会を運営しているに過ぎないような状況ということ。コデイン大麻もリーンもやらないし治安もいい、環境と音楽がリンクしていないからリスナーが音楽を通してレプリゼントする環境もない...トラップ以前のヒップホップ、あるいはJポップにしたってそうです。誰が涼宮ハルビンで抜くんですか?

 

WEEABOOS

 

LET'S ARGUE ABOUT K-POP

 

 これは別に商業として成立しているとか、メジャーであるといった計量で言っているわけではありません。仮に日本のラップミュージックがお隣韓国の音楽のように国民一般に大きく支持されていたとしても、あるいはアメリカのチャートで一定の成功をおさめていたとしても『借り物は借り物』なんだということです。

 

 「独立だって!グローバルな視点を持ったら?」と思いますか?

 では逆に問いかけますが、グローバルな視点を持ったとき、トラップというブームがとっくに過ぎて次の音楽に埋もれたとき、あなたは、あるいはあなたの支持するプレイヤーは『トラップの伝説』として名を残すと思いますか? あるいは『日本人のトラップアーティスト』として?

 

 なぜ多くの人間が創作という行為に固執するのか、それは①現在に熱中することで不安を忘れるため、そして②作品という遺産(自己肯定の材料)を残すため、このふたつに尽きると思います。

 では②について論じましょう。あなたが相対的に自分の人生を評価する、あるいはしてしまう人間だとして、あなたが日本語バージョンのトラップを作ったとします。当然あなたの音楽は「世界の音楽史」には残らないでしょう。では日本の音楽史には...これも現状の価値観では残らないでしょう。あるいはメロウなら可能性はあるかもしれませんが...

 さてようやく『日本語ラップ史』となったところであなたの音楽が残る可能性が出てくるかもしれません。ですがこのときあなたの音楽は『日本のラップ史』にも関わらず、結果的にはアメリカのトレンドを追った借り物でしかないわけです。そしてそこで、あなたは相対的に自分の人生を評価するとして、虚しくならない自信はありますか?

 別に食っていきたいわけでも名を残したいわけでもないのなら話は別ですが...

 

 

 ではあなたが『新ジャンルのラップ音楽』を打ち立てたとしたら?

 当然日本語ラップ史には残るでしょう。日本の音楽史にも(少なくとも批評史には)。では世界の音楽史には...残るかもしれません。あるいは残らなくてもあなたは自分の人生を"相対的に"肯定できるはずです。なぜならその残した作品群は他に前例がなく、そしてあなたはプレイヤーでなく『開拓者』を自負できるからです。しかもそこで必要になるのは玉石混合から目立つための膨大な広告費ではなく、アイデアを考える時間とそれを書き留めるための紙とペンだけなのです。

 

 グローバル視点というと最先端に追従することと思われがちですが、今はSNSやジャンル別のメディアで世界中の情報がシェアできる時代。他国の優れたものがすぐに手元へ。北欧系のソファに腰掛けながら宅配のピザとスコッチを頬張り、中国製の家電で部屋をあっためつつNetflixで日本のアニメを眺めるわけです。ガレージにはイタリア車、ガソリンはおそらく中東とかロシア産で、隣にすわるチリ人の嫁がまとう衣服はフランスのブランド...

 

 で、自分の国にあるものの"特に優れているわけじゃない日本バージョン"をわざわざ探しに行くか?NO!NOですよ!世界中がつながる今ではむしろ、グローバルな価値観の外側の『田舎者なコンテンツ』こそ求められてると理解すべきです。

 考えてみてください、全身ジャージでクソほどなまった発音、ロンドンでしか通用しないスラングを用いてラップするグライムMCたちは世界視点から見れば田舎者だったんですよ?

 

 

 だから独立する必要があるわけです。それに中途半端な『日本"版"』より、明確に世の中に新しいものが増えたほうが楽しいでしょう! というわけで、今回はうさんくさくも新ジャンル『Quake(クエイク)』というものをでっちあげて、あてずっぽうにアイデアを陳列していきたいと思います(いわゆるブレインストーミング)。採用するのも結構、見なかったことにするも結構です...

 あ、ちなみにクエイクというのはもちろんアースクエイク(地震)から取っています。日本ならではを考えたとき、一番特徴的なのは震災大国であることかなと。まあそんな感じで。

 

1.日本古来の音楽を漁ってみる

 

 東京音頭

 日本固有の音楽、と聞いて思い浮かべるもののといえばやはり雅楽、民謡、そして音頭でしょう。和太鼓と金物楽器がリズムを、三味線や篠笛などが副旋律を奏で、そこに古めかしい歌謡が乗っかることでひとつの楽曲にまとまっています...

 ではこれらの楽器を使ってビートを!と思ってもミクスチャーかサンプリングヒップホップみたいにしかならないので、楽器の各要素を取り出していきましょう。まず上記の東京音頭を参考に、リズムセクションを表にして見たいと思います。

  1拍 2拍 3拍 4拍 5拍 6拍 7拍 8拍
和太鼓 ●---●- ----●- ●----- ------ ●---●- ----●- ●----- ------
ふち ------ ------ ----■- ■---■- ------ ------ ----■- ■---■-
金物 □---□- ----□- □----- ----□- □---□- ----□-- □---□□ □---□--

  こんな感じ。現代の打楽器で置き換えると和太鼓がキック、金物がハット、そして太鼓のふちを叩く音がスネアに当たると思います。

 さて注目してもらいたいのがスネア部(ふち)の箇所なんですが、ヒップホップが2拍目と4拍目の頭、トラップでは3拍目の頭に一発ずつ置くのを基本としているのに対して、音頭のソレの場合は4拍目周辺に数発、という奇妙な構成になっています。

 まあ現代音楽ではないので当たり前だと思えるでしょうが、これは新ジャンルを作る上でアイデアになるかもしれません...というわけでアンダーライン付きで特筆しておきます。

 そして楽器の音色、和太鼓のタイトでなくサスティーンの大きい低音、そしてハイハットよりもやや金属感のたかい金物なども独自性を追求するうえで参考になりそうです。それでは次に雅楽を聴いてみましょう。

 

雅楽:越天楽

 雅楽は「笙、篳篥龍笛などの管楽器」、「楽琵琶、楽箏、和琴などの絃楽器」、そして「太鼓、羯鼓鉦鼓などの打楽器」をドローンのように多層に折り重ねることで成り立つ日本古来の音楽だそうです。こちらはその代表曲のひとつの『越天楽』で、音の抑揚、とりわけ全ての音が一時だけ完全に消え入るさまはとても清美で幻想的です。テレビなどで一度は耳にしたことがあるかもしれません。

 ところでこのような同じ音程を違う楽器で多層に重ねるという手法、ラップ音楽のビートメイクではあまり見られないアイデアなので使えるかもしれません。ここにメモしておきましょう。

 

右方:還城楽

 こちらの雅楽は少々変わっていて、和楽器の重奏をはじめる前に打楽器のみによる長い前奏が設けられています。これは演舞の構成によって生じたものですが、ここで打楽器のリズムを聴いてみましょう...キックに当たる太鼓は1、2、3拍目の頭、鉦鼓とよばれるキンキンいう音は各拍の頭を等間隔に、そしてポンポンと締める羯鼓の音は4拍目周辺...これって、音頭のそれとほとんど同じですね。

 あまり多くを参照していないので断定的には言えないですが、このリズムって古来の日本では基本だったのかもしれません。なににせよ、日本独自を考える上でちょっとばかし重要な気づきになりそうです。

 

 では次に近代の日本音楽を聴いていきましょう。時期はだいたい80年代あたりへ、テーマは『SFとエスニック』です...

 

2.SFとエスニック、そしてNEO東京

 

YMO - Neue Tanz

 80~90年代の日本は何がそうさせたのか、SFとエスニックの融合を目指していたかのような音作りや絵作りが多数見受けられます。それは後述する攻殻機動隊AKIRAでもありますし、風の谷のナウシカや、YMOなどのテクノアーティストもそうです。

 YMO6作目『テクノデリック』の2曲目にあたるこの曲では、バリ島のケチャのサンプルとアナログシンセサイザー幾何学的レイヤーが合わさることで、どこか有機的なSF情景を見せてくれています。

 

 

Ken Ishii - Extra

 日本人テクノの代表作のひとつであるKen Ishiiの『Extra』も、スタジオ4℃手がける映像によってSFと退廃的な(そして少し誇張された)日本を融合しています。いま全盛期を迎えているVRですが、それを示唆するような表現も。

 音楽の方もシンセ一辺倒にならず金属質なパーカッションのサンプルをループさせていて、アニメーションの世界観へのフィットに一役買っているように思えます(もちろん作られたのはアニメが後ですが)。

 

Ghost In The Shell - Making of Cyborg

 パンドラムや民族楽器のパーカッションがとても印象的なGhost In The Shellの楽曲群ですが、やはり一番はこの神秘的な女声によるコーラスでしょう。よく聴くと日本語の古語による詞になっております。

 SF全開の本作に(連想されるシンセサイザとは異なる)民族調というエッセンスを加えることで、化学と相反する魂という概念...つまり『殻の中の幽霊』というテーマをより浮き立たせていると言えるのではないでしょうか。

 

AKIRA - Kaneda's Theme

 言わずと知れた名曲。木琴のような民族楽器による反復演奏が徐々に盛り上がりを見せ、あの印象的な「ラッセイラー」のコーラスとともに高揚感を帯びていく様は圧巻です。映画音楽の中でも唯一無二ですね。

 有名どころだけ漁ってみましたが、このように"日本独自だった音楽やビジュアル"を振り返ると、前述したSFとエスニックの融合という点で共通するのではと考えます。合わせて、これらの作品を見た外国人によるステレオタイプの日本観...あるいはそれを意図して作り上げた"架空の日本"というのも日本独自を考える上で重要になるかもしれません。

 

 日本の遺産を参照するのはこれくらいにして、今度はラップ楽曲において『あまり使われていない』パターンを探していきたいと思います。つまり、トラップの三連符やグライムの整然としたノリ"以外の"定型を見つけていくわけです...

 

3.新しいラップの定型を探せ!

 

Big Daddy Kane - Set It Off

 "探していきたいと思います"...とか書きましたが、結論からいうと『16ビートの裏拍でリズムを取り続ける』という手法が有効なのではと思っています。

 こちらは1988年発表という古典中も古典なのですが、このようなノリ方って現在のトラップような遅回しやグライムのような早回しではあまり見られないノリだと思うんですよね。この乗り方をアップデートしてうまく使いこなせれば新境地が開けるのでは...などと予想しています。

 

Eric B. & Rakim - Juice (Know The Ledge)

  1拍 2拍 3拍 4拍
0小節 - - - sip/-/the/juice
1小節 -/-/-/- I/got/ta/enough -/to/go/a round/-/-/-
2小節 -/And/the/thought -/takes/-/place -/up/-/town -/-/-/-
3小節 -/I/grew/up -/on/the/side -/walk/-/where I/learned/-/street
4小節 -/talk/-/and then/tough/-/to hawk/-/New/york -/-/-/-

 Rakimの名曲『Juice』の冒頭4小節を引っこ抜いてみました。太字になっている箇所がアクセントを強く発音している箇所になります(すこし雑ですが)。

 聴いてみて分かるように、オールドスクールヒップホップに特徴的な執拗なまでの(16ビートの)偶数拍による拍取りが行われています。90年代から発展した日本語ラップではこういう80年代的ノリ方は珍しく映るのではないでしょうか。

 

OutKast - B.O.B.

 聴いてもらいたいのは1バース目のAndre3000。さすがKendrickなどからリスペクトされる実力で、混沌としたスキルの応酬が単純に格好良いですが、ここでもしばしば偶数拍を狙い撃ちしたフロウが垣間見れると思います。

 特に5~6小節目『Who want some? Don't come unprepared/I'll be there, but when I leave there』の部分のリズムキープぶりが格好良い!

 

Eminem - The Way I Am

 こちらはEminemの代表作と認知されているMarshall Mothers LPの収録曲ですね。貧相なピアノリフとベースと単調なドラムでトラック自体はパッとしないんですが、そこにエミネムの強烈なフロウが合わさることで化学反応が生まれています。

 ここでは16ビートの4、8、12、16拍でアクセントを強調するようにリリックが書かれていて、非常に高度です(詳しく言うと弱弱強歩格というんですが今回は省略)。セルアウト扱いされるメジャーラッパーで生き残るだけあり、技巧にも凝っているわけですね。

 

 というわけでまだ発展の余地がありそうなフロウとして『16ビートの偶数拍』を紹介してみました。では次、まだヒップホップで開拓されていないビートの手法を探っていきましょう。というのは..."変拍子"です。

 

4.変拍子という概念

 

Faraquet - Carefully Planned

 ヒップホップはダンスミュージックということもあってか、踊るには難しい変拍子のビートというのは作られてこなかったようです。確かにヘッドバンギングするには混乱してしまいますし、リリックを書く分にも自由ではありません。

 筆者はロック初心者なので詳細には説明できませんが、こちらの曲は5/8で始まり、サビで3/4?になる構成です。ヒップホップに慣れた耳には新鮮!

 

Braid - I'm Afraid of Everything

 こちらは6/8拍子の楽曲ですが、格メロディーの区画ごとにドラムのノリが変わっていくのが面白いですね。こういう有機的に変化していくビートってラップミュージックではあまり見られませんよね。

 歌唱もサビとそれ以外とでガラッと入れ替わったり...まあロックには定番の手法かもしれませんが、これをラップでやってみたりしたら楽しいのでは...とか言っとく。 

 

Tool - Schism

 これはどういう構成なんでしょう...影を落とすギターリフに痺れますが、この難解な構成がそれをより暗く呪術的な作品に組み替えています。

 おそらく5/8と7/8を交互に繰り返し、サビでは6/8→7/8という循環に切り替わる...という風に聞こえるんですがどうなんでしょう(詳しい方教えて)。とにもかくにも難解で、これにラップ載せるとしたら相当ハードですよね。そしてノレない。

 

Tera Melos - Trash Generator

 モジュラーシンセサイザーによる自動演奏か、みたいなリフがまさに『Trash Generator』な曲ですが、こちらは7/8を基本に、たまに10/8とかいろんな拍にシフトしているようです。

 しかしBPMのおかげなのか、割とヘッドバンギングしても混乱しないようになっているのが不思議です。これならラップ載せられそうと思えるので、なかなか研究の余地があるのではないでしょうか。

 

 

 - - - - - 

 

 

 とまあこんな具合に、参考になるものを陳列してみました。

 いかがでしたか?何かしらのインスピレーションが得られたら幸いです...そしてもちろん、自分もこれらを踏まえた上で新ジャンルを作ろうとしているところです。

 次回以降は実践を踏まえつつ、ひとつの手法に焦点を絞りながら技術論を講じたいと思います。あるいは使えそうな材料が見つかったら再度シェアするでしょう...

 

 それではまた!

【UK Hiphop】英国ヒップホップはDirty Dikeから知れ!

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英国Hiphopシーンの復活、その立役者

 

 ンブリッジ出身、元レイブシーンのDJ..."汚い堤防"のMCネームの通り、彼はイギリスのヒップホップでも随一の底汚さを誇るラッパーです。猥雑さの目立つリリックは過剰かつ整然とした韻律で占められていてヘッドバングに耐える完成度ながら、半分くらい意味不明であることも魅力のひとつです。

 その破綻したスタイルは技術以上に"彼自身の魅力"で成り立っているといって良く、代表曲のひとつ『I Ain't Got A Crue(確証にはならない)』でもその点に言及しています。

 

Dirty Dike - I Ain't Got A Clue

"Rappers stepping to me, they want to get some
ラッパーどもが近づいてくる、関係が欲しいのさ
But most of them should go and eat a hand full of fuckin' shit
だが大半の連中はやってきて手に余るウンコを喰らうだろうね" 

 

 そんな誠実とは言いがたい彼がなぜ"立役者"となりえたのか? 今回は彼の成し遂げた多方面での功績に目を向けながら、最新の英国ヒップホップシーンも紹介していきたいと思います。

 

1."サブカルチャー、アングラ"からの離脱

 

Jehst - Monotony

 00年代、Low Life Recordsを中心として花開いたUKのアングラヒップホップシーンは意識的な詩による傑作が数多く生まれるかたわら、陰湿とも言える空気感が楽曲に漂っていました。90年代後半のトリップホップともまた違った、英国の曇り空をまざまざと反映させたような曲調です。

 それは"アメリカの模倣からの離脱"を無意識、あるいは意識していた結果という点でグライムシーンと似ていますが、若者というよりは社会人によるラップであり、"社会現象"として弱かったUKヒップホップシーンはメジャーなメディアで取り上げられることはありませんでした。あるいはそれをシーン自体が拒んでいたという面もあるでしょう。

 代表的なラッパーにJehst、Taskforce、Klashnekoff、Skinnyman、Rodney P、Rhyme Asylumなどがいます。

 

Rhyme Asylum - Smoke Screens & Pipe Dream

 もちろんForeign Beggarsなど比較的明るい曲調を扱うラッパーたちも存在しましたが、彼らはUKヒップホップのコミュニティから次第に離れていき、最終的にはダブステップのビートに乗って別の方向へ去っていきました...

 さらに中心的レーベルだったLow Life Recordsの代表Braintaxが多くの印税を未払いのままオーストラリアへ逃亡し、シーンは暗転していきます。その顛末はJehstの『Australian』で語られています。

 

Foreign Beggars ft. Dr.Syntax - Glacial 

 

Jehst - Australian 

 相変わらずUKHHなどのコミュニティは存続していましたが、シーンの中心となる基軸が欠けたままシーンは10年代へ突入していきます...そこで姿を表したのがラッパーのFliptrixが立ち上げたレーベル『High Focus Records』です。

 

Fliptrix ft. King Kashmere - Smoke Lingers Always

 安価に高品質な映像が撮れるハンドカメラの普及、YouTubeでの世界単位なインディムーブメントの加速などに乗る形で登場したHigh Focusは瞬く間にUKヒップホップコミュニティでの市民権を獲得し急成長、現在ではUK最大のヒップホップレーベルとしてフェスを主催するまでに至っています。

 そしてこのHigh Focusが興隆する最初のきっかけになったのが本記事の主役、Dirty Dikeによる楽曲『Pork Pie』なのです。

 

Dirty Dike - Pork Pie 

"I'm board of my life
俺は俺の人生の取締役だ
Talking my shite
俺のクソを喋って
Snorting my lines
歌詞を自嘲してやるのさ
Like pork to the pie
ポークからのパイみたいに" 

  それまでのUKヒップホップシーンに存在しないようなふざけた内容、ショッキングな映像、そして何よりしなやかでキレのあるフロウ! 楽曲の単純な格好よさはさておき、この汚い存在としての姿勢がシーンへのカウンター(そして若者への求心力)として大きく機能する結果となりました。既存のアングラ然とした楽曲に対する風通しのよさを感じ取ってもらえるかと思います。

 この楽曲が収録されたアルバム『Constant Dikester』はMr.Constant手がけるビートも手伝い、Classicのひとつとなりました。ここが彼のキャリアの本格的な始まりになるわけです。

 以後、彼は『The Sloshpot EP』『Return of the Twat』『Sucking On Prawns In The Moonlight』などのアルバムをリリースしていきます。

 

Dirty Dike - All Things Considered

 

Dirty Dike - One Drink?

 

Dirty Dike - Mallory & Josephine

 そんな絶好調な彼も過去に地元ケンブリッジの環境、そして家族に苦しめられていたとか。その様子に関しては本人のTwitterや一部の真面目な楽曲から伺うことができます

 

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 "俺がだいたい3歳くらいのころ、俺の母親は生活費のために俺をジャガイモの採集に連れていったんだ...俺の親父が牢獄にいる間な。人々は今でさえあの仕事をするのか? 俺は農場でそいつを愛したものだったな"

 

 彼の生い立ちが知れる楽曲『New Street』は2分未満と短いので全小節を訳してご紹介いたします...

 

Dirty Dike - New Street

"I remember every second of youth's grief
青春時代の悲しみ、その全ての瞬間を覚えている
My two feet stepping through the sections of New Street
俺の二本の足ニューストリート区画歩み過ぎる
Have you ever seen death as a kid?
お前はガキみたいに死ぬのを見たことがあるか?
Seen your best friends' parents injecting a pin?
親友の両親が針を注射するのを見たことは?
I was wise by age five, heroin's grim
俺は5歳で賢明だった、ヘロインは恐ろしい
I saw my friends mom die right next to the bin
俺は瓶のすぐ隣で友の母親が死ぬのを見た
The lesson begins, you've never seen a hippy speed addict
レッスンの開幕だ、お前はヒッピーの覚醒剤中毒者を見たことがない
Try and tell your little sister that he's yet to breath magic
お前の可愛い妹にアレが息の魔法にかかってないと話してみな

You ever seen your step dad in rage?
継父が怒っているのを見たことは?
And your mom press the buttons for a smack in the face?
そしてお前の母親が顔に平手打ちされるためにボタンを押すのを?
So back in the days, I went to see my dad in a prison
そうその頃、俺は牢屋にいる父親に会いに向かった
If you've never seen that best be glad that you didn't
もし見たことがないなら、お前がそうならなかったことが最高に喜ばしいね

From rags to the ribbons I've been listening plus
ぼろ布が跡形もなく裂けるのを聞いてきたうえ
I witnessed enough to disrupt my vision of trust
信頼の幻想崩すには十分なほど目撃した
Big and you're tough? As if you think I'm giving a fuck
大げさで不愉快だって? 俺が犯してると仮にお前が思うみたいに?
I'm skinny and broken hustling so give me your stuff
俺は痩せっぽちのイカれたペテンだよ、だからお前のモノをよこしな

Now I remember seeing Gary with the scabby arms
今、俺はカサブタだらけの腕をしたゲイリーを見ているのを思い出す
Peddling my raleigh past his happy little scaggy stance
彼の少し不気味な立場の幸せローリーの自転車を漕いで過ぎていく——
Puffy elbows were bigger than a tennis ball
——パフィの肘はテニスボールよりデカかった
Listen it's an intellect a kid could never get at school
聞け、こいつは子供が学校で永遠に得られない知恵だ
I had stories I didn't wanna tell a fool
俺には物語があって、馬鹿を話したくはなかった
And figured in my head, I wasn't living very well at all
そして頭の中で形取る、俺は全てにおいて立派に生きちゃいなかった
And nothing in the fucking fridge was ever edible
そして糞ったれ空っぽの冷蔵庫には食えるものは何ひとつなかった
Juggling the quids, through the summer at the festivals
1ポンドを出してはしまって祭りの夏を過ごしたのさ"

 

 アンダーラインの部分が韻、太字が脚韻の部分になります。聴いてもらっても見てもらってもわかる通り、彼のリリックは非常に韻律に凝っていることが分かると思います。しかもこの曲での"過去の回想"という一定のテーマを保ったままです。少なくとも日本でこのレベルのMCというのは存在しないかと思われますね...

 

 さらに彼は自身のクルー『Contact Play』に所属しており、芋づる式に同僚たちが次々とHigh Focus Recordsでデビューを飾っていきます(実はJam Baxterの方がデビューは先)。その連続がUK Hiphopをさらに盛り上げていったことは言うまでもありません。

 どのラッパーも素晴らしいので、追い追いチェックしてみてほしいです。

 

Jam Baxter - Incoming

 

Ed Scissor & Lamplighter - Week

 (どうでもいいですが、この曲を初めて聴いたときは軽く失禁しましたね)

 

Mr Key & Greenwood Sharps - Icarus Instinct

 

Ronnie Bosh - Escapism

 

Edward Scissortongue ft. Contact Play - Coma

 クルーが唯一全員集合している楽曲。Lamplighterのビートがあまりにも...人生の深淵みたいなものを覗かせます。

 

 さて彼のラッパーとしての実力は見てもらったとおりです。数々のクラシック、客演のバースなどを通過して現在の彼が居るわけですが...実はそれだけではありません。

 彼、実はプロデューサーとしても一級の実力があるのです!後半ではいかに彼がプロデューサーとして活躍し、そして音楽シーンに貢献したかを紹介していきましょう。

 

 

2.重厚なビートメイク、スターの発掘、輩出...

 

Rag'n'Bone Man - Human

 突然ですがこの方をご存知でしょうか? メジャーデビューアルバムが英チャート1位を獲得するなど、今のイギリスシーンで最注目のソウルシンガーことラグ・ン・ボーンマンです。英国最大の音楽賞『ブリット・アワード』2017の新人賞を受賞していることから、知っている方も多いかもしれません。

 ではメジャー以前の彼をご存知の方はいるでしょうか?

 あるいはインディー時代、彼のプロデューサーとして大きく貢献した人間の名前は...

 

 そうです。何を隠そう彼のメジャー進出にはDirty Dike、彼の功績が大きくあるのです!

 

Rag'n'Bone Man - Put That Soul On Me

 Dirty Dikeのビートはジャズのサンプルに図太いサブベース、という90年代ヒップホップの王道を行くスタイルなんですが、それがRag'n'Boneの声と合う合う!

 この曲はわずか3曲しか入っていないEPからの主題曲ですが、フルートの軽やかな音色が絶妙にソウルフルな歌声を縫うように引き立てていますね。

 

Rag'n'Bone Man - Across The Sky

 同EPからもう1曲...サビのパートを除きサブベースとドラムのみという信じられない構成なのですが...信っっっじられないほど格好良い!!!

 余計な音をはぶいた贅沢な音空間に、ホーンのサンプルへかけられたリバーブの反響音が染み渡るさまがなんとも言えません。スローなBPMがこのアダルトな雰囲気に拍車をかけていて、ただただ素晴らしい...

 

 Dirty Dikeのプロデューススキルはいかがでしょうか? もちろん彼がスター輩出に貢献した例はこれだけに止まりません。次はUK Hiphop随一のスキルと言われるこの方を紹介しましょう...

 

Ocean Wisdom ft. Dizzee Rascal - Revvin'

 畳み掛けるようなマルチプルライムと淀みなく流れるように多音節をいなす高速フロウ、そしてあまり耳慣れない絶妙な声質。Ocean Wisdomは2014年に突如シーンに姿を現し、その超絶スキルでシーンを席巻、あっという間にシーンのスターへと進出してしまったラッパーです。

 あまりに進出が早過ぎて、2018年にリリースした2ndアルバムではDizzee Rascalをはじめ、Root Manuva、Jehst、Rodney P、Chester PなどのUKのレジェンドを巻き込み、終いにはWutang ClanのMethodmanまで客演に呼んでくるなど、とどまることを知りません...

 

 さて、そんな新星Ocean Wisdomですが、彼がどういう経緯でスター街道をひた走ることになったか...ここにもやはり、Dirty Dike彼の存在が関わってくるのです。

 

Ocean Wisdom - Walkin'

 古い映画のサウンドトラックからサンプルしたかのような異様なビート、それを叩きのめすようなOcean Wisdomのラップ..."フロウの展覧会"とでも言うようなこの曲は一瞬でどでかいバズを獲得、ついでHigh Focusと契約、1stアルバム製作開始...と怒涛の勢いで事が進んでいきます。

 そして1stアルバムの詳細が発表されるわけですが、そこで並んだ文字は...全曲Dirty Dikeプロデュース!

 

Ocean Wisdom ft. Remus - O Kiddi K

 Dikeの援護射撃を受けたアルバムは統一感がすさまじく——あとはまあ前述した通りです。High Focusの面々による客演も素晴らしく、UK Hiphopの新時代を予感させるアルバムとなったわけでした。

 ところでこの曲で客演しているRemusっていうラッパーのスキルがまた壮絶で(個人的に主役を食ってると思います)、いったい何小節蹴ってるんだ?っていう熱量もたまりません。

 

 さてここまでスターダムを駆け上がったプレイヤーを紹介しましたが、もう一人、変わり種も紹介しましょう。今度は一転して"アングラシーンのスター"です...

 

Lee Scott - Tunnel Deep

I tried to get a job once but they were too suspicious
俺はいちど職を得ようとしたが奴らは懐疑的すぎた
Like what sort of human is this
まるで「こいつはどういう種類の人間なんだ」みたいに
It's a brutal business
コイツは残酷なビジネスだぜ
If only Dr Dre would do me mixes
もしドクタードレが俺を混ぜるつもりなら
My name would suit the Rich List laaaah
俺の名前は富豪リストに見合うだろうにな〜〜
A bit blitzed eating shark fin and chips
ちょっとチンした食いかけのフカヒレとフライドポテト
Extinct spotted ham fish dish left to rot in the fridge
絶滅した斑点付きのハム魚料理を冷蔵庫に腐れに隔離した

 

 奇妙で笑わせるリリックに英国一きったない発音、そして戦車のキャタピラを思わせるような鈍くもたれるフロウ...Blah Records所属のLee Scottは前述したふたりのスターに比べ知名度に劣りますが、UK Hiphopコミュニティの中で知らない人間はいない、くらいの存在です。

 ちかごろ彼がリーダーを務める名のままカルトじみたクルーCult of The DamnedはSkepta(!)などのグライムMCにツイッターでコメントされ、メジャー層の人間からもちょっと注目を集めるまでになっています。

 

Cult of The Damned - Civilized

 Cult of The Damnedの面々はソロ名義でBlah Recordsに曲を落としているので、気になる人はYouTubeでチャンネルをチェックしてみてください。オススメはBlack Joshですね。

 さてそんな彼を一層有名にしたのが...もう言う必要もないでしょう。彼です。

 

Lee Scott - Everythang is Money

 

Lee Scott - Manatee Rap

 

Lee Scott - Eight O'Clock In The Morning

It’s a still summers day, but it sounds like autumn
それはまだ夏の日、だが秋のように聞こえる
When I’m walking on the remains of memory lane
俺が記憶の細道を歩いていると
Like dry leaves that crunch beneath me feet
まるでバリバリと足元の枯葉が——
But when I look it’s just the concrete cooking in the heat
——だが俺が見やるとそれはただの熱に焼かれたコンクリート

 

 ハッキリいって傑作です。アルバム『Butter Fly』で繰り広げられるビート群は一級品なんてものではなく、いつも以上に多彩でトリップ感を湛えたそれに乗っかるLee ScottのラップもBlah Recordsで披露するより力が入ってるように聞こえます。カリスマとカリスマのタッグ...傑作にならないわけがありません。

 なによりスゴいのがアルバム通してこのクオリティが維持されていることで、完成度はさながらケンドリックラマーの盤です。ぜひ購入を勧めますね!

 

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 いかがでしたでしょうか。追えば追うほど彼のリビングレジェンドっぷりが理解できるかと思います...Twitterを見るとどうやら新作への準備が着々と進んでいる模様なので、知らなかった人はこれを気にYouTubeをサーフィンするなりして、未知の傑作へと期待を膨らませるのがイイと思います。

 稚拙でしたが以上、Dirty Dikeの提灯記事でした!また次回〜〜!

 

 

【整理】自然な語順で韻を踏むには?

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「昔々、あるところにお爺さんとお婆さんがおりました。

 お爺さんは山へ芝刈りに、お婆さんは川へ洗濯に...」

 

 読んでみてください。ごく当たり前に知られている昔話、桃太郎の導入ですね。使い古された古典です。では、この文章を単語の脚韻を踏みながら書き直してみましょう!

 

 ...と言われたとき、どうすればいいでしょう?

 

  最初の一文をいくつかに分けてみます。「昔々」「あるところに」「お爺さんとお婆さんが」「おりました」...ではこれらを"体言止めになるように"並べ替えてみましょう。手法は過去記事『倒置押韻法とそれによる弊害』『部分倒置をつかって動詞で脚韻をふむ』に書いた方法を用います。

 

 

 では並び替えてみます。するといくつかのパターンに分かれますが...

 

① 昔々、おりました - あるところに老夫婦
② あるところにおりました、お爺さんとお婆さんが昔々
③ 昔々、おりました - お爺さんとお婆さんがあるところ
④ 昔々、あるところにしていました - お爺さんとお婆さんが存在(居住)

 

 このようになります。馬鹿馬鹿しいですがひとつひとつ検証していきましょう。

 

 まず①、『お爺さんとお婆さん』の末尾『お婆さん』は接頭辞"お"接尾辞"さん"がくっついた3語と捉えられるので、これらを分解して"婆"一語のみを体言止めに持っていきたいです。

 しかしこの"お""さん"は倒置が不可能です。よってひとまずここでは『お爺さんとお婆さん』を『老夫婦』という単語に置き換えることで体言止めという条件をクリアしました。しかしこの場合、『お爺さんとお婆さん』というくだけた言葉遣いができなくなってしまいます。

 

 ②は『昔々』で体言止めをしましたが、この一語のみを倒置すると『あるところにお爺さんとお婆さんがおりました -昔々』のように倒置が最後に急にきて文章のリズムが悪いので、『おりました』という語も文章のはやい段階へと倒置しました(この"倒置の急さ"に関する記事はいずれ書きたいと思います...)。

 この体言止めの欠点は『昔々』という汎用性のたかい言葉でしか押韻できないため、多様な昔話を作るのに向いていないというところでしょうか。つづく③も同じような倒置を用いています。

 

 そして④は前述の記事で生み出した"部分倒置"の手法を使って、『おりました』を『存在/居住』『していました』の二語にわけ、後者を倒置した形になります。この形式によって『昔々』『あるところ』などの汎用性の高い語を避けることで、韻律に多様性を生み出すことができます。

 しかしご覧の通り、とても一文が長ったらしくなってしまいました。加えて『存在/居住』という単語はとても昔話の導入としては堅苦しく、子供に聞かせるための語とは言えません...

 

 そして倒置押韻詩という前提を取り払って考えてみましょう。この4つの文章はどれも子供に寝床で聞かせるには文として不自然すぎます これが節にあわせた手毬唄かラップか何かならまだ大丈夫でしょう。しかし「おはなし」として聞かせるときこの形式では普段つかう口語からはあまりにもかけ離れていますし、とうてい無理があることは確かでしょう。

 

 これまでのいくつかの記事で筆者はこのような非口語的な文章を前提として倒置法を考えてきました。しかし考えてみれば叙情詩は口語であることが多いですし、ラップならなおさらです。なにより一般人が踏み込むには事前知識が多く、敷居が高すぎます。

 

 もちろんこれらの前提は国語などの教育過程に押韻が組み込まれることで解消されていくでしょう...しかしそれでも、英語や中国語やフランス語などは口語の延長で定型押韻詩が書けるわけで、日本語でそれができないとは言ってられないと思うわけです。そもそもそれが日本語ラップの普及の障害になってきたことは明らかです。

 

 ではどうすればいいんでしょう?ということで、初心に帰って以下の例文を見てみることにしましょう。

 

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 以前この文章を紹介したとき、筆者はふた通りの倒置方法を紹介しました。ひとつは動詞を手前に持ってくる、K Dub Shine以降の一般的手法です。

 

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 実際にはこの「たべる」に「よ」などの口調を付け足し『わたしは 食べるよ りんご』のようにすることで、堅苦しさや「食べるりんご」で一つの目的語になってしまうバグを解消する、ということを提示したとおもいます。

 ふたつめに紹介したのは動詞「食べる」を熟語と接尾辞に分割し、接尾辞の部分を倒置する方法でした。以下のように...

 

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 こちらの場合も「する」の後に口調を付け足し、堅苦しさを解消するということを述べたと思います。

 しかしさて前述の通り、このような体言止めは口語には見られず、一般人のひとたちが触れるには不自然極まりありません。というわけで、必然的に体言止めという手法を禁止することになります。

 

 さあここからが本番です。問題を明確にしましょう。

 我々が今回目指しているのは『口語の延長にある定型押韻詩』です。口語の、延長にある...定型押韻詩。

 『定型の、押韻を使った詩』と考えてみてください。つまり、"脚韻"でなくてもいいのです。定型でさえあれば、です。なので例えば、文章の頭で踏む韻、"頭韻"でも定型であれば定型押韻詩なわけです

 

 しかし日本語の語順はSOV型であり、文のはじめにくるのは一般的にS、つまり主語です。日本語ではしばしば主語をはぶくことができますが、基本的には主語、目的語、動詞の順です。もちろん主語のみでは韻のパターンは限られてしまうでしょうね。

 

 そしてもうひとつ重要なポイント...一体なにが口語に近く自然なのでしょう?

 思うにそれは文末の接尾辞、そして口調に尽きるでしょう。例えば「今日ネットで新しい音楽を知った。アレは面白そうだ」と適当に口にしてみると、この2文の末尾はやはり『知/った』『そう/だ』のように接尾辞になっています。やってみてください。

 実際、この記事の文の90%以上は文末が口調で終わっているかと思います(確認はしませんが)。つまり自然な文章を書くうえでは、動詞に付随する接尾辞や口調が最後にくることが日本語では絶対条件になるということです。

 

 条件をいくつか並べたので整理しましょう。

 

  ①文章の頭に韻を置き

  ②主語以外の語を用いて踏み

  ②動詞などに付随する接尾辞、口調が最後にくる

 

 これらの条件を満たす文章を構成すれば、定型押韻への道が開けるはずです。ではかんがえてみると...出てくる答えはひとつに絞られるかと思います。

 つまりこう!

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 目的語(O)、主語(S)、動詞(V)の順番に並べ換えるわけです!筆者はここでこれをOSV倒置と名付けることにします。そして頭の目的語『りんご』で韻を踏む...どうでしょう。「りんごをわたしはたべる」のように、文章も至って自然といえます。この勢いに乗って、適当に定型押韻詩も書いてみました。

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 どうでしょうか?文章は自然なまま、文頭で『インド-りんご-ミント-人魚』の語で韻を踏んでいます。音として弱いと思う場合は1語でなく2、3語で踏むなどすると効果的かもしれません。逆に音が少々しつこいと感じる場合はABABの四行連にするなどして、韻律の起伏をおおきくすると良いとおもいます。

 

 このOSV倒置は自然な語順で韻を踏みながら文章が書ける以上に、英語のWhileやBefore、Whenなどにあたる語を使って押韻詩が書けるという点が特筆すべき点です。従来までの体現止めを駆使した韻文のばあい、どうしてもこのような接続詞を組み込む際に無理が出てしまっていました。よってほぼ全てのラッパーは接続詞そのもので韻を踏んでいます("今日も浴びる/辛さを忘れるため"とかそんな具合に)。

 

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 というわけで今回はOSV倒置を使った自然な語順の定型押韻詞を提案してみました。もちろん万能ではないですし、使っていくうちに問題点も多々浮き出てくるでしょうが、ソレはソレです。なにせこんな方法論は従来存在しませんでしたしね!デバッグ作業に勤しみましょう...

 

 ではまた次回のTipsでお会いしましょう。...おっと、忘れていました。昔話の導入を韻を踏みながら書き直すのでしたね。ではこちらの作文をもってお別れといたしましょう。韻のおもむくままに...

 

老夫婦が昔々、あるところにおりました。

高級酒を飲み干して、お爺さんは山へ、

要手術の病を押して、お婆さんは川へ...

 

 

【駄文】"老い"への羨望

Madvillain - Accordion

"Living off borrowed time, the clock tick faster

借りた時間に生き、針の傾きは速度を増していく"

 

 "I-C-E cold, Nice to be old

氷結はつめたく、老成はめでたい"

 

 老いることに憧れがある。もちろん自分の父親や飲食店で怒鳴り散らす中年男性を見ては「ああはなりたくない」と思ったりもしたが、正しく老いた人は魅力的だ。バイト先に居た古い女性店長(もういない)の厚化粧の奥にのぞく"熟れ"を見るたびドキドキと胸を鳴らしたものだったし、気がつくと聴いている音楽も中高年が歌唱、演奏しているものばかりになってしまっていた。

 

 少し考えてみて分かったが、自分は老い老いることそのものでなく、「老いを肯定しつつそれを恥じもする人」に惹かれるんだなと思う。例えば前述の女性店長は『化粧越しに垣間見える老い』が、老年の音楽家は『年齢と技術に裏打ちされつつも未開の境地を探ろうとする意志』がそれぞれを素晴らしくしている理由になっていると感じる。逆に恥じていない人は魅力的には映らない、ということかもしれない。

 

Lucinda Williams - Dust

 あと『老いそれ自体の素直さ』だ。老いそれ自体は抗いようがないし、思春期の悩みにありがちな"毎日トイレで排便する生理的な汚さ"とか"体毛の成長への嫌悪感"よりは段階的で長期的だ。皮膚と声は片道を一方に進むし、嘘がつけない。「素直なのはいいことだ」と中学の担任も言っていた。上の口では...え?

 

Mose Alison - My Brain

 "皮膚と声は片道を一方に進む"と書いたが、これは例えばインストのジャズプレイヤーなんかを聴くとよく分かると思う。楽器の演奏者の場合、なんの記載も見ずに数十曲を聴いて時系列順に並べるといったことは難しいと思う。もちろん録音技術とかを省けばだが。だが歌手だと比較的容易だ。『演奏が枯れる』とは言うが、声ほどはハッキリと映らない。

 

Norma Winstone - Giant's Gentle Stride

 ではなぜそれらに憧れてしまうのか...と考えてみる。ひとつに自分の若さ、存在のうわつきに対して時間の蓄積、経験の重さを感じるというのがある。あとは『自分より死に近い存在』という神秘性が由来しているかもしれない。学習によって手に入らない、時間だけがそれを与えるという手の届かない感じ。

 威厳ある彫刻や写実的な油彩のような彫りの深さを魅力的に感じるが、それは肉体をともなっていて、そこから"生"を意識させられるから、というのもあるだろう。現代の環境は機能的すぎて屠殺や飢餓のグロテスクさからは遠く、潔癖でつやつやした若者からはそれらの"生"は得られない。

 

Tom Waits - All The World Is Green

 ...などと書いてきたが、あくまで老成の成功例、しかもその表面だけを摘み上げてああだこうだとくだを巻いているだけで、ほとんどの場合「老い」は醜いのも確かだ。いずれは粗相した汚物を見下ろしてパンパースを履かなければならないと悟る日がくるだろうし、介護施設で何も食べてないのに口をくちゃくちゃ鳴らして、若い連中に便器を磨かせたりするわけだ。

 

Jehst feat. Ennio Lion & Mr. Thing - Smoke Screen

 まあそんなわけで老いに憧れているというよりは『老いへの恥』に心を動かされるのかなと思う次第。だから理想的な老人になるには恥を忘れないことがなにより、と結論づけておくことにする。そういえばパンク詩人と銘打たれたチャールズ・ブコウスキーも、賭博に外出するときは必ずスーツだったそうな。なるほど。

 

 ところでロリババアっていうジャンルがありますけど、あれ口調以外何一つ加齢してないしフェイクですよね。もっと皮膚と声の年齢を高めるべきだと思います...艶のある中年声優使うとか、目尻やまぶたの皺を描くとかそういう...説得力がないですよ!

 

【Grime】グライムって何——③ラップはどう違う?

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「ビート作ったよ!で、どうラップすればいい?」

「とにかく早口で詰め込んだけど...それっぽくならない!」

「...早すぎて滑舌足りないんだけどどうしたらいい?」

 

 2000年前半、グライムラップはUKガレージのそれとの差別化を図るために、ある面で単調とも言える"強い形式美"に重きをおくようになりました。それは現在のUSトラップがヒップホップから独立する過程で(Migosなどによって発明された)三連符のフローを多用するに至ったのと似ています。

 では具体的にどのような形式があるんでしょう? 今回3回目となる本記事では、実際にグライムの楽曲とそのリリックを参照しながら、いくつかのパターンに分けて考えていきます。そして英詩の構成を踏まえた上でどう日本語に置き換えていくか? ということも提案できればと思います。ではやっていきましょう...

 

1.基本形——拍の頭で脚韻する

 Stormzy - Shut Up

  1拍 2拍 3拍 4拍
1小節 Comes/-/eve/ry where/-/I/- go/-/-/- I/-/can't/-
2小節 run/-/when/my e/ne/mies/- show/-/-/- Walk/-/in/the
3小節 club/-/with/- all/-/of/my thugs/-/-/- Par/-/ty's/-
4小節 Done/-/eve/ry bo/dy/go/- home/-/-/- -

 グライムの基本は4小節単位で韻律を組み、その拍の頭でアクセントを取ることにあります。このような整然とした形式になったのはヒップホップなど既存のラップ音楽との差別化を狙った結果、というのは前回の記事などで述べたとおりです。

 Stormzyのこのバースでは3拍目に文末がくるようにラップが調整されていて、その拍の頭で「go」「show」「home」などの単語で押韻されているのが分かると思います(表が見づらくて失礼)。

 ちなみに3小節目の文末が「thug」で他行と韻を踏み外していますが、これはグライムラップによく見られる手法で、形式にとらわれ過ぎてリズムが単調になることを避けるためもっぱら使われています。

 

Roll Deep - When I'm Ere 

  1拍 2拍 3拍 4拍
1小節 -/-/-/- They/call/-/me Trim/-/when/I'm ere/-/Be/tter
2小節 know/I'm/on/a bad/-/boy/- thing/-/when/I'm ere/-/Like/-
3小節 Roach/-/I/swing -/I/don't/- link/-/when/I'm ere/-/These/-
4小節 grand/-/fa/thers hear/-/my/- swing/-/when/I'm ere/-/-/-

 グライムではしばしば文末を同じ単語で統一するという手法が用いられます。このRoll Deepの代表曲では全員が『When I'm ere(俺がここにいる時)』という文句で全行を締めています。

 ですが表で見た通り、文末を同じくした時にもその直前の語で韻を踏むのがマナーとなっているようです。この場合「Trim」「thing」「link」「swing」の4つですね。そしてやはり、韻を置く位置は拍の頭となっています。

 

Jammz ft Scott Garcia - It's A London Thing

  1拍 2拍 3拍 4拍
1小節 -/I'm/from/my place/-/where/the ci/ty/don't/- sleep/-/So/-
2小節 man/-/can't/- roll/-/with/the take/-/time/- don/-/Hung/-
3小節 ry/you/know/- me/I've/got/- get/-/mine/- don/-/I/don't
4小節 wa/nna/be/a stru/ggle/or/a get/-/by/- don/-/-/-

 こちらの曲はまさに文末統一の手法を多用して作られた曲で、「don」「zone」「Endz」...といくつかの語に移動しながら詩が記述されています。

 注目してほしいのはこの3拍目、「take time」「get mine」「get by」といった風に2語に渡って押韻されているんですが、この時も必ず拍の初めから韻を配置しているのが分かると思います。

 こんな感じで、単語、複数語に関わらず拍の頭に韻を揃えてあげるのがグライムラップをする上での基本となります。

 

 では次に、上記の基礎を応用したフロウをいくつか紹介したいと思います...

 

2.大きく間を開けたフロウ

Wiley ft God's Gift - And Again

  1拍 2拍 3拍 4拍
1小節 -/-/-/- -/-/-/- -/-/-/- -/-/-/-
2小節 It's/a/new/- day/-/now/- blud/I/ain't/- hold/-/ing/
3小節 back/-/-/- -/-/-/- -/-/-/- -/-/-/-
4小節 Spit/-/bars/- like/I'm/on/an old/-/school/- Roll/-/deep/-
5小節 track/-/-/- -/-/-/- -/-/-/- -/-/-/-
6小節 Went/-/top/- five/-/with/the sound/-/that/- I/will/-/per
7小節 sue/-/-/- -/-/-/- -/-/-/- -/-/-/-
8小節 But/I've/go/to let/-/them/- know/I/ain't/- on/-/ly/-
9小節 that/-/-/-      

  グライムは何も詰め込むだけが全てではなくて、たまにはゆったりとビートを乗りこなす場合もあります。Wileyのこの曲では1行リリックを吐きだすごとに1小節と大きく間を取ることで、楽曲に余裕や落ち着いた印象を与えています。

 押韻の配置も「holding back」「Roll Deep Track」「only that」と4拍目から次の1拍目にまたがることで、ラップ自体がビートに新しいグルーブを生み出すことに成功しています。3行目が意図的に踏み外しているのは前述の通り。

 また、間の空いた部分に掛け声(合いの手)を入れたりして、間延びした感じをなくしたりもしていますね。

 

Dizzee Rascal - Sittin Here

  1拍 2拍 3拍 4拍
0小節 -/-/-/- -/-/-/- -/-/-/- I'm/-/just/-
1小節 sitt/-/ing/- here/-/-/- I/-/ain't/- say/-/ing/
2小節 much/-/I/- just/-/-/- think/-/-/- -/-/My/-
3小節 eyes/-/-/- don't/-/-/- move/-/-/- left/-/or/-
4小節 right/-/they/- just/-/-/- blink/-/-/- -/-/I/-
5小節 think/-/-/- too/-/-/- deep/-/-/- and/-/I/-
6小節 think/-/-/- too/-/-/- long/-/-/- Plus/-/I/-
7小節 think/-/I'm/- gett/-/ing/- weak/-/-/- cause/-/my/-
8小節 thoughts/-/are/- too/-/-/-  strong/-/-/-   

  Dizzee Rascalの1stアルバム、そのintroにあたるこの曲ではBPM162の速度に対して半分のBPM81でラップを割符することで、ぽつぽつと語り始めるような雰囲気をかもし出しています。早口という印象が先行しがちなグライムには珍しい楽曲ですね。

 そこから一転してhookになると高速なフロウに切り替わったりして、楽曲にうまく緩急ができています。グライムではないですが、似たような構成の楽曲ではAesop RockのBig Bangあたりが参考になるかもしれません。

 

D Double E ft Wiley - Better Than the Rest

  1拍 2拍 3拍 4拍
0小節 -/-/-/- -/-/-/- -/-/-/- -/-/Cuh/-
1小節 you/can/put/- me/-/to/the test/-/-/- -/-/-/-
2小節 Blood/-/there's/- no/-/con/- test/-/-/- -/-/-/-
3小節 Which/-/sound/- boy/-/wa/nna test?/-/-/- -/-/Right/-
4小節 now/-/blud/I don't/-/care/- less/-/-/- -/-/You/can
5小節 make/a/bird/- call/-/to/the nest/-/-/- -/I/got/-
6小節 man/-/that/- wa/nna/in/- vest/-/-/- -/I/got/-
7小節 le/-/bels/- show/ing/in/te rest/-/-/- -/-/Can/you
8小節 smell/-/that/- le/-/mon/-  zest?/-/-/-   

  D Double Eのこのバースでは3拍目から4拍目にかけて間を取っていますが、同時に「test」「contest」「nest」「invest」「interest」「zest」とほぼ全ての行にわたって「est」の完全韻で揃えられていて、非常に整然とした印象を受けるかと思います。

 こんな風に、整った韻律と間を取ったフロウはちょっとした高尚な響きをもたらしてくれるので、表現にひとあじ加えたい時には意識するといいかもしれません。Dizzee RascalのJust A Rascalという曲でも似た構成のバースが確認できます。

 

 ではこんどは逆に、整理されていない、あるいは間を取らないラップを見ていきましょう。意外にもグライムのラップは多様です...

 

3.ライムを混濁させる

 

Mr.Mitch ft P Money - Priority

  1拍 2拍 3拍 4拍
1小節 -/-/-/Thank -/you/for/the life/-/I've/been blessed/-/with/-
2小節 -/-/-/- -/-/Black/- tra/-/cky/black -/hat/-/still
3小節 feel/-/ing/re flect/-/ive/- -/-/Re/mi ni/scing/a/bout
4小節 -/life/-/and then/high/-/light -/ing/all/the best/-/bits/-
5小節 I'm/start/ing/to see/-/why/- I/was/be/ing test/-/ed/-
6小節 -/Feel/-/ing god/-/like/- -/Let/me/ex plain/-/be/fore
7小節 -/you/get/o ffend/-/ed/- -/-/He/cre at/ed/us/I
8小節 cre/at/ed/a son/-/now/I see/-/life/- from/his/-/per
9小節 spect/-/ive/-      

  P Moneyはこの曲でライムスキーム(韻律構成)をことごとく掻き乱していて、今までに紹介した曲と見比べてもらえば分かる通り『同じ拍で韻律を揃える』という暗黙の了解を無視しています。

 太字の箇所はすべて同じ韻律ですが、「blessed with」「best bits」「tested」は4拍目、「reflective」「offended」は2拍目、「perspective」は1拍目とズレており、レイドバックした(オフビートの)フロウと相まって混沌とした心模様をうまく表現できています。

 ちなみに「reflective」「offended」「perspective」の3語が拍の頭にあっていないように思われえるかもしれませんが、これは英語の発音の強弱を利用したもので、例えばこの場合「reFLECTive」「oFFENDed」「perSPECTive」の大文字部分を強く発音するので、結果的に拍の頭に(音楽的に)揃っているように聴こえるわけです。

 

 さらに2小節から4小節目を見てもらうと「Black tracky」「black hat still」「about life and」「highlighting」でそれぞれ中間韻を踏んでいるんです!耳あたりもさることながら、彼の純粋なスキルの高さをここでは伺うことができます...

 

President T - T on the Wing

  1拍 2拍 3拍 4拍
1小節 -/-/-/- Touch/-/ing/the sur/-/face/- but/it/ain't/-
2小節 touch/-/ing/the sides/-/-/- 'Nuff/of/these/- guys/-/are/-
3小節 tak/-/ing/- steps/-/-/- -/But/I'm/- tak/-/ing/-
4小節 strides/-/-/- -/I/was/in H/-/M/- P/-/-/-
5小節 And/left/-/for dead/-/-/- -/-/Don't/- men/-/tion/-
6小節 where/-/you/were born/-/-/- if/you/ain't/- mak/-/ing/-
7小節 bread/-/-/- so/far/-/a head/-/-/- -/I/mean/-
8小節 when/I/check/it out/-/-/- Ain't/-/done/- half/-/of/my
9小節 sent/-/ence/- stuck/-/in/-  pen/-/-/-   with/out/-/re
10小節 pent/-/ance/-      

  President Tはグライムシーンでも飛び抜けて奇妙なスタイルで知られていて、その野太い声に似合わない激しい抑揚はもちろん、そのリリックのライミングも独特で、聴いていると一体どこが小節の境目なのか分からなくなってきます。

 冒頭10小節では「sides」と「strides」、「steps」と「dead」と「bread」と「head」が脚韻、「half」と「stuck」が中間韻、しまいには「taking」と「HM」と「mention」と「making」の中間韻が「sentence」「repentance」の脚韻に対応...といった具合に、奇抜なフロウに隠れてリリックもとんでもない技巧で形成されています。

 そしてここまで混沌とした内容にもかかわらず、やはり拍の頭で韻をふむという前提は守られているのが分かると思います...

 

 4.おわりに

J-mal ft Korea X Japan Allstars - Next Level Asia Remix

 

 いかがでしたでしょうか? グライムラップをする上でのリリックの書き方、みたいなものが捉えられてきたでしょうか。ここからどう日本語に落とし込むか...これからMCを目指す人に少しでもヒントになれば幸いです。

 

 最後にこれは筆者からの提案ですが、本場のラップのように脚韻をピシっと決めるには90年代の日本語ラップのように体言止めを多用するのが望ましいように思います。

 というのも、現在の訓読みによる自然な語順のラップですと1単語で韻をふむのに何音節も使ってしまい、グライムのようなシンプルな(1,2音節の)リズムをつくるのが難しいのです。(なぜ単語単位で韻をふむという前提なのかというと、その方が音楽として歯切れがイイからです。詳しい説明は省きますが、あとこんな理由もあります

 その点、音読み(熟語)は1単語あたり2音節ていどで効率がいいため、グライムのようにタイトなラップをするうえで相性がいいのでは...と考えます。まあこの辺りはこれから日本語グライムを開拓していく方々に任せたい!

 

 そしてオマケですが、「グライムのラップしたいけど今はまだビートが作れないよ!」という方のために下に小さなインスト集を公開したので、練習がてらご自由にお使いください(稚拙なのはご愛嬌...本職じゃないし!)。使用した際はコメント欄でご報告いただければありがたいです。

 インストはこれからも小規模に制作を続けつつ、そのうちコンピの企画でもして少しでも日本語グライムシーンに貢献していけたらと考えています(あるいは誰かやって)...そのときはよろしくお願いします。

 

 

 以上、三部にわたるグライム紹介記事でした!大手メディアの方々、もっと紹介に邁進してくださいね!

 それではまた次回!

【Grime】グライムって何——②どうビート作るの?

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「グライムやってみたいんだけど、どうビート打ち込めばいいの?」

「ぶっちゃけトラップと一緒じゃない?」

「どうやってもダサくなっちゃんだけど...」

 

 これは聴き漁ってみて感じたことですが、どうも『グライムのビート』というのは1種類に収まるものではないらしいです。というのも、グライムがそもそも2stepやUKgarageなどから派生し、Dubstepなんかを通過し、Cloud RapやTrapなどがUSからやってきて...と長い時間を経て様々な影響を潜ってきているので、一概に「コレこそグライムだ!」というサウンドを断定することが難しいのです。

 

 なので、今回は様々な音源を比較していくつかの分類に分けつつ、それぞれの特徴を把握していく記事にしたいと思います。今回は各アーティストの説明などはハショらせていただきます(というか詳しく知らない)。中にはグライムっぽくないな、みたいなものもありますがご了承をば。

 そして筆者自身も新参者なので事実認識などテキトーです。そのあたり大雑把に捉えていただければ(失礼!)。それでは最初はグライムの原点...ではなく、それ以前よりあったGarage rapから聴いてまいりましょう。

 

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1.Gagage Rap

 

Pay As U GO Cartel - Champagne Dance

 Garage Rapのビートはシェイカーやハット、ベルが16分(若干スイングぎみ)で刻まれつつ、シンセのサブベースが小粒に乗せられる、という構成ですね。スネアやキックの位置に特に決まりはなく、とりあえず4つ打ちは避けられているといった感じでしょうか。曲調は明るいものが多いように見受けられます。

 ちなみにPay As U Go CartelはWileyがガレージ時代に所属していたクルー。3番手でよくわからない動きしているのが彼になります(失礼)。

 

The Streets - Has It Come to This?

 ザ・ストリーツこと00年代のソングライティングを変えた男、マイクスキナーもGarageビートに乗っかっています。ラップはポエトリーに近いオフビートながら、自家製ビートはしっかりGaregeの特徴を掴んでいます。

 

The Streets - Weak Become Heroes

 こちらのビートではスネアが大胆に省かれていて、エレクトリックピアノのシンプルなリフと相まりとても洗練された印象に仕上がっていますね。

 

More Fire Crew - Oi

 こちらは2001年、ガレージラップとグライムの過渡期にあった曲になるそうです。"音程の少し高いサブベース"そのものが主旋律のメロディーを奏で、ハットは16分ながらやや間の空いたものに。ラップのノリも表拍に重きを置いてシンプルに統一。この辺りからグライムっぽいラップが出現し始めるようです。それでは次は本番、初期のグライムを見ていきます...

 

2.Oldschool Grime

 

Wiley - Wot U Call It?

"Listen to this - it don't sound like garage
コレを聴け——コイツはガレージには聴こえないな
Who told you that I make garage?
俺がガレージを作ってるって誰がお前に話したんだ?
Wooly Kat'z got his own style s'not garage
ワイリーは彼自身のスタイルをやったのさ、ガレージじゃねえ
Make it in the studio but not in the garage 
スタジオで作るが、ガレージの中でじゃねえ"

  2004年リリース。"コイツを何て呼ぶ?"の表題通り、当時は『Grime』という名称が付けられていなかった模様。メロディはガレージから一転して荒々しいものに変わり、ハイハットはよりランダムかつ間を大きく。スネアは偶数拍を打つハネを残しつつも、ガレージより数を少なくしています。何より、サブベースが存在しない!

 この初期グライムのビートは俗に『Eski beat』(彼の初グライムビート"Eskimo"から取っている)と呼ばれているそう。荒々しく、若干ノリが軽くはあるけれど、もっともグライムらしいと言えるビートです。

 

Crazy Titch - I Can C U

 強烈な発声とフロウで異彩をはなっていながら、殺人容疑でグライムシーンの黎明期に刑務所送りとなってしまったMCことCrazy Titch...と紹介はともかく、ハットの途切れ方、スネアのハネ、ベースが上ネタなところがまさに初期グライムな感じです。

 

Kano - P's and Q's

 ガレージからグライム、ロックみたいなビートまで起用に乗りこなすKanoによる初期のグライム・クラシックです。上ネタのホーンをなぞるようにサブベースが添えられていますが...まあ、ほぼほぼEski beatに乗っ取ったビートと言えるでしょう。ビートに関係ないですが、このKanoのバースの形式美が素晴らしい...

 

Dizzee Rascal - Fix Up Look Sharp

 ちょいと注目。この曲は紛れもなくBilly SquierのThe Big Beatのまんま使いかつ、BPMも140でない比較的遅いビート(ヒップホップとすら言える)なんですが、どうでしょう...グライムっぽく聴こえませんか!?

 これはまさしく初期グライムの持っていた『サブベースレス』『間隔の大きく空いたハット(ここではもはや存在しない)』という形式に加え、ディジーオールドスクールなノリの定型ラップ、発声が伴っているからに他ならないと思うんですよね。この曲はグライムのサウンドを考える上でかなり重要な曲だと思っています...

 

 そして第一の黄金期が終わり、しばしGrimeの冬がやってきます...

 

3.Late 00's Grime

 

Ruff Sqwad - Together ft. Wiley

 Ruff SqwadはRoll Deepに並ぶ初期グライムの代表的クルーのひとつで、『Pied Piper』や『Misty Cold』など、他を圧倒するほど冷血なビートの楽曲に定評があります。この曲はそんな彼らには珍しいチル系のビートなのですが...サンプリング使いなのもあり若干グライムらしくない曲になっています。

 2005年リリースであり、当時の古参ヘッズには紛れも無いグライムチューンらしいのですが...この曲は上記の『Fix Up, Look Sharp』と並んで「グライムとは何か?」を考える上で良い参考になると思います。

 

Wiley - Bow E3

 Wileyによる2007年作『Playtime is Over』より。繰り返されるボイスサンプルが特徴的ですが、それ以上に気付かされるのはランダム性を減らしたハットとハネの無くなったスネア、そして何よりサブベース!サブベースが従来より音程を低くし、よりビートの重心を低くしています。この辺りからグライムは少しづつトラップに形態を近づけていきます...(といっても当時はTrapなんて存在しなかったわけですが)。

 ちなみにアルバムリリース当日はDizzee Rascalの『Maths & English』のリリース日でもあり、そのアルバム1曲目には『Pussyole』というWileyディス曲が収録されていたり...そしてその一年後、Wileyは『See Clear Now』とかいう黒歴史をリリースして周囲から顰蹙を買い始めることになります。ゴッドファーザー。。。

 

P Money - Left the Room

 UK発のダブステップがグライムシーンと合流するのは自然な流れだったようです。BPMも合わせやすく、ビートの乗りもグライムのソレより単純で分かりやすく一般人ウケが良い罠(ただしローカルに留まらず世界に派生した結果、本家本元の"Dubstep"はアイデンティティを一時喪失してしまった模様)。時を同じくしてDizzee以降大きな出世が見られなかったMCたちもメジャー界隈に進出...という見方でいいんでしょうか?

 P Moneyは上曲の他にも『Slang Like This』というダブステップビートの曲で混沌としたワードプレイを披露しているので是非聴いてみてください。歌詞みても何言ってるかわからなくて面白いです(爆)

 

JME - Serious Remix 

"You're a wasteman if you're 29
お前は惨めだよ、もしお前が29歳で——
And you're still posing by a road sign
——未だに道路標識の横でポージングしてるならな
You need to think about your lifetime
お前は自分の生涯について考える必要があるぜ
Before you hit 40 with a shank In Your 9
お前が模造の小銃弾に酔っぱらう前にな"

 

  2006年にリリースした代名詞『Serious』によってJMEはグライムシーンでの名声を獲得するわけですが、ここで鳴っているビートはまさに"シリアスな"グライムそのものであると言えます!ハネのあるスネアに間隔の空いた——ってこれ以上繰り返すのもヤワですね。

 しかし10年代に入り、グライムのビートはさらに多様に変化していくことになります...

 

4.10's Instrumental Grime

 

Murlo - Into Mist

 10年代に入る時期を前後して停滞していたグライムラップシーンと入れ替わるように、Big Dadaのリリースしたコンピ『Grime 2.0』など"インストグライム"と言えるシーンが興隆します。...ってネットに書いてありました(爆)。Eski beatに見られた荒々しさとは対照的に、間をさらに大きく使った上品とも言える音使いが特徴的です。

 MCによる高速ラップが乗らないため「間」を繋げる要素の音が存在せず、クラブミュージックとして成立するための難易度が高いです。そしてよりスリリング!

 

Slackk - Posrednik

 ハットのランダム性や持続的なサブベースの不在などは通常のグライムと共通していますが、ラップの代わりに間を埋めるための代替え手段としてリバーブを使用しているパターンが多く見られます。これが上品な印象を抱かせる一因なのかも知れません。

 また、典型的な808によるハットではなくフィンガーや抽象的な打音、あるいは効果音などを使うことによって、ビート全体の質感により繊細なテクスチャを加えている場合もあります。

 

Sully - Assembly 1

 こちらのビートはスネアにあたる部分が別の音(あるいはエフェクトを過激にかけたもの?)に差し替えられており、ドラムプログラミングというよりは全体の音でリズムが作られています。

 もはや"クラブミュージック"なのか、といったミニマルさですが、一応ジャンルとするならグライムに当たる...のでしょう。現地の人はどう捉えているんでしょうか?

 

Novelist x Mumdance - 1 Sec

 そのインストグライムに思い切ってグライムラップを載せたのがこちら。ラップ自体がハイハットの体をなしていて、ほぼほぼ存在しないビートがあたかも存在するかのよう。これで不思議と頭が振れるから面白いです。

 ラップが主役なようでビートが楽曲を支配しているとも言えて、このバランス感は従来のラップミュージックにはありえなかったのでは?と個人的に思います。

 

Trim -RPG

 Trimは伝説的グループ『Roll Deep』の元メンバーです。00年代後半のWileyの迷走に呆れてそのままグループを離脱。その後ミックステープをいくつかリリースしたのち、あのジェイムス・ブレイクの運営するレーベル1-800 Dinasaurに所属するという変わった経歴を持ちます。

 この曲はまさにそのジェイムス・ブレイクのプロデュース曲なのですが、ちょっとインストグライムの流れを汲んでいるっぽい音使いだったので載せておきます。このメジャーアーティストと思えないほど入り組んだ難解さよ!

 

5.And Today's Grime...

 

JME ft. Giggs - Man Don't Care

 この曲はStormzyの『Shut Up』に並ぶ2015年のグライムクラシックらしいんですが、それはともかくとしてビートを聴いてください。ハイハットは一定間隔で並び、サブベースは持続的に鳴っていて、スネアも3拍目に一発だけ...と、上ネタのちょっとスカスカした感じを除いたらほとんどトラップなんですね。

 これは明らかにUSの影響、あるいは楽曲全体の落ち着きを求めた結果なんでしょうが、当初のグライムの特徴からは離れ、トラップとの境目が曖昧になることでUKのアイデンティティを少々失っているようにも見えます。ラップは変わらずグライムそのままですが...

 

Devlin ft. Skepta - 50 Grand

 Devlinは白人グライムMCの中で特に有名なプレイヤーで、過去にWileyとビーフになるなどしています(のちに和解してWileyの傑作『Godfather』で共作している)。

 そしてしつこくなりますがこのビート!トラップじゃないですか!どこが違うんですか!サブベースを減らしなさいサブベースを!現地の人的には「これはグライムだ」という感じで、不満に思っててもいわゆる老害の方々くらいらしいんですが...どうなんでしょうか?

 

Devilman - Chipmunk Reply

 Devilmanはグライムの古典として有名なDVD『Lord of the Mic』にも出演している古参のMCで、2006年にSkeptaとも対戦していたりします。独特の発声と音程のせいかヘイトされることも多いそう(『日本人がブリティッシュを発音しようとしてるみたい』とかコメントで言われてました)。この曲はChipmunkという若手に批難されたことにアンサーした曲です(リリックで揶揄したせいでSkeptaにディスを送られている)。

 でビートなんですが、やっぱりサブベースに一定のハイハットにスネア!くう!

 

Stormzy - Big For Your Boots

 タイトルからしアディダスの広告かよみたいな曲なんですが、ビートを聴いてもらうと分かる通り正統派のグライムビートになっているんですよね。と言ってもアルバムの他のビートはトラップ臭さがあるんですが、こういう曲もちゃんと作れるところがBrit Awordsを受賞できた理由なのかな...なんて思ったりします。

 2018年現在、こういうビートは希少に思われるので最後にピックアップしました。プロデューサーにビガップ!

 

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 いかがでしたでしょうか?割と大〜〜〜きく変遷していますし、10年代中盤あたりからUSに感化されたようなビートが占めはじめるのがよく分かると思います。インストグライムシーンに関しては...ほぼ無知だったので記事を書くために付け焼き刃で情報収集しましたが、18年現在もユニークな楽曲が寄せられ続けているみたいです。

 

 総まとめになりますが、本題のグライムビートの作り方は

  • 16分の間を大きく空けたハイハット
  • サブベースは極力入れず、より高い音程(中低域以上)のサウンドを上ネタに
  • スネアは偶数拍などハネを表現できる位置に打ち込むとなお良し

 この3つを意識すると、トラップと差別化を図れるビートがつくれると思います!もちろんこれは大雑把な定義なので、少々外れても問題ないかと思います。これらを元に筆者もビートを作ってみたので聴いてみてください(といってもEskibeatの丸パクリですが...)

 

 さて次回はついに『グライムのラップの載せ方』を記述したいと思います!筆者の本業はラップ(というよりライミング)の解析だったりするので、けっこう凝った記事が書き下せると思います...期待をば!

 それではまた次回...

【Grime】グライムって何——①どんな曲があんの?

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「グライムって何なの? イギリスで流行ってるのは知ってるけど...」

アメリカのトラップと何が違うの?」

「なんかスカスカでチープじゃない?」 

 

 "GRIME"とは何か。それは遡ること20年前...と語りたいのは山々なんですが、自分も2年前の夏にFNMNLの該当記事で興味を持ったクチなので詳しいことは知りません(爆)

fnmnl.tv

 しかし人並みにこの二年でグライムを学んだので、カッチョイイ曲だけは沢山知っておりマス。『これからグライム聴き始めたいんだけど、どこから手をつけたらいいか...』なんて方、あるいは『いっちょ日本語ラッパーからグライムMCに転身するぜ!やり方知らんけど!』なんていう舐めたクソガキ...歓迎しましょう!

 

 つーわけで今回『グライムって何』シリーズと題しまして、なんだか記事っぽい駄文を書きつづろうと思います。

 第一回はとにかく曲を聴いてもらって、グライムのノリに慣れてもらいます。内容はウィキペディア覗きつつ半分ノリで書いてるので、正しい歴史とか各MCの背景などは詳しい人——主に黒服を身を包んだ日本のグライムMCとかDJ——にツイッターとかで質疑応答してください(丸投げ)。では早速まいりましょう!

 

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Wiley - Speaker Box

 グライムを創設した張本人にして"グライムのゴッドファーザー"とか呼ばれているMC。近年のUK音楽シーンへの多大な貢献により、英国王室から直々に大英帝国勲章(MBE)を受勲したのが記憶に新しい。MBE受勲がどれくらいヤバいか...『アデルやエド・シーランなどと同等の権威』と言えば伝わるだろうか。しかし決定的に違うのは、後者のふたりが"いちミュージシャン"に収まるのに対し、彼は若者が生き甲斐を燃やす"舞台そのもの"を作り上げたというところだ。

 EU諸国、アジアと、どこもかしこもUSのトラップの影響に飲まれていく中で『UKのアイデンティティー』を保ち続けられているのは紛れもなく彼の功績が大きいだろう。

 

Dizzee Rascal - I Luv U

 Grime最初の出世頭であり、未だ並ぶ傑作がないと言われる『Boy In Da Corner』("グライムのバイブル"と呼ばれる)を作り上げ、前述したWileyと犬猿の仲、そして現在なぜかアンチ・グライムの立場にたつMC。どうしてこうなった。唯一無二の声とフローを誇り、1stアルバムで彼が提示した数々の『バースの形式美』は、現在のグライムラップの基軸のひとつになっている。ぜひアルバムを手に取ってみてほしい。

 あまりに先鋭的すぎて、彼が現在UKドリル(US発祥!)をプッシュしているのがたまに不思議になる。本当にどうしてこうなった...

 

Skepta ft. JME - That's Not Me

 SkeptaとJMEはグライム最大のレーベル『Boy Better Know』の創業者にして代表的グライムMCの一人だ。Skeptaは2016年にアルバム『Konnichiwa』でマーキュリーの最優秀アルバム賞を受賞している(グライムが受賞するのはDizzeeの1st以来13年ぶりの快挙)。

 

JME - INTEGRITY

 JMEは禁煙禁酒主義者かつヴィーガン、さらに3Dグラフィックで最優秀賞を修めて大学を卒業するもアングラでグライムを志す...という異色の経歴を持つMCで、その生真面目さはどの曲を聴いても飛び交う『Serious』("マジで、真剣に"の意味)の合言葉で端的に現れていると思う。しかし片やゲーム好きで、携帯の着メロ作りやマリオペイントなどで作曲を始めたというから面白い。

 知名度に反比例して、両者ともアルバムの楽曲にすこっっっっしのポップさもない。おそらく日本の"ビート中心でラッパー二の次な"サンプリングヒップホップに慣れたリスナーには取っ付きづらい作品群だと思う。しかし慣れると分かってくるので、ピンと来なければ素直に後回しするといい。

 

Flowdan - Flatline

 FlowdanはWileyや、かつてDizzee Rascalも所属していたクルー『Roll Deep』の主要メンバーの一人だ。地を這う、というか震わせるような低い声があまりに特徴的なMCで、その個性からグライム以外のUK音楽シーンでもよく起用されている。彼の2016年作『Disaster Piece』はシネマティックなパーカッションとホラー的シンセサウンドが多用され、ヒップホップリスナーにはもっとも聴きやすく、かつダークな作品に仕上がっている。どこから手をつけていいかわからない方に是非オススメしたい。

 ちなみにTwitterで彼の曲や名前を呟くとエゴサされてやたらとリツイートされるので、きになる人はカタカナ表記にするといいと思います(心底どうでもいい情報...)。

 

P Money - Panasonic 

"Don’t get rude, don’t hype, don’t risk it
無礼も誇張もするな、そいつを危険に晒すなよ
Don’t give me the lip, ‘cus the red stuff covering your mouth
俺にキスするな、お前のを赤い塗料が覆うから
I ain’t gonna be lipstick
俺は口紅にはならねえよ
Uppercuts and jabs, I’ll mix it
アッパーカットとジャブ織り混ぜるだろうってことだ"

  これは2009年に彼が蹴ったバースのほんの一部だ(上曲の歌詞ではない)。P Moneyはその類稀なワードプレイとユーモアで知られている。『Mad』『Round the Clock』『Numbers & Latters』...など、彼の言葉遊びの傑作は挙げればキリがない。ローカルやリアルに根差し凝った韻律を避けるグライムシーンの中で、彼のような存在は珍しい。

 加えて彼はMCと強烈なビーフGrimeだと"クラッシュ"というらしい)を繰り広げてシーンを沸かせることにも定評がある。昨年のDot Rottenとのクラッシュは総計1時間10分にも及ぶ壮絶さだった。

 

Mumdance - Take Time feat. Novelist

"They could have gucci belts
彼らはグッチのベルトを所有できたけど
But go home to a empty fridge
空っぽの冷蔵庫のために家へ帰る
I take time and think
俺は時間を取って考える
Rudeboy, what you think this is?
不良少年、これはなんだと思う?"

 2014年、ミニマルな楽曲を作るMumdanceと組んで現れたNovelistは"小説家"の名にふさわしく、グライムにしては少し客観的でズレたリリックを書いていた。Ele-kingでプッシュされているので名前くらいは知っている人もいるかもしれない。しかし彼の本領はリリック以上に若さからくる"起伏のある明るいデリバリー"にあるように思う。セルフプロデュースの『Endz』などはその典型例だ。

 ようやく出た新作は歌詞にしてもフローにしても若干キャラを見失っている感じがあったけれど、Spotifyで聴けるので一聴してみることを勧める。

 

JD. Reid feat. D Double E - Roshi

 『常に氷を口に入れながらラップしてるみたいだ!』なんて舌足らずなフロウに対してYouTubeのコメント欄で揶揄されているが、D Double Eのラップは"にも関わらず"、あるいは"だからこそ"、氷柱のように冷たく鋭利だ。UKで著名なMCであるKanoの名作『Home Sweet Home』の客演曲をチェックしてみれば、リリース当時2005年の時点で彼のフローが完成されていることが伺えるだろう。

 今年の2月にアルバムがリリースされたそうだが、ここ日本(というか日本語のウェブ)ではまったくチェックのしようがなくて情報の隔絶具合に口が塞がらなくなる...

 

J-mal - Enterprise

 J-malはつい最近、韓国と日本のグライムMCたちを総動員して楽曲のリミックスを作ったりして話題になったMCだ。はるばる東京までライブしにくるMCはFlowdanやP Money、Novelistなど数多いが、現地のプレイヤーを大規模に巻き込んで行動を起こしたMCは彼くらいのものである。その圧巻の行動力もさることながら、楽曲で披露されるフロウの跳躍、しなやかさは弦楽器の弓さながらに力強い。

 上曲後半ではさらにフランス語でグライムラップを繰り出し始めるものだから「どれだけ器用なんだこの人は...」みたいになる。UKでの注目度は紹介した他のMCに比べ圧倒的に低く、正当な評価がなされることを期待したい。

 

STORMZY - COLD

 2015年に公開した『Shut Up』が瞬く間に1千万再生したと思ったらスター街道まっしぐらにアルバム『Gang Signs & Prayer』をリリース、そのままブリット・アワーズの2018最優秀ブリティッシュアルバムを受賞するという破天荒っぷり。そのアルバムの楽曲群はメジャーを意識したメロウなものが大半を占めたが、いくつかの曲はインディーレーベルのMCたち"よりも"と言って良い正統派なグライムサウンドを聴かせてくれる。

 特にMV公開された『Big For Your Boots』『Cold』の飽和したサブベースや808のハイハットを省いたビートは黎明期のグライムがそのまま進化したような音で、その向きには「これだよコレ!」となること請け合いだ。リリックは知らん(爆)

 

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 どうでしたか?他にも魅力的なMCは数多くいますが、書き漏れたぶんはYoutubeの関連動画から各自ディグっていただきたいと思います...(Kanoなどは純粋なグライムMCか判断に迷ったので保留しました。でもカッコイイんで調べて!)

 

 次回はグライムのビートの作り方について素人なりに考察しようかと思います。そもそもこの記事を書くきっかけになったのはTwitterで一時浮上した『ボカログライム』なる単語がきっかけで、グライムをあまり知らないボカロPの方達の助けになるかな〜〜と今回書くに至りました。

 ボカロシーンはドラムンベースやリキッドファンクやダブステップなど幅広いジャンルにクリエイターがいるので、そろそろグライムもええんじゃないか...などとスケべ心を醸し出しつつ、この辺で一旦筆を置きたいと思います。ではまた!