韻とアイデアほか

日本語の押韻などに関する走り書きetc...

【Grime】グライムって何——③ラップはどう違う?

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「ビート作ったよ!で、どうラップすればいい?」

「とにかく早口で詰め込んだけど...それっぽくならない!」

「...早すぎて滑舌足りないんだけどどうしたらいい?」

 

 2000年前半、グライムラップはUKガレージのそれとの差別化を図るために、ある面で単調とも言える"強い形式美"に重きをおくようになりました。それは現在のUSトラップがヒップホップから独立する過程で(Migosなどによって発明された)三連符のフローを多用するに至ったのと似ています。

 では具体的にどのような形式があるんでしょう? 今回3回目となる本記事では、実際にグライムの楽曲とそのリリックを参照しながら、いくつかのパターンに分けて考えていきます。そして英詩の構成を踏まえた上でどう日本語に置き換えていくか? ということも提案できればと思います。ではやっていきましょう...

 

1.基本形——拍の頭で脚韻する

 Stormzy - Shut Up

  1拍 2拍 3拍 4拍
1小節 Comes/-/eve/ry where/-/I/- go/-/-/- I/-/can't/-
2小節 run/-/when/my e/ne/mies/- show/-/-/- Walk/-/in/the
3小節 club/-/with/- all/-/of/my thugs/-/-/- Par/-/ty's/-
4小節 Done/-/eve/ry bo/dy/go/- home/-/-/- -

 グライムの基本は4小節単位で韻律を組み、その拍の頭でアクセントを取ることにあります。このような整然とした形式になったのはヒップホップなど既存のラップ音楽との差別化を狙った結果、というのは前回の記事などで述べたとおりです。

 Stormzyのこのバースでは3拍目に文末がくるようにラップが調整されていて、その拍の頭で「go」「show」「home」などの単語で押韻されているのが分かると思います(表が見づらくて失礼)。

 ちなみに3小節目の文末が「thug」で他行と韻を踏み外していますが、これはグライムラップによく見られる手法で、形式にとらわれ過ぎてリズムが単調になることを避けるためもっぱら使われています。

 

Roll Deep - When I'm Ere 

  1拍 2拍 3拍 4拍
1小節 -/-/-/- They/call/-/me Trim/-/when/I'm ere/-/Be/tter
2小節 know/I'm/on/a bad/-/boy/- thing/-/when/I'm ere/-/Like/-
3小節 Roach/-/I/swing -/I/don't/- link/-/when/I'm ere/-/These/-
4小節 grand/-/fa/thers hear/-/my/- swing/-/when/I'm ere/-/-/-

 グライムではしばしば文末を同じ単語で統一するという手法が用いられます。このRoll Deepの代表曲では全員が『When I'm ere(俺がここにいる時)』という文句で全行を締めています。

 ですが表で見た通り、文末を同じくした時にもその直前の語で韻を踏むのがマナーとなっているようです。この場合「Trim」「thing」「link」「swing」の4つですね。そしてやはり、韻を置く位置は拍の頭となっています。

 

Jammz ft Scott Garcia - It's A London Thing

  1拍 2拍 3拍 4拍
1小節 -/I'm/from/my place/-/where/the ci/ty/don't/- sleep/-/So/-
2小節 man/-/can't/- roll/-/with/the take/-/time/- don/-/Hung/-
3小節 ry/you/know/- me/I've/got/- get/-/mine/- don/-/I/don't
4小節 wa/nna/be/a stru/ggle/or/a get/-/by/- don/-/-/-

 こちらの曲はまさに文末統一の手法を多用して作られた曲で、「don」「zone」「Endz」...といくつかの語に移動しながら詩が記述されています。

 注目してほしいのはこの3拍目、「take time」「get mine」「get by」といった風に2語に渡って押韻されているんですが、この時も必ず拍の初めから韻を配置しているのが分かると思います。

 こんな感じで、単語、複数語に関わらず拍の頭に韻を揃えてあげるのがグライムラップをする上での基本となります。

 

 では次に、上記の基礎を応用したフロウをいくつか紹介したいと思います...

 

2.大きく間を開けたフロウ

Wiley ft God's Gift - And Again

  1拍 2拍 3拍 4拍
1小節 -/-/-/- -/-/-/- -/-/-/- -/-/-/-
2小節 It's/a/new/- day/-/now/- blud/I/ain't/- hold/-/ing/
3小節 back/-/-/- -/-/-/- -/-/-/- -/-/-/-
4小節 Spit/-/bars/- like/I'm/on/an old/-/school/- Roll/-/deep/-
5小節 track/-/-/- -/-/-/- -/-/-/- -/-/-/-
6小節 Went/-/top/- five/-/with/the sound/-/that/- I/will/-/per
7小節 sue/-/-/- -/-/-/- -/-/-/- -/-/-/-
8小節 But/I've/go/to let/-/them/- know/I/ain't/- on/-/ly/-
9小節 that/-/-/-      

  グライムは何も詰め込むだけが全てではなくて、たまにはゆったりとビートを乗りこなす場合もあります。Wileyのこの曲では1行リリックを吐きだすごとに1小節と大きく間を取ることで、楽曲に余裕や落ち着いた印象を与えています。

 押韻の配置も「holding back」「Roll Deep Track」「only that」と4拍目から次の1拍目にまたがることで、ラップ自体がビートに新しいグルーブを生み出すことに成功しています。3行目が意図的に踏み外しているのは前述の通り。

 また、間の空いた部分に掛け声(合いの手)を入れたりして、間延びした感じをなくしたりもしていますね。

 

Dizzee Rascal - Sittin Here

  1拍 2拍 3拍 4拍
0小節 -/-/-/- -/-/-/- -/-/-/- I'm/-/just/-
1小節 sitt/-/ing/- here/-/-/- I/-/ain't/- say/-/ing/
2小節 much/-/I/- just/-/-/- think/-/-/- -/-/My/-
3小節 eyes/-/-/- don't/-/-/- move/-/-/- left/-/or/-
4小節 right/-/they/- just/-/-/- blink/-/-/- -/-/I/-
5小節 think/-/-/- too/-/-/- deep/-/-/- and/-/I/-
6小節 think/-/-/- too/-/-/- long/-/-/- Plus/-/I/-
7小節 think/-/I'm/- gett/-/ing/- weak/-/-/- cause/-/my/-
8小節 thoughts/-/are/- too/-/-/-  strong/-/-/-   

  Dizzee Rascalの1stアルバム、そのintroにあたるこの曲ではBPM162の速度に対して半分のBPM81でラップを割符することで、ぽつぽつと語り始めるような雰囲気をかもし出しています。早口という印象が先行しがちなグライムには珍しい楽曲ですね。

 そこから一転してhookになると高速なフロウに切り替わったりして、楽曲にうまく緩急ができています。グライムではないですが、似たような構成の楽曲ではAesop RockのBig Bangあたりが参考になるかもしれません。

 

D Double E ft Wiley - Better Than the Rest

  1拍 2拍 3拍 4拍
0小節 -/-/-/- -/-/-/- -/-/-/- -/-/Cuh/-
1小節 you/can/put/- me/-/to/the test/-/-/- -/-/-/-
2小節 Blood/-/there's/- no/-/con/- test/-/-/- -/-/-/-
3小節 Which/-/sound/- boy/-/wa/nna test?/-/-/- -/-/Right/-
4小節 now/-/blud/I don't/-/care/- less/-/-/- -/-/You/can
5小節 make/a/bird/- call/-/to/the nest/-/-/- -/I/got/-
6小節 man/-/that/- wa/nna/in/- vest/-/-/- -/I/got/-
7小節 le/-/bels/- show/ing/in/te rest/-/-/- -/-/Can/you
8小節 smell/-/that/- le/-/mon/-  zest?/-/-/-   

  D Double Eのこのバースでは3拍目から4拍目にかけて間を取っていますが、同時に「test」「contest」「nest」「invest」「interest」「zest」とほぼ全ての行にわたって「est」の完全韻で揃えられていて、非常に整然とした印象を受けるかと思います。

 こんな風に、整った韻律と間を取ったフロウはちょっとした高尚な響きをもたらしてくれるので、表現にひとあじ加えたい時には意識するといいかもしれません。Dizzee RascalのJust A Rascalという曲でも似た構成のバースが確認できます。

 

 ではこんどは逆に、整理されていない、あるいは間を取らないラップを見ていきましょう。意外にもグライムのラップは多様です...

 

3.ライムを混濁させる

 

Mr.Mitch ft P Money - Priority

  1拍 2拍 3拍 4拍
1小節 -/-/-/Thank -/you/for/the life/-/I've/been blessed/-/with/-
2小節 -/-/-/- -/-/Black/- tra/-/cky/black -/hat/-/still
3小節 feel/-/ing/re flect/-/ive/- -/-/Re/mi ni/scing/a/bout
4小節 -/life/-/and then/high/-/light -/ing/all/the best/-/bits/-
5小節 I'm/start/ing/to see/-/why/- I/was/be/ing test/-/ed/-
6小節 -/Feel/-/ing god/-/like/- -/Let/me/ex plain/-/be/fore
7小節 -/you/get/o ffend/-/ed/- -/-/He/cre at/ed/us/I
8小節 cre/at/ed/a son/-/now/I see/-/life/- from/his/-/per
9小節 spect/-/ive/-      

  P Moneyはこの曲でライムスキーム(韻律構成)をことごとく掻き乱していて、今までに紹介した曲と見比べてもらえば分かる通り『同じ拍で韻律を揃える』という暗黙の了解を無視しています。

 太字の箇所はすべて同じ韻律ですが、「blessed with」「best bits」「tested」は4拍目、「reflective」「offended」は2拍目、「perspective」は1拍目とズレており、レイドバックした(オフビートの)フロウと相まって混沌とした心模様をうまく表現できています。

 ちなみに「reflective」「offended」「perspective」の3語が拍の頭にあっていないように思われえるかもしれませんが、これは英語の発音の強弱を利用したもので、例えばこの場合「reFLECTive」「oFFENDed」「perSPECTive」の大文字部分を強く発音するので、結果的に拍の頭に(音楽的に)揃っているように聴こえるわけです。

 

 さらに2小節から4小節目を見てもらうと「Black tracky」「black hat still」「about life and」「highlighting」でそれぞれ中間韻を踏んでいるんです!耳あたりもさることながら、彼の純粋なスキルの高さをここでは伺うことができます...

 

President T - T on the Wing

  1拍 2拍 3拍 4拍
1小節 -/-/-/- Touch/-/ing/the sur/-/face/- but/it/ain't/-
2小節 touch/-/ing/the sides/-/-/- 'Nuff/of/these/- guys/-/are/-
3小節 tak/-/ing/- steps/-/-/- -/But/I'm/- tak/-/ing/-
4小節 strides/-/-/- -/I/was/in H/-/M/- P/-/-/-
5小節 And/left/-/for dead/-/-/- -/-/Don't/- men/-/tion/-
6小節 where/-/you/were born/-/-/- if/you/ain't/- mak/-/ing/-
7小節 bread/-/-/- so/far/-/a head/-/-/- -/I/mean/-
8小節 when/I/check/it out/-/-/- Ain't/-/done/- half/-/of/my
9小節 sent/-/ence/- stuck/-/in/-  pen/-/-/-   with/out/-/re
10小節 pent/-/ance/-      

  President Tはグライムシーンでも飛び抜けて奇妙なスタイルで知られていて、その野太い声に似合わない激しい抑揚はもちろん、そのリリックのライミングも独特で、聴いていると一体どこが小節の境目なのか分からなくなってきます。

 冒頭10小節では「sides」と「strides」、「steps」と「dead」と「bread」と「head」が脚韻、「half」と「stuck」が中間韻、しまいには「taking」と「HM」と「mention」と「making」の中間韻が「sentence」「repentance」の脚韻に対応...といった具合に、奇抜なフロウに隠れてリリックもとんでもない技巧で形成されています。

 そしてここまで混沌とした内容にもかかわらず、やはり拍の頭で韻をふむという前提は守られているのが分かると思います...

 

 4.おわりに

J-mal ft Korea X Japan Allstars - Next Level Asia Remix

 

 いかがでしたでしょうか? グライムラップをする上でのリリックの書き方、みたいなものが捉えられてきたでしょうか。ここからどう日本語に落とし込むか...これからMCを目指す人に少しでもヒントになれば幸いです。

 

 最後にこれは筆者からの提案ですが、本場のラップのように脚韻をピシっと決めるには90年代の日本語ラップのように体言止めを多用するのが望ましいように思います。

 というのも、現在の訓読みによる自然な語順のラップですと1単語で韻をふむのに何音節も使ってしまい、グライムのようなシンプルな(1,2音節の)リズムをつくるのが難しいのです。(なぜ単語単位で韻をふむという前提なのかというと、その方が音楽として歯切れがイイからです。詳しい説明は省きますが、あとこんな理由もあります

 その点、音読み(熟語)は1単語あたり2音節ていどで効率がいいため、グライムのようにタイトなラップをするうえで相性がいいのでは...と考えます。まあこの辺りはこれから日本語グライムを開拓していく方々に任せたい!

 

 そしてオマケですが、「グライムのラップしたいけど今はまだビートが作れないよ!」という方のために下に小さなインスト集を公開したので、練習がてらご自由にお使いください(稚拙なのはご愛嬌...本職じゃないし!)。使用した際はコメント欄でご報告いただければありがたいです。

 インストはこれからも小規模に制作を続けつつ、そのうちコンピの企画でもして少しでも日本語グライムシーンに貢献していけたらと考えています(あるいは誰かやって)...そのときはよろしくお願いします。

 

 

 以上、三部にわたるグライム紹介記事でした!大手メディアの方々、もっと紹介に邁進してくださいね!

 それではまた次回!

【Grime】グライムって何——②どうビート作るの?

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「グライムやってみたいんだけど、どうビート打ち込めばいいの?」

「ぶっちゃけトラップと一緒じゃない?」

「どうやってもダサくなっちゃんだけど...」

 

 これは聴き漁ってみて感じたことですが、どうも『グライムのビート』というのは1種類に収まるものではないらしいです。というのも、グライムがそもそも2stepやUKgarageなどから派生し、Dubstepなんかを通過し、Cloud RapやTrapなどがUSからやってきて...と長い時間を経て様々な影響を潜ってきているので、一概に「コレこそグライムだ!」というサウンドを断定することが難しいのです。

 

 なので、今回は様々な音源を比較していくつかの分類に分けつつ、それぞれの特徴を把握していく記事にしたいと思います。今回は各アーティストの説明などはハショらせていただきます(というか詳しく知らない)。中にはグライムっぽくないな、みたいなものもありますがご了承をば。

 そして筆者自身も新参者なので事実認識などテキトーです。そのあたり大雑把に捉えていただければ(失礼!)。それでは最初はグライムの原点...ではなく、それ以前よりあったGarage rapから聴いてまいりましょう。

 

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1.Gagage Rap

 

Pay As U GO Cartel - Champagne Dance

 Garage Rapのビートはシェイカーやハット、ベルが16分(若干スイングぎみ)で刻まれつつ、シンセのサブベースが小粒に乗せられる、という構成ですね。スネアやキックの位置に特に決まりはなく、とりあえず4つ打ちは避けられているといった感じでしょうか。曲調は明るいものが多いように見受けられます。

 ちなみにPay As U Go CartelはWileyがガレージ時代に所属していたクルー。3番手でよくわからない動きしているのが彼になります(失礼)。

 

The Streets - Has It Come to This?

 ザ・ストリーツこと00年代のソングライティングを変えた男、マイクスキナーもGarageビートに乗っかっています。ラップはポエトリーに近いオフビートながら、自家製ビートはしっかりGaregeの特徴を掴んでいます。

 

The Streets - Weak Become Heroes

 こちらのビートではスネアが大胆に省かれていて、エレクトリックピアノのシンプルなリフと相まりとても洗練された印象に仕上がっていますね。

 

More Fire Crew - Oi

 こちらは2001年、ガレージラップとグライムの過渡期にあった曲になるそうです。"音程の少し高いサブベース"そのものが主旋律のメロディーを奏で、ハットは16分ながらやや間の空いたものに。ラップのノリも表拍に重きを置いてシンプルに統一。この辺りからグライムっぽいラップが出現し始めるようです。それでは次は本番、初期のグライムを見ていきます...

 

2.Oldschool Grime

 

Wiley - Wot U Call It?

"Listen to this - it don't sound like garage
コレを聴け——コイツはガレージには聴こえないな
Who told you that I make garage?
俺がガレージを作ってるって誰がお前に話したんだ?
Wooly Kat'z got his own style s'not garage
ワイリーは彼自身のスタイルをやったのさ、ガレージじゃねえ
Make it in the studio but not in the garage 
スタジオで作るが、ガレージの中でじゃねえ"

  2004年リリース。"コイツを何て呼ぶ?"の表題通り、当時は『Grime』という名称が付けられていなかった模様。メロディはガレージから一転して荒々しいものに変わり、ハイハットはよりランダムかつ間を大きく。スネアは偶数拍を打つハネを残しつつも、ガレージより数を少なくしています。何より、サブベースが存在しない!

 この初期グライムのビートは俗に『Eski beat』(彼の初グライムビート"Eskimo"から取っている)と呼ばれているそう。荒々しく、若干ノリが軽くはあるけれど、もっともグライムらしいと言えるビートです。

 

Crazy Titch - I Can C U

 強烈な発声とフロウで異彩をはなっていながら、殺人容疑でグライムシーンの黎明期に刑務所送りとなってしまったMCことCrazy Titch...と紹介はともかく、ハットの途切れ方、スネアのハネ、ベースが上ネタなところがまさに初期グライムな感じです。

 

Kano - P's and Q's

 ガレージからグライム、ロックみたいなビートまで起用に乗りこなすKanoによる初期のグライム・クラシックです。上ネタのホーンをなぞるようにサブベースが添えられていますが...まあ、ほぼほぼEski beatに乗っ取ったビートと言えるでしょう。ビートに関係ないですが、このKanoのバースの形式美が素晴らしい...

 

Dizzee Rascal - Fix Up Look Sharp

 ちょいと注目。この曲は紛れもなくBilly SquierのThe Big Beatのまんま使いかつ、BPMも140でない比較的遅いビート(ヒップホップとすら言える)なんですが、どうでしょう...グライムっぽく聴こえませんか!?

 これはまさしく初期グライムの持っていた『サブベースレス』『間隔の大きく空いたハット(ここではもはや存在しない)』という形式に加え、ディジーオールドスクールなノリの定型ラップ、発声が伴っているからに他ならないと思うんですよね。この曲はグライムのサウンドを考える上でかなり重要な曲だと思っています...

 

 そして第一の黄金期が終わり、しばしGrimeの冬がやってきます...

 

3.Late 00's Grime

 

Ruff Sqwad - Together ft. Wiley

 Ruff SqwadはRoll Deepに並ぶ初期グライムの代表的クルーのひとつで、『Pied Piper』や『Misty Cold』など、他を圧倒するほど冷血なビートの楽曲に定評があります。この曲はそんな彼らには珍しいチル系のビートなのですが...サンプリング使いなのもあり若干グライムらしくない曲になっています。

 2005年リリースであり、当時の古参ヘッズには紛れも無いグライムチューンらしいのですが...この曲は上記の『Fix Up, Look Sharp』と並んで「グライムとは何か?」を考える上で良い参考になると思います。

 

Wiley - Bow E3

 Wileyによる2007年作『Playtime is Over』より。繰り返されるボイスサンプルが特徴的ですが、それ以上に気付かされるのはランダム性を減らしたハットとハネの無くなったスネア、そして何よりサブベース!サブベースが従来より音程を低くし、よりビートの重心を低くしています。この辺りからグライムは少しづつトラップに形態を近づけていきます...(といっても当時はTrapなんて存在しなかったわけですが)。

 ちなみにアルバムリリース当日はDizzee Rascalの『Maths & English』のリリース日でもあり、そのアルバム1曲目には『Pussyole』というWileyディス曲が収録されていたり...そしてその一年後、Wileyは『See Clear Now』とかいう黒歴史をリリースして周囲から顰蹙を買い始めることになります。ゴッドファーザー。。。

 

P Money - Left the Room

 UK発のダブステップがグライムシーンと合流するのは自然な流れだったようです。BPMも合わせやすく、ビートの乗りもグライムのソレより単純で分かりやすく一般人ウケが良い罠(ただしローカルに留まらず世界に派生した結果、本家本元の"Dubstep"はアイデンティティを一時喪失してしまった模様)。時を同じくしてDizzee以降大きな出世が見られなかったMCたちもメジャー界隈に進出...という見方でいいんでしょうか?

 P Moneyは上曲の他にも『Slang Like This』というダブステップビートの曲で混沌としたワードプレイを披露しているので是非聴いてみてください。歌詞みても何言ってるかわからなくて面白いです(爆)

 

JME - Serious Remix 

"You're a wasteman if you're 29
お前は惨めだよ、もしお前が29歳で——
And you're still posing by a road sign
——未だに道路標識の横でポージングしてるならな
You need to think about your lifetime
お前は自分の生涯について考える必要があるぜ
Before you hit 40 with a shank In Your 9
お前が模造の小銃弾に酔っぱらう前にな"

 

  2006年にリリースした代名詞『Serious』によってJMEはグライムシーンでの名声を獲得するわけですが、ここで鳴っているビートはまさに"シリアスな"グライムそのものであると言えます!ハネのあるスネアに間隔の空いた——ってこれ以上繰り返すのもヤワですね。

 しかし10年代に入り、グライムのビートはさらに多様に変化していくことになります...

 

4.10's Instrumental Grime

 

Murlo - Into Mist

 10年代に入る時期を前後して停滞していたグライムラップシーンと入れ替わるように、Big Dadaのリリースしたコンピ『Grime 2.0』など"インストグライム"と言えるシーンが興隆します。...ってネットに書いてありました(爆)。Eski beatに見られた荒々しさとは対照的に、間をさらに大きく使った上品とも言える音使いが特徴的です。

 MCによる高速ラップが乗らないため「間」を繋げる要素の音が存在せず、クラブミュージックとして成立するための難易度が高いです。そしてよりスリリング!

 

Slackk - Posrednik

 ハットのランダム性や持続的なサブベースの不在などは通常のグライムと共通していますが、ラップの代わりに間を埋めるための代替え手段としてリバーブを使用しているパターンが多く見られます。これが上品な印象を抱かせる一因なのかも知れません。

 また、典型的な808によるハットではなくフィンガーや抽象的な打音、あるいは効果音などを使うことによって、ビート全体の質感により繊細なテクスチャを加えている場合もあります。

 

Sully - Assembly 1

 こちらのビートはスネアにあたる部分が別の音(あるいはエフェクトを過激にかけたもの?)に差し替えられており、ドラムプログラミングというよりは全体の音でリズムが作られています。

 もはや"クラブミュージック"なのか、といったミニマルさですが、一応ジャンルとするならグライムに当たる...のでしょう。現地の人はどう捉えているんでしょうか?

 

Novelist x Mumdance - 1 Sec

 そのインストグライムに思い切ってグライムラップを載せたのがこちら。ラップ自体がハイハットの体をなしていて、ほぼほぼ存在しないビートがあたかも存在するかのよう。これで不思議と頭が振れるから面白いです。

 ラップが主役なようでビートが楽曲を支配しているとも言えて、このバランス感は従来のラップミュージックにはありえなかったのでは?と個人的に思います。

 

Trim -RPG

 Trimは伝説的グループ『Roll Deep』の元メンバーです。00年代後半のWileyの迷走に呆れてそのままグループを離脱。その後ミックステープをいくつかリリースしたのち、あのジェイムス・ブレイクの運営するレーベル1-800 Dinasaurに所属するという変わった経歴を持ちます。

 この曲はまさにそのジェイムス・ブレイクのプロデュース曲なのですが、ちょっとインストグライムの流れを汲んでいるっぽい音使いだったので載せておきます。このメジャーアーティストと思えないほど入り組んだ難解さよ!

 

5.And Today's Grime...

 

JME ft. Giggs - Man Don't Care

 この曲はStormzyの『Shut Up』に並ぶ2015年のグライムクラシックらしいんですが、それはともかくとしてビートを聴いてください。ハイハットは一定間隔で並び、サブベースは持続的に鳴っていて、スネアも3拍目に一発だけ...と、上ネタのちょっとスカスカした感じを除いたらほとんどトラップなんですね。

 これは明らかにUSの影響、あるいは楽曲全体の落ち着きを求めた結果なんでしょうが、当初のグライムの特徴からは離れ、トラップとの境目が曖昧になることでUKのアイデンティティを少々失っているようにも見えます。ラップは変わらずグライムそのままですが...

 

Devlin ft. Skepta - 50 Grand

 Devlinは白人グライムMCの中で特に有名なプレイヤーで、過去にWileyとビーフになるなどしています(のちに和解してWileyの傑作『Godfather』で共作している)。

 そしてしつこくなりますがこのビート!トラップじゃないですか!どこが違うんですか!サブベースを減らしなさいサブベースを!現地の人的には「これはグライムだ」という感じで、不満に思っててもいわゆる老害の方々くらいらしいんですが...どうなんでしょうか?

 

Devilman - Chipmunk Reply

 Devilmanはグライムの古典として有名なDVD『Lord of the Mic』にも出演している古参のMCで、2006年にSkeptaとも対戦していたりします。独特の発声と音程のせいかヘイトされることも多いそう(『日本人がブリティッシュを発音しようとしてるみたい』とかコメントで言われてました)。この曲はChipmunkという若手に批難されたことにアンサーした曲です(リリックで揶揄したせいでSkeptaにディスを送られている)。

 でビートなんですが、やっぱりサブベースに一定のハイハットにスネア!くう!

 

Stormzy - Big For Your Boots

 タイトルからしアディダスの広告かよみたいな曲なんですが、ビートを聴いてもらうと分かる通り正統派のグライムビートになっているんですよね。と言ってもアルバムの他のビートはトラップ臭さがあるんですが、こういう曲もちゃんと作れるところがBrit Awordsを受賞できた理由なのかな...なんて思ったりします。

 2018年現在、こういうビートは希少に思われるので最後にピックアップしました。プロデューサーにビガップ!

 

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 いかがでしたでしょうか?割と大〜〜〜きく変遷していますし、10年代中盤あたりからUSに感化されたようなビートが占めはじめるのがよく分かると思います。インストグライムシーンに関しては...ほぼ無知だったので記事を書くために付け焼き刃で情報収集しましたが、18年現在もユニークな楽曲が寄せられ続けているみたいです。

 

 総まとめになりますが、本題のグライムビートの作り方は

  • 16分の間を大きく空けたハイハット
  • サブベースは極力入れず、より高い音程(中低域以上)のサウンドを上ネタに
  • スネアは偶数拍などハネを表現できる位置に打ち込むとなお良し

 この3つを意識すると、トラップと差別化を図れるビートがつくれると思います!もちろんこれは大雑把な定義なので、少々外れても問題ないかと思います。これらを元に筆者もビートを作ってみたので聴いてみてください(といってもEskibeatの丸パクリですが...)

 

 さて次回はついに『グライムのラップの載せ方』を記述したいと思います!筆者の本業はラップ(というよりライミング)の解析だったりするので、けっこう凝った記事が書き下せると思います...期待をば!

 それではまた次回...

【Grime】グライムって何——①どんな曲があんの?

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「グライムって何なの? イギリスで流行ってるのは知ってるけど...」

アメリカのトラップと何が違うの?」

「なんかスカスカでチープじゃない?」 

 

 "GRIME"とは何か。それは遡ること20年前...と語りたいのは山々なんですが、自分も2年前の夏にFNMNLの該当記事で興味を持ったクチなので詳しいことは知りません(爆)

fnmnl.tv

 しかし人並みにこの二年でグライムを学んだので、カッチョイイ曲だけは沢山知っておりマス。『これからグライム聴き始めたいんだけど、どこから手をつけたらいいか...』なんて方、あるいは『いっちょ日本語ラッパーからグライムMCに転身するぜ!やり方知らんけど!』なんていう舐めたクソガキ...歓迎しましょう!

 

 つーわけで今回『グライムって何』シリーズと題しまして、なんだか記事っぽい駄文を書きつづろうと思います。

 第一回はとにかく曲を聴いてもらって、グライムのノリに慣れてもらいます。内容はウィキペディア覗きつつ半分ノリで書いてるので、正しい歴史とか各MCの背景などは詳しい人——主に黒服を身を包んだ日本のグライムMCとかDJ——にツイッターとかで質疑応答してください(丸投げ)。では早速まいりましょう!

 

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Wiley - Speaker Box

 グライムを創設した張本人にして"グライムのゴッドファーザー"とか呼ばれているMC。近年のUK音楽シーンへの多大な貢献により、英国王室から直々に大英帝国勲章(MBE)を受勲したのが記憶に新しい。MBE受勲がどれくらいヤバいか...『アデルやエド・シーランなどと同等の権威』と言えば伝わるだろうか。しかし決定的に違うのは、後者のふたりが"いちミュージシャン"に収まるのに対し、彼は若者が生き甲斐を燃やす"舞台そのもの"を作り上げたというところだ。

 EU諸国、アジアと、どこもかしこもUSのトラップの影響に飲まれていく中で『UKのアイデンティティー』を保ち続けられているのは紛れもなく彼の功績が大きいだろう。

 

Dizzee Rascal - I Luv U

 Grime最初の出世頭であり、未だ並ぶ傑作がないと言われる『Boy In Da Corner』("グライムのバイブル"と呼ばれる)を作り上げ、前述したWileyと犬猿の仲、そして現在なぜかアンチ・グライムの立場にたつMC。どうしてこうなった。唯一無二の声とフローを誇り、1stアルバムで彼が提示した数々の『バースの形式美』は、現在のグライムラップの基軸のひとつになっている。ぜひアルバムを手に取ってみてほしい。

 あまりに先鋭的すぎて、彼が現在UKドリル(US発祥!)をプッシュしているのがたまに不思議になる。本当にどうしてこうなった...

 

Skepta ft. JME - That's Not Me

 SkeptaとJMEはグライム最大のレーベル『Boy Better Know』の創業者にして代表的グライムMCの一人だ。Skeptaは2016年にアルバム『Konnichiwa』でマーキュリーの最優秀アルバム賞を受賞している(グライムが受賞するのはDizzeeの1st以来13年ぶりの快挙)。

 

JME - INTEGRITY

 JMEは禁煙禁酒主義者かつヴィーガン、さらに3Dグラフィックで最優秀賞を修めて大学を卒業するもアングラでグライムを志す...という異色の経歴を持つMCで、その生真面目さはどの曲を聴いても飛び交う『Serious』("マジで、真剣に"の意味)の合言葉で端的に現れていると思う。しかし片やゲーム好きで、携帯の着メロ作りやマリオペイントなどで作曲を始めたというから面白い。

 知名度に反比例して、両者ともアルバムの楽曲にすこっっっっしのポップさもない。おそらく日本の"ビート中心でラッパー二の次な"サンプリングヒップホップに慣れたリスナーには取っ付きづらい作品群だと思う。しかし慣れると分かってくるので、ピンと来なければ素直に後回しするといい。

 

Flowdan - Flatline

 FlowdanはWileyや、かつてDizzee Rascalも所属していたクルー『Roll Deep』の主要メンバーの一人だ。地を這う、というか震わせるような低い声があまりに特徴的なMCで、その個性からグライム以外のUK音楽シーンでもよく起用されている。彼の2016年作『Disaster Piece』はシネマティックなパーカッションとホラー的シンセサウンドが多用され、ヒップホップリスナーにはもっとも聴きやすく、かつダークな作品に仕上がっている。どこから手をつけていいかわからない方に是非オススメしたい。

 ちなみにTwitterで彼の曲や名前を呟くとエゴサされてやたらとリツイートされるので、きになる人はカタカナ表記にするといいと思います(心底どうでもいい情報...)。

 

P Money - Panasonic 

"Don’t get rude, don’t hype, don’t risk it
無礼も誇張もするな、そいつを危険に晒すなよ
Don’t give me the lip, ‘cus the red stuff covering your mouth
俺にキスするな、お前のを赤い塗料が覆うから
I ain’t gonna be lipstick
俺は口紅にはならねえよ
Uppercuts and jabs, I’ll mix it
アッパーカットとジャブ織り混ぜるだろうってことだ"

  これは2009年に彼が蹴ったバースのほんの一部だ(上曲の歌詞ではない)。P Moneyはその類稀なワードプレイとユーモアで知られている。『Mad』『Round the Clock』『Numbers & Latters』...など、彼の言葉遊びの傑作は挙げればキリがない。ローカルやリアルに根差し凝った韻律を避けるグライムシーンの中で、彼のような存在は珍しい。

 加えて彼はMCと強烈なビーフGrimeだと"クラッシュ"というらしい)を繰り広げてシーンを沸かせることにも定評がある。昨年のDot Rottenとのクラッシュは総計1時間10分にも及ぶ壮絶さだった。

 

Mumdance - Take Time feat. Novelist

"They could have gucci belts
彼らはグッチのベルトを所有できたけど
But go home to a empty fridge
空っぽの冷蔵庫のために家へ帰る
I take time and think
俺は時間を取って考える
Rudeboy, what you think this is?
不良少年、これはなんだと思う?"

 2014年、ミニマルな楽曲を作るMumdanceと組んで現れたNovelistは"小説家"の名にふさわしく、グライムにしては少し客観的でズレたリリックを書いていた。Ele-kingでプッシュされているので名前くらいは知っている人もいるかもしれない。しかし彼の本領はリリック以上に若さからくる"起伏のある明るいデリバリー"にあるように思う。セルフプロデュースの『Endz』などはその典型例だ。

 ようやく出た新作は歌詞にしてもフローにしても若干キャラを見失っている感じがあったけれど、Spotifyで聴けるので一聴してみることを勧める。

 

JD. Reid feat. D Double E - Roshi

 『常に氷を口に入れながらラップしてるみたいだ!』なんて舌足らずなフロウに対してYouTubeのコメント欄で揶揄されているが、D Double Eのラップは"にも関わらず"、あるいは"だからこそ"、氷柱のように冷たく鋭利だ。UKで著名なMCであるKanoの名作『Home Sweet Home』の客演曲をチェックしてみれば、リリース当時2005年の時点で彼のフローが完成されていることが伺えるだろう。

 今年の2月にアルバムがリリースされたそうだが、ここ日本(というか日本語のウェブ)ではまったくチェックのしようがなくて情報の隔絶具合に口が塞がらなくなる...

 

J-mal - Enterprise

 J-malはつい最近、韓国と日本のグライムMCたちを総動員して楽曲のリミックスを作ったりして話題になったMCだ。はるばる東京までライブしにくるMCはFlowdanやP Money、Novelistなど数多いが、現地のプレイヤーを大規模に巻き込んで行動を起こしたMCは彼くらいのものである。その圧巻の行動力もさることながら、楽曲で披露されるフロウの跳躍、しなやかさは弦楽器の弓さながらに力強い。

 上曲後半ではさらにフランス語でグライムラップを繰り出し始めるものだから「どれだけ器用なんだこの人は...」みたいになる。UKでの注目度は紹介した他のMCに比べ圧倒的に低く、正当な評価がなされることを期待したい。

 

STORMZY - COLD

 2015年に公開した『Shut Up』が瞬く間に1千万再生したと思ったらスター街道まっしぐらにアルバム『Gang Signs & Prayer』をリリース、そのままブリット・アワーズの2018最優秀ブリティッシュアルバムを受賞するという破天荒っぷり。そのアルバムの楽曲群はメジャーを意識したメロウなものが大半を占めたが、いくつかの曲はインディーレーベルのMCたち"よりも"と言って良い正統派なグライムサウンドを聴かせてくれる。

 特にMV公開された『Big For Your Boots』『Cold』の飽和したサブベースや808のハイハットを省いたビートは黎明期のグライムがそのまま進化したような音で、その向きには「これだよコレ!」となること請け合いだ。リリックは知らん(爆)

 

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 どうでしたか?他にも魅力的なMCは数多くいますが、書き漏れたぶんはYoutubeの関連動画から各自ディグっていただきたいと思います...(Kanoなどは純粋なグライムMCか判断に迷ったので保留しました。でもカッコイイんで調べて!)

 

 次回はグライムのビートの作り方について素人なりに考察しようかと思います。そもそもこの記事を書くきっかけになったのはTwitterで一時浮上した『ボカログライム』なる単語がきっかけで、グライムをあまり知らないボカロPの方達の助けになるかな〜〜と今回書くに至りました。

 ボカロシーンはドラムンベースやリキッドファンクやダブステップなど幅広いジャンルにクリエイターがいるので、そろそろグライムもええんじゃないか...などとスケべ心を醸し出しつつ、この辺で一旦筆を置きたいと思います。ではまた!

【音楽の感想文】NF Zessho - CURE

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1.[Side B]intro【Prod by.NF Zessho】 
2.Water flow【Prod by.NF Zessho】
3.Jenny Gump【Prod by.NF Zessho】 
4.Unlade【Prod by.NF Zessho】
5.skit【Prod by.NF Zessho】
6.Blono's Way【Prod by.NF Zessho】
7.Velvet Sofa【Prod by.NF Zessho】
8.the World Beginning【Prod by.NF Zessho】 
9.Inner Child【Prod by.NF Zessho】
10.[Side A]intro【Prod by.NF Zessho】
11.Jenny Gump[Another] feat. サトウユウヤ【Prod by.NF Zessho】 
12.Blono's Way[Another]feat.RAITAMEN【Prod by.Sweet William】 
13.Velvet Sofa[Another]【Prod by.lee(asano+ryuhei)】
14.Refrain feat.Yoshinuma【Prod by.NF Zessho&Yoshinuma】
15.Hey People【Prod by.Arμ-2】
16.Wonder Child feat. 唾奇【Prod by.NF Zessho】

 

 福岡は早良区レペゼン、"ネットネイティブ世代"と形容されるNF Zesshoの3枚目のアルバムだ。まだbenzeezyが"JPRAPドットコム"なんかをやってて、日本語ラップのコミュニティ間で個々のMixtape配信が認識できていた時期からの——とか面倒な説明はいいですよね(チラ)。

 

 事前のインタビューで紹介されているように今作はSide BとAの二部構成となっていて、前編では孤独に制作を続ける彼(全曲セルフプロデュースというから驚き)、後編では仲間とともに前向きに進んでいく彼が描写されていく。この明暗の対比は楽曲もさることながらリリックを通しても見て取れると思う(02.Water flowの"みんな死んだらいいと思った" と 14.Refrainの"俺の仲間や兄弟をRepresent/ラップしてる時それかそれ以上に今も救われてる" の差異はわかりやすい)。

 

 とにかくSide Aの眩しさが印象的なアルバムだ。Side B後半のどことなく色彩のあせた感じ、息苦しさから解放されるように「行きますか」の掛け声とともに始まる11.Jenny Gump[Another]はこころなしかソロバージョンより音が良く聴こえるから不思議。これはサウンドエンジニアのマジックだったりするんだろうか? もちろんサトウユウヤが蹴るバースも一級品で、Jinmenusagiの『このままで』で見せたクールさとスキルをここでも存分に見せつけている。こうなると一刻もソロ作を!となる訳だが...

 

 とりわけ眩しいのはMV公開もされた12.Blono's Way[Another]で満場一致だろうと思う。ソロではそれほど頭に残らなかったHookの"Soulで延命/まるでブチャラティ/アリアリ...Ah"がSweet Williamのビートの上では完璧にキマッていて素晴らしいし、客演のRAITAMENが書くゲームネタ溢れる歌詞もたまらない。2018上半期のベスト・バンガーなこと間違いなし。"ヤバいバイトそれかBYDO"は色々面白すぎでしょ!

 

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 13.Velvet Sofa[Another]のleeが紡ぐピアノ使いの『明るいのにやたら感傷的な響き』とか、あとに続く 14.Refrain で盟友Yoshinumaが繰り出す締めのライン"冴えてないやり方はいくらでもあるだろ"なんかは悲観と希望が濁って入り混じるようで、このアルバムで繰り返し表現されている葛藤を端的にまとめあげてるなと感じた。主役のZesshoもそうだし、聴き返してみるとAWOLの面々も(眩しい中で)どこか影のあるバースを蹴っているのが分かる。

 

 ひとつ物足りないかな、と感じたのはSide Aの"眩しさ"に対してSide Bの"真っ暗さ"が弱いところだ。アルバムで一番邪悪なライムとビートを連ねるWater flowと本人には珍しい808で打ち込んだビートの04.Unladeまでは良い流れなのだが、その後のSkitを挟んだ後は割とポジティブな方向に(ビートがそういう印象にさせているのか)持ち直してしまっているのが個人的にウーンとなるポイントだった。

 どうせならこのまま堕ちるままに転落して悲劇的な末路を迎える、という展開の方がSide Aの光輝く印象に対して強烈なコントラストになったのではと思う。それこそ、先行配信曲の『Quality』で言及した"詐欺のバイト"で逮捕されるオチだったりしたら「伏線だったのか!」みたいになってちょっとチビったかもしれない。

 

 しかしそういった作為的、あるいは『作り物っぽさ』が介入しないワケも分かるのが正直なところだ。インタビューで彼はSide Bを"別の時間軸/IFのストーリー"と表現していたが、実のところSide Bもその時々の彼のネガティブを再現しているだけで、その感情自体はIFでもなんでもないんじゃないかと考える。もちろんこれは憶測に過ぎないけれど、2ndアルバムで彼がラップしてみせた"混沌とした感情模様"を考えるとあながち間違いじゃない気がしてくる。

 

 

 ビートメイク技術はますます磨きがかかり、ラップも三連符を多用した特徴的なものに変わった。配給も自主から大御所のマンハッタンレコードになり、Pitch Odd Mansion周辺の援護射撃も受けて新境地を見せた今作。ようやく陽の目を見つつある彼だけども、次はどんな作品を作ってくれるのか...今後がますます楽しみになるアルバムだった。1stからチェックしている人は分かってくれると思うが、本当に"堅実"という言葉が似合うアーティストだと思う。このまま全力でのし上がって行ってほしい。マジで。(というわけでこの曲でレビューを締めたい)

 

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では!

【走り書き】いちジャンルを打ち立てるために必要なこと

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 例えばロックが生まれたのにエレキギターの発明が寄与しているというのは当たり前であるけど、他にもドラムの素材や鳴り、ジャズの4ビートから8,16ビートに変化したり、ボーカルの発声が変化したり、総合的に変化している。ビジュアルもそうだし...

 

 もっといえばエレキギターの中でもピックアップという弦の『振動の検出方法』だったり、胴体の空洞でなく『電気的な増幅』という土俵が新しく生まれたりで、各分野の発明の上にジャンルが成り立ってるんだなと思う。

 

 で、これを順位として整理すると最終目標に『ジャンル』があり、そのひとつ下に『アイテム』があり、またアイテムはさらに下の『発明』によって生まれていると。

 

     ロックンロール

     ┏━━┷━━┳─

   エレキ弦   ・・・

  ┏━━┷━━┓

ピックアップ アンプ

 

 まあ当たり前な話なんですけどね。

 

 ここからなんですけど、最近分岐ジャンルが増えているのはエレクトリックミュージックで、これらは楽器という形を取らない(ハードでなくソフトウェア)わけですけど、例えば『ワブルベース』というアイテムの元には『フィルターLFO』という古い発明の再利用だったり、『ボーカロイド』は実のところ『サンプリング』だったりしますよね。

 

 さてこのさき、新しいジャンルを考えてくのには当然あたらしい『アイテム』から考える必要があるわけですけど、上述の通りここ最近は根元にある『発明』そのものが行われてないんじゃないかな〜と思うわけです。

 

 これってなんでなんだろうと思ったんですけど、エレキギターって要するにアナログとデジタルのハイブリッドなわけですよ。つまり何が言いたいかというと、「ここ最近の我々はアナログの方面から発明してないんじゃないか?」ということです。工作からの提案が欠けているんではと。

 

 何が理由なんだろう...と考えてみると先進国の通貨高が思い当たるし、あるいは単純に人類が可能性を掘り尽くしてしまっただけなのかも...なんてのも浮かびます。最近じゃ80'sのリバイバルなんてのも流行ってますし。

 

  でも個人的には「まだやれるでしょ!」って思うんですよね。エレキギター以前、金管楽器の、マウスピースから振動を伝達してピストンで管の長さを変え、ホーンで共鳴音を拡張する構造とかを眺めてると惚れ惚れとしてしまいますし、なんかやれそうな気になってくるんですが...

 

 この楽器の発明も整理して考えてみると

 

  振動生成(弦、マウスピース、打面、声帯)

    ↓

  物理的誤差(拡張時の形式、サイズによる変化)

    ↓

  音声拡張(アンプ、ホーン、箱鳴り、喉)

   

 こんな感じになると思うんですけど、なんかこの3つを同時にでなく、個別にひとつひとつ発明してったら新しい楽器できそうな気がしてきませんか? つまり新しい振動生成機、新しい拡張方法です。なんかだんだん自己啓発書みたいなノリになってきましたねコレ。

 

 まあそれが思いつかねえから停滞してんだろって感じですけど、こういうふうに問題を小規模に分割してったら、どっかの馬鹿と天才のハーフみたいな人がなにかしてくれるんじゃないかなと思うわけです。そこのアナタ、頑張って!

 

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 ここからは駄弁なんですが、このブログで『部屋(ジャンル)』という、簡単に言えば「サンプリングリバーブつかって部屋鳴りさせまくる楽曲」を提唱したわけですけど、まああれは冷静に考えてジャンルではないお遊びですよね。正確にいうとアレは『発明』、機能を分類すると『音声拡張』に、そして様々なサンプリングデータ(トンネルや教会、スタジオetc..)を『物理的誤差』と考えることができると思います。

 

 で、サンプリングリバーブってものすごく極端にいうと「死ぬほどでかい箱鳴り、ホーン」を再現してるってことだと思うんです。理論的にいえば、なんの変哲もない弦を箱鳴りさせずに録って、アコギの箱鳴りをサンプリングしたリバーブをかけたら、アコギの音になると思うんです。

 

 サンプリングリバーブってミックスの立体感を出すために使われがちですけど、これって画期的発明だと思うんですよね。アンプのような人工的な増幅と違って、ホーンや箱鳴りのように原音に対して大きな誤差を生み出せるわけですよ。

 

 で、じゃあサンプリングリバーブエレキギターにおけるアンプとしたら、あとはピックアップのような検出装置、まあそれが無理なら新しい『振動生成機』さえ開発できればなんか新しい『アイテム』ができそう...じゃないですか? ていうかここまで書いて気づきましたけど、エレキギターの画期的な面はアンプとピックアップで二重の(エフェクター含めたらそれ以上)原音誤差を生み出せるとこなんですな。

 

 というわけで今後の目標は「楽器で使われたことなさそうな振動」を見つけて「楽器という体になるように組み立てる」というとこを目標にやってくことでしょうかね。まあ気まぐれにゆっくり着手していこうかと思います...まあ、大それた駄文ですよコレは。

【韻律論】脚韻が単語単位でないといけない理由

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九鬼によれば、韻の量には音の応和が一音節に止まるものと、二音節にわたるものがある。さらに、前者は母音の応和である単純韻と、母音に先行する子音にわたっての応和である拡充単純韻とに分類され、後者は最後から二番目の音節の母音以下の応和である二重韻と、その母音に先行する子音にわたる応和を示す拡充二重韻とに分類される  

 ——『九鬼周造押韻論』大東 俊一より

 

 九鬼周造を代表としたマチネポエティク(昭和に行われた定型押韻論を試みる運動)の押韻論は音節に着目していて、おおざっぱにいえば「語尾のふた文字で母音をあわせましょう」という理論を打ち出していた。ここが95年にラップグループのキングギドラが提示した押韻法との決定的な違いで、前者はただ単に『音』を、後者は音をふくめつつ同時に『意味』を、それぞれ比較している。

 

 ごたくを並べるのは面倒なので結論から述べてしまうと、脚韻(文章末尾で行われる押韻)を単語で行わなければいけない最大の理由は『建設的だから』ということだ。

 

 マチネポエティクや現行の日本語ラップのようなある種やんわりとした...音節単位の押韻をつかう場合、どこでどのように踏んだかを記述するのに「あいうえお」や「何文字」といったことを意識すると思う。

 

 しかしこの「あいうえお」の母音のならびそれ自体は何の意味ももたない無機質な記号でしかなく、たとえば韻文を評論するときに「豚肉」という単語から「うあいう」という無秩序な母音のならびを引っこ抜いてきて評価することはない

 

  スーパーで買ったおいしい豚肉(aiu

  燻してベーコンにしたらかじる(aiu

 

 このように一致した母音を引き抜くと、われわれは必然的に、それを音節の量によって測ってしまうはずだ。この場合「3音節」といったぐあいに。しかしでは、音節の量が多ければ多いほど高度で優れているのか? あるいは1音節の一致は押韻といえないのか? 最低でも何音節踏めば...

 

 などなど、量を基軸にした話は不毛になりやすい。なぜかといえばそれは個人の酌量に委ねられるからだ。「どこからが金持ちで、どこからが貧乏、どこから幸せ?」という問いと同じ答えが出る。「ひとによりますよ」と。

 

 

 とこんな感じで、単純な"母音合わせ"は評論するうえで割と不都合が大きい。ではそれに対して単語単位の押韻はどこが優れているのか? それはパターンを分析できるという点につきる。例文を載せようとしたが日本語にはあまりに単語単位の韻がないので、ここではシェイクスピアソネット集の有名な18番を引用してみようと思う。

 

  Shall I compare thee to a summer's day?

  Thou art more lovely and more temperate

  Rough winds do shake the darling buds of May,

  And summer's lease hath all too short a date

 

 ここでは「summer's day(夏の日)」「temperate(穏便)」「buds of May(五月の蕾)」「short a date(短い月日)」という語群にアクセントが置かれ、その中でday-rate-may-dateが完全韻ABABの形式で押韻されている。

 

 そして重要なのが「これらのパターンが四世紀前に既に行われている」という記録だ。これら4つの語群がこのような順番で、こういった文脈のなかで登場するという記録があることで、以降の詩人はこのパターンにうかつに手を出せなくなり、他のパターンを探さなければならなくなる。

 

 こういったことは、単語単位でない「一部の母音の一致」では起きない。先ほど書いた「豚肉-かじる」の母音一致の何が劣っているか詳しく書くと、これらは「豚+肉」と「かじ+る」に分けられ、前者は「ぶ」という音が押韻されておらず、後者は「る」という単語でない接尾辞が混入しており、結果として「豚肉 - かじる」は単語単位の韻、パターンとして認識できないものとなってしまっている。

 

 パターンの創造は非常に重要だ。パターンを生み出すことで記録され、文脈に前例を作り、また新たなパターンを探し出す...という建設的な創造のくりかえしが行われるからだ。こういったパターンのサイクルが見えてこないものは概ね発展しない。

 

 そして日本語における押韻詩のほとんどがこのパターンの構築を欠いており、結果として定型押韻詩の土壌は「ただ語尾の母音が一致してる散文」という体をなしてしまっている。自分はマチネポエティクという運動が、その初めの一歩目からことを誤っていたように思える。定型押韻詩の土壌にまず必要なのは『単語単位で韻を踏まなければいけない』という認識だ。

 

 

 最後にもういちど言うが、重要なのはパターンの創造なのだ。一般大衆にもわかりやすいようなパターンを創造をできないかぎり、その分野に発展はない。「韻をふむ」という言葉の意味を思い出してもらいたい。

【VOCALOID】部屋(ジャンル)について ①部屋感、およびボカロである必然性

・・・部屋(ジャンル)とは

 VOCALOID楽曲において"部屋鳴り"を念頭において制作された曲の総称である。

 ジャズ、ロック、テクノなど、楽器群の区分けを問わず、

 "著者が部屋鳴りに重きを置いた"ものはすべてこのタグに収められる、とする。

 

どうも、Tachibuanaです。

今回は、以前から投稿動画で明言している『部屋(ジャンル)』についてちょろっと書きたいと思います。

 

さてどこから書けばいいのやら自分でも分からないので、まずこのタグを作るインスピレーションの元になった"部屋を感じる楽曲群"をてっとりばやく紹介したいと思います。「そもそも"部屋感"ってなんだよ?」って話ですからね。

 

Bill Evans Trio - Detour Ahead (take 2)


Bill Evans Trio Detour Ahead (take 2) Waltz for Debby 1961

 

この曲は言わずと知れたジャズの名盤『Walts for Debby』から。演奏の最高さはともかくとして、この客席のざわめき、そして食器音!エンジニアの録音レベルへの配慮がこうしたのかもしれませんが、とても"部屋"を感じるでしょう...素晴らしい!

 

Tom Waits - Jesus Gonna Be Here


Tom Waits - Jesus Gonna Be Here

 

酔いどれ詩人ことトムウェイツの怪盤『Bone Machine』から。このかすれた力強いボーカル、ちょっと遠いベース、ささやかなパーカッション(本人による)など、全体でとっても空間的な音で構成されてると思います。

このアルバムは他にも『Such a Scream』『In the Colosseum』『Murder in the Red Burn』など、やたら反響音のでかい音で構成されてて楽しいです。

 

Port O'Brien - I Woke Up Today (Original Version)