韻とアイデアほか

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【Grime】グライムって何——②どうビート作るの?

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「グライムやってみたいんだけど、どうビート打ち込めばいいの?」

「ぶっちゃけトラップと一緒じゃない?」

「どうやってもダサくなっちゃんだけど...」

 

 これは聴き漁ってみて感じたことですが、どうも『グライムのビート』というのは1種類に収まるものではないらしいです。というのも、グライムがそもそも2stepやUKgarageなどから派生し、Dubstepなんかを通過し、Cloud RapやTrapなどがUSからやってきて...と長い時間を経て様々な影響を潜ってきているので、一概に「コレこそグライムだ!」というサウンドを断定することが難しいのです。

 

 なので、今回は様々な音源を比較していくつかの分類に分けつつ、それぞれの特徴を把握していく記事にしたいと思います。今回は各アーティストの説明などはハショらせていただきます(というか詳しく知らない)。中にはグライムっぽくないな、みたいなものもありますがご了承をば。

 そして筆者自身も新参者なので事実認識などテキトーです。そのあたり大雑把に捉えていただければ(失礼!)。それでは最初はグライムの原点...ではなく、それ以前よりあったGarage rapから聴いてまいりましょう。

 

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1.Gagage Rap

 

Pay As U GO Cartel - Champagne Dance

 Garage Rapのビートはシェイカーやハット、ベルが16分(若干スイングぎみ)で刻まれつつ、シンセのサブベースが小粒に乗せられる、という構成ですね。スネアやキックの位置に特に決まりはなく、とりあえず4つ打ちは避けられているといった感じでしょうか。曲調は明るいものが多いように見受けられます。

 ちなみにPay As U Go CartelはWileyがガレージ時代に所属していたクルー。3番手でよくわからない動きしているのが彼になります(失礼)。

 

The Streets - Has It Come to This?

 ザ・ストリーツこと00年代のソングライティングを変えた男、マイクスキナーもGarageビートに乗っかっています。ラップはポエトリーに近いオフビートながら、自家製ビートはしっかりGaregeの特徴を掴んでいます。

 

The Streets - Weak Become Heroes

 こちらのビートではスネアが大胆に省かれていて、エレクトリックピアノのシンプルなリフと相まりとても洗練された印象に仕上がっていますね。

 

More Fire Crew - Oi

 こちらは2001年、ガレージラップとグライムの過渡期にあった曲になるそうです。"音程の少し高いサブベース"そのものが主旋律のメロディーを奏で、ハットは16分ながらやや間の空いたものに。ラップのノリも表拍に重きを置いてシンプルに統一。この辺りからグライムっぽいラップが出現し始めるようです。それでは次は本番、初期のグライムを見ていきます...

 

2.Oldschool Grime

 

Wiley - Wot U Call It?

"Listen to this - it don't sound like garage
コレを聴け——コイツはガレージには聴こえないな
Who told you that I make garage?
俺がガレージを作ってるって誰がお前に話したんだ?
Wooly Kat'z got his own style s'not garage
ワイリーは彼自身のスタイルをやったのさ、ガレージじゃねえ
Make it in the studio but not in the garage 
スタジオで作るが、ガレージの中でじゃねえ"

  2004年リリース。"コイツを何て呼ぶ?"の表題通り、当時は『Grime』という名称が付けられていなかった模様。メロディはガレージから一転して荒々しいものに変わり、ハイハットはよりランダムかつ間を大きく。スネアは偶数拍を打つハネを残しつつも、ガレージより数を少なくしています。何より、サブベースが存在しない!

 この初期グライムのビートは俗に『Eski beat』(彼の初グライムビート"Eskimo"から取っている)と呼ばれているそう。荒々しく、若干ノリが軽くはあるけれど、もっともグライムらしいと言えるビートです。

 

Crazy Titch - I Can C U

 強烈な発声とフロウで異彩をはなっていながら、殺人容疑でグライムシーンの黎明期に刑務所送りとなってしまったMCことCrazy Titch...と紹介はともかく、ハットの途切れ方、スネアのハネ、ベースが上ネタなところがまさに初期グライムな感じです。

 

Kano - P's and Q's

 ガレージからグライム、ロックみたいなビートまで起用に乗りこなすKanoによる初期のグライム・クラシックです。上ネタのホーンをなぞるようにサブベースが添えられていますが...まあ、ほぼほぼEski beatに乗っ取ったビートと言えるでしょう。ビートに関係ないですが、このKanoのバースの形式美が素晴らしい...

 

Dizzee Rascal - Fix Up Look Sharp

 ちょいと注目。この曲は紛れもなくBilly SquierのThe Big Beatのまんま使いかつ、BPMも140でない比較的遅いビート(ヒップホップとすら言える)なんですが、どうでしょう...グライムっぽく聴こえませんか!?

 これはまさしく初期グライムの持っていた『サブベースレス』『間隔の大きく空いたハット(ここではもはや存在しない)』という形式に加え、ディジーオールドスクールなノリの定型ラップ、発声が伴っているからに他ならないと思うんですよね。この曲はグライムのサウンドを考える上でかなり重要な曲だと思っています...

 

 そして第一の黄金期が終わり、しばしGrimeの冬がやってきます...

 

3.Late 00's Grime

 

Ruff Sqwad - Together ft. Wiley

 Ruff SqwadはRoll Deepに並ぶ初期グライムの代表的クルーのひとつで、『Pied Piper』や『Misty Cold』など、他を圧倒するほど冷血なビートの楽曲に定評があります。この曲はそんな彼らには珍しいチル系のビートなのですが...サンプリング使いなのもあり若干グライムらしくない曲になっています。

 2005年リリースであり、当時の古参ヘッズには紛れも無いグライムチューンらしいのですが...この曲は上記の『Fix Up, Look Sharp』と並んで「グライムとは何か?」を考える上で良い参考になると思います。

 

Wiley - Bow E3

 Wileyによる2007年作『Playtime is Over』より。繰り返されるボイスサンプルが特徴的ですが、それ以上に気付かされるのはランダム性を減らしたハットとハネの無くなったスネア、そして何よりサブベース!サブベースが従来より音程を低くし、よりビートの重心を低くしています。この辺りからグライムは少しづつトラップに形態を近づけていきます...(といっても当時はTrapなんて存在しなかったわけですが)。

 ちなみにアルバムリリース当日はDizzee Rascalの『Maths & English』のリリース日でもあり、そのアルバム1曲目には『Pussyole』というWileyディス曲が収録されていたり...そしてその一年後、Wileyは『See Clear Now』とかいう黒歴史をリリースして周囲から顰蹙を買い始めることになります。ゴッドファーザー。。。

 

P Money - Left the Room

 UK発のダブステップがグライムシーンと合流するのは自然な流れだったようです。BPMも合わせやすく、ビートの乗りもグライムのソレより単純で分かりやすく一般人ウケが良い罠(ただしローカルに留まらず世界に派生した結果、本家本元の"Dubstep"はアイデンティティを一時喪失してしまった模様)。時を同じくしてDizzee以降大きな出世が見られなかったMCたちもメジャー界隈に進出...という見方でいいんでしょうか?

 P Moneyは上曲の他にも『Slang Like This』というダブステップビートの曲で混沌としたワードプレイを披露しているので是非聴いてみてください。歌詞みても何言ってるかわからなくて面白いです(爆)

 

JME - Serious Remix 

"You're a wasteman if you're 29
お前は惨めだよ、もしお前が29歳で——
And you're still posing by a road sign
——未だに道路標識の横でポージングしてるならな
You need to think about your lifetime
お前は自分の生涯について考える必要があるぜ
Before you hit 40 with a shank In Your 9
お前が模造の小銃弾に酔っぱらう前にな"

 

  2006年にリリースした代名詞『Serious』によってJMEはグライムシーンでの名声を獲得するわけですが、ここで鳴っているビートはまさに"シリアスな"グライムそのものであると言えます!ハネのあるスネアに間隔の空いた——ってこれ以上繰り返すのもヤワですね。

 しかし10年代に入り、グライムのビートはさらに多様に変化していくことになります...

 

4.10's Instrumental Grime

 

Murlo - Into Mist

 10年代に入る時期を前後して停滞していたグライムラップシーンと入れ替わるように、Big Dadaのリリースしたコンピ『Grime 2.0』など"インストグライム"と言えるシーンが興隆します。...ってネットに書いてありました(爆)。Eski beatに見られた荒々しさとは対照的に、間をさらに大きく使った上品とも言える音使いが特徴的です。

 MCによる高速ラップが乗らないため「間」を繋げる要素の音が存在せず、クラブミュージックとして成立するための難易度が高いです。そしてよりスリリング!

 

Slackk - Posrednik

 ハットのランダム性や持続的なサブベースの不在などは通常のグライムと共通していますが、ラップの代わりに間を埋めるための代替え手段としてリバーブを使用しているパターンが多く見られます。これが上品な印象を抱かせる一因なのかも知れません。

 また、典型的な808によるハットではなくフィンガーや抽象的な打音、あるいは効果音などを使うことによって、ビート全体の質感により繊細なテクスチャを加えている場合もあります。

 

Sully - Assembly 1

 こちらのビートはスネアにあたる部分が別の音(あるいはエフェクトを過激にかけたもの?)に差し替えられており、ドラムプログラミングというよりは全体の音でリズムが作られています。

 もはや"クラブミュージック"なのか、といったミニマルさですが、一応ジャンルとするならグライムに当たる...のでしょう。現地の人はどう捉えているんでしょうか?

 

Novelist x Mumdance - 1 Sec

 そのインストグライムに思い切ってグライムラップを載せたのがこちら。ラップ自体がハイハットの体をなしていて、ほぼほぼ存在しないビートがあたかも存在するかのよう。これで不思議と頭が振れるから面白いです。

 ラップが主役なようでビートが楽曲を支配しているとも言えて、このバランス感は従来のラップミュージックにはありえなかったのでは?と個人的に思います。

 

Trim -RPG

 Trimは伝説的グループ『Roll Deep』の元メンバーです。00年代後半のWileyの迷走に呆れてそのままグループを離脱。その後ミックステープをいくつかリリースしたのち、あのジェイムス・ブレイクの運営するレーベル1-800 Dinasaurに所属するという変わった経歴を持ちます。

 この曲はまさにそのジェイムス・ブレイクのプロデュース曲なのですが、ちょっとインストグライムの流れを汲んでいるっぽい音使いだったので載せておきます。このメジャーアーティストと思えないほど入り組んだ難解さよ!

 

5.And Today's Grime...

 

JME ft. Giggs - Man Don't Care

 この曲はStormzyの『Shut Up』に並ぶ2015年のグライムクラシックらしいんですが、それはともかくとしてビートを聴いてください。ハイハットは一定間隔で並び、サブベースは持続的に鳴っていて、スネアも3拍目に一発だけ...と、上ネタのちょっとスカスカした感じを除いたらほとんどトラップなんですね。

 これは明らかにUSの影響、あるいは楽曲全体の落ち着きを求めた結果なんでしょうが、当初のグライムの特徴からは離れ、トラップとの境目が曖昧になることでUKのアイデンティティを少々失っているようにも見えます。ラップは変わらずグライムそのままですが...

 

Devlin ft. Skepta - 50 Grand

 Devlinは白人グライムMCの中で特に有名なプレイヤーで、過去にWileyとビーフになるなどしています(のちに和解してWileyの傑作『Godfather』で共作している)。

 そしてしつこくなりますがこのビート!トラップじゃないですか!どこが違うんですか!サブベースを減らしなさいサブベースを!現地の人的には「これはグライムだ」という感じで、不満に思っててもいわゆる老害の方々くらいらしいんですが...どうなんでしょうか?

 

Devilman - Chipmunk Reply

 Devilmanはグライムの古典として有名なDVD『Lord of the Mic』にも出演している古参のMCで、2006年にSkeptaとも対戦していたりします。独特の発声と音程のせいかヘイトされることも多いそう(『日本人がブリティッシュを発音しようとしてるみたい』とかコメントで言われてました)。この曲はChipmunkという若手に批難されたことにアンサーした曲です(リリックで揶揄したせいでSkeptaにディスを送られている)。

 でビートなんですが、やっぱりサブベースに一定のハイハットにスネア!くう!

 

Stormzy - Big For Your Boots

 タイトルからしアディダスの広告かよみたいな曲なんですが、ビートを聴いてもらうと分かる通り正統派のグライムビートになっているんですよね。と言ってもアルバムの他のビートはトラップ臭さがあるんですが、こういう曲もちゃんと作れるところがBrit Awordsを受賞できた理由なのかな...なんて思ったりします。

 2018年現在、こういうビートは希少に思われるので最後にピックアップしました。プロデューサーにビガップ!

 

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 いかがでしたでしょうか?割と大〜〜〜きく変遷していますし、10年代中盤あたりからUSに感化されたようなビートが占めはじめるのがよく分かると思います。インストグライムシーンに関しては...ほぼ無知だったので記事を書くために付け焼き刃で情報収集しましたが、18年現在もユニークな楽曲が寄せられ続けているみたいです。

 

 総まとめになりますが、本題のグライムビートの作り方は

  • 16分の間を大きく空けたハイハット
  • サブベースは極力入れず、より高い音程(中低域以上)のサウンドを上ネタに
  • スネアは偶数拍などハネを表現できる位置に打ち込むとなお良し

 この3つを意識すると、トラップと差別化を図れるビートがつくれると思います!もちろんこれは大雑把な定義なので、少々外れても問題ないかと思います。これらを元に筆者もビートを作ってみたので聴いてみてください(といってもEskibeatの丸パクリですが...)

 

 さて次回はついに『グライムのラップの載せ方』を記述したいと思います!筆者の本業はラップ(というよりライミング)の解析だったりするので、けっこう凝った記事が書き下せると思います...期待をば!

 それではまた次回...