韻とアイデアほか

日本語の押韻などに関する走り書きetc...

【Grime】グライムって何——③ラップはどう違う?

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「ビート作ったよ!で、どうラップすればいい?」

「とにかく早口で詰め込んだけど...それっぽくならない!」

「...早すぎて滑舌足りないんだけどどうしたらいい?」

 

 2000年前半、グライムラップはUKガレージのそれとの差別化を図るために、ある面で単調とも言える"強い形式美"に重きをおくようになりました。それは現在のUSトラップがヒップホップから独立する過程で(Migosなどによって発明された)三連符のフローを多用するに至ったのと似ています。

 では具体的にどのような形式があるんでしょう? 今回3回目となる本記事では、実際にグライムの楽曲とそのリリックを参照しながら、いくつかのパターンに分けて考えていきます。そして英詩の構成を踏まえた上でどう日本語に置き換えていくか? ということも提案できればと思います。ではやっていきましょう...

 

1.基本形——拍の頭で脚韻する

 Stormzy - Shut Up

  1拍 2拍 3拍 4拍
1小節 Comes/-/eve/ry where/-/I/- go/-/-/- I/-/can't/-
2小節 run/-/when/my e/ne/mies/- show/-/-/- Walk/-/in/the
3小節 club/-/with/- all/-/of/my thugs/-/-/- Par/-/ty's/-
4小節 Done/-/eve/ry bo/dy/go/- home/-/-/- -

 グライムの基本は4小節単位で韻律を組み、その拍の頭でアクセントを取ることにあります。このような整然とした形式になったのはヒップホップなど既存のラップ音楽との差別化を狙った結果、というのは前回の記事などで述べたとおりです。

 Stormzyのこのバースでは3拍目に文末がくるようにラップが調整されていて、その拍の頭で「go」「show」「home」などの単語で押韻されているのが分かると思います(表が見づらくて失礼)。

 ちなみに3小節目の文末が「thug」で他行と韻を踏み外していますが、これはグライムラップによく見られる手法で、形式にとらわれ過ぎてリズムが単調になることを避けるためもっぱら使われています。

 

Roll Deep - When I'm Ere 

  1拍 2拍 3拍 4拍
1小節 -/-/-/- They/call/-/me Trim/-/when/I'm ere/-/Be/tter
2小節 know/I'm/on/a bad/-/boy/- thing/-/when/I'm ere/-/Like/-
3小節 Roach/-/I/swing -/I/don't/- link/-/when/I'm ere/-/These/-
4小節 grand/-/fa/thers hear/-/my/- swing/-/when/I'm ere/-/-/-

 グライムではしばしば文末を同じ単語で統一するという手法が用いられます。このRoll Deepの代表曲では全員が『When I'm ere(俺がここにいる時)』という文句で全行を締めています。

 ですが表で見た通り、文末を同じくした時にもその直前の語で韻を踏むのがマナーとなっているようです。この場合「Trim」「thing」「link」「swing」の4つですね。そしてやはり、韻を置く位置は拍の頭となっています。

 

Jammz ft Scott Garcia - It's A London Thing

  1拍 2拍 3拍 4拍
1小節 -/I'm/from/my place/-/where/the ci/ty/don't/- sleep/-/So/-
2小節 man/-/can't/- roll/-/with/the take/-/time/- don/-/Hung/-
3小節 ry/you/know/- me/I've/got/- get/-/mine/- don/-/I/don't
4小節 wa/nna/be/a stru/ggle/or/a get/-/by/- don/-/-/-

 こちらの曲はまさに文末統一の手法を多用して作られた曲で、「don」「zone」「Endz」...といくつかの語に移動しながら詩が記述されています。

 注目してほしいのはこの3拍目、「take time」「get mine」「get by」といった風に2語に渡って押韻されているんですが、この時も必ず拍の初めから韻を配置しているのが分かると思います。

 こんな感じで、単語、複数語に関わらず拍の頭に韻を揃えてあげるのがグライムラップをする上での基本となります。

 

 では次に、上記の基礎を応用したフロウをいくつか紹介したいと思います...

 

2.大きく間を開けたフロウ

Wiley ft God's Gift - And Again

  1拍 2拍 3拍 4拍
1小節 -/-/-/- -/-/-/- -/-/-/- -/-/-/-
2小節 It's/a/new/- day/-/now/- blud/I/ain't/- hold/-/ing/
3小節 back/-/-/- -/-/-/- -/-/-/- -/-/-/-
4小節 Spit/-/bars/- like/I'm/on/an old/-/school/- Roll/-/deep/-
5小節 track/-/-/- -/-/-/- -/-/-/- -/-/-/-
6小節 Went/-/top/- five/-/with/the sound/-/that/- I/will/-/per
7小節 sue/-/-/- -/-/-/- -/-/-/- -/-/-/-
8小節 But/I've/go/to let/-/them/- know/I/ain't/- on/-/ly/-
9小節 that/-/-/-      

  グライムは何も詰め込むだけが全てではなくて、たまにはゆったりとビートを乗りこなす場合もあります。Wileyのこの曲では1行リリックを吐きだすごとに1小節と大きく間を取ることで、楽曲に余裕や落ち着いた印象を与えています。

 押韻の配置も「holding back」「Roll Deep Track」「only that」と4拍目から次の1拍目にまたがることで、ラップ自体がビートに新しいグルーブを生み出すことに成功しています。3行目が意図的に踏み外しているのは前述の通り。

 また、間の空いた部分に掛け声(合いの手)を入れたりして、間延びした感じをなくしたりもしていますね。

 

Dizzee Rascal - Sittin Here

  1拍 2拍 3拍 4拍
0小節 -/-/-/- -/-/-/- -/-/-/- I'm/-/just/-
1小節 sitt/-/ing/- here/-/-/- I/-/ain't/- say/-/ing/
2小節 much/-/I/- just/-/-/- think/-/-/- -/-/My/-
3小節 eyes/-/-/- don't/-/-/- move/-/-/- left/-/or/-
4小節 right/-/they/- just/-/-/- blink/-/-/- -/-/I/-
5小節 think/-/-/- too/-/-/- deep/-/-/- and/-/I/-
6小節 think/-/-/- too/-/-/- long/-/-/- Plus/-/I/-
7小節 think/-/I'm/- gett/-/ing/- weak/-/-/- cause/-/my/-
8小節 thoughts/-/are/- too/-/-/-  strong/-/-/-   

  Dizzee Rascalの1stアルバム、そのintroにあたるこの曲ではBPM162の速度に対して半分のBPM81でラップを割符することで、ぽつぽつと語り始めるような雰囲気をかもし出しています。早口という印象が先行しがちなグライムには珍しい楽曲ですね。

 そこから一転してhookになると高速なフロウに切り替わったりして、楽曲にうまく緩急ができています。グライムではないですが、似たような構成の楽曲ではAesop RockのBig Bangあたりが参考になるかもしれません。

 

D Double E ft Wiley - Better Than the Rest

  1拍 2拍 3拍 4拍
0小節 -/-/-/- -/-/-/- -/-/-/- -/-/Cuh/-
1小節 you/can/put/- me/-/to/the test/-/-/- -/-/-/-
2小節 Blood/-/there's/- no/-/con/- test/-/-/- -/-/-/-
3小節 Which/-/sound/- boy/-/wa/nna test?/-/-/- -/-/Right/-
4小節 now/-/blud/I don't/-/care/- less/-/-/- -/-/You/can
5小節 make/a/bird/- call/-/to/the nest/-/-/- -/I/got/-
6小節 man/-/that/- wa/nna/in/- vest/-/-/- -/I/got/-
7小節 le/-/bels/- show/ing/in/te rest/-/-/- -/-/Can/you
8小節 smell/-/that/- le/-/mon/-  zest?/-/-/-   

  D Double Eのこのバースでは3拍目から4拍目にかけて間を取っていますが、同時に「test」「contest」「nest」「invest」「interest」「zest」とほぼ全ての行にわたって「est」の完全韻で揃えられていて、非常に整然とした印象を受けるかと思います。

 こんな風に、整った韻律と間を取ったフロウはちょっとした高尚な響きをもたらしてくれるので、表現にひとあじ加えたい時には意識するといいかもしれません。Dizzee RascalのJust A Rascalという曲でも似た構成のバースが確認できます。

 

 ではこんどは逆に、整理されていない、あるいは間を取らないラップを見ていきましょう。意外にもグライムのラップは多様です...

 

3.ライムを混濁させる

 

Mr.Mitch ft P Money - Priority

  1拍 2拍 3拍 4拍
1小節 -/-/-/Thank -/you/for/the life/-/I've/been blessed/-/with/-
2小節 -/-/-/- -/-/Black/- tra/-/cky/black -/hat/-/still
3小節 feel/-/ing/re flect/-/ive/- -/-/Re/mi ni/scing/a/bout
4小節 -/life/-/and then/high/-/light -/ing/all/the best/-/bits/-
5小節 I'm/start/ing/to see/-/why/- I/was/be/ing test/-/ed/-
6小節 -/Feel/-/ing god/-/like/- -/Let/me/ex plain/-/be/fore
7小節 -/you/get/o ffend/-/ed/- -/-/He/cre at/ed/us/I
8小節 cre/at/ed/a son/-/now/I see/-/life/- from/his/-/per
9小節 spect/-/ive/-      

  P Moneyはこの曲でライムスキーム(韻律構成)をことごとく掻き乱していて、今までに紹介した曲と見比べてもらえば分かる通り『同じ拍で韻律を揃える』という暗黙の了解を無視しています。

 太字の箇所はすべて同じ韻律ですが、「blessed with」「best bits」「tested」は4拍目、「reflective」「offended」は2拍目、「perspective」は1拍目とズレており、レイドバックした(オフビートの)フロウと相まって混沌とした心模様をうまく表現できています。

 ちなみに「reflective」「offended」「perspective」の3語が拍の頭にあっていないように思われえるかもしれませんが、これは英語の発音の強弱を利用したもので、例えばこの場合「reFLECTive」「oFFENDed」「perSPECTive」の大文字部分を強く発音するので、結果的に拍の頭に(音楽的に)揃っているように聴こえるわけです。

 

 さらに2小節から4小節目を見てもらうと「Black tracky」「black hat still」「about life and」「highlighting」でそれぞれ中間韻を踏んでいるんです!耳あたりもさることながら、彼の純粋なスキルの高さをここでは伺うことができます...

 

President T - T on the Wing

  1拍 2拍 3拍 4拍
1小節 -/-/-/- Touch/-/ing/the sur/-/face/- but/it/ain't/-
2小節 touch/-/ing/the sides/-/-/- 'Nuff/of/these/- guys/-/are/-
3小節 tak/-/ing/- steps/-/-/- -/But/I'm/- tak/-/ing/-
4小節 strides/-/-/- -/I/was/in H/-/M/- P/-/-/-
5小節 And/left/-/for dead/-/-/- -/-/Don't/- men/-/tion/-
6小節 where/-/you/were born/-/-/- if/you/ain't/- mak/-/ing/-
7小節 bread/-/-/- so/far/-/a head/-/-/- -/I/mean/-
8小節 when/I/check/it out/-/-/- Ain't/-/done/- half/-/of/my
9小節 sent/-/ence/- stuck/-/in/-  pen/-/-/-   with/out/-/re
10小節 pent/-/ance/-      

  President Tはグライムシーンでも飛び抜けて奇妙なスタイルで知られていて、その野太い声に似合わない激しい抑揚はもちろん、そのリリックのライミングも独特で、聴いていると一体どこが小節の境目なのか分からなくなってきます。

 冒頭10小節では「sides」と「strides」、「steps」と「dead」と「bread」と「head」が脚韻、「half」と「stuck」が中間韻、しまいには「taking」と「HM」と「mention」と「making」の中間韻が「sentence」「repentance」の脚韻に対応...といった具合に、奇抜なフロウに隠れてリリックもとんでもない技巧で形成されています。

 そしてここまで混沌とした内容にもかかわらず、やはり拍の頭で韻をふむという前提は守られているのが分かると思います...

 

 4.おわりに

J-mal ft Korea X Japan Allstars - Next Level Asia Remix

 

 いかがでしたでしょうか? グライムラップをする上でのリリックの書き方、みたいなものが捉えられてきたでしょうか。ここからどう日本語に落とし込むか...これからMCを目指す人に少しでもヒントになれば幸いです。

 

 最後にこれは筆者からの提案ですが、本場のラップのように脚韻をピシっと決めるには90年代の日本語ラップのように体言止めを多用するのが望ましいように思います。

 というのも、現在の訓読みによる自然な語順のラップですと1単語で韻をふむのに何音節も使ってしまい、グライムのようなシンプルな(1,2音節の)リズムをつくるのが難しいのです。(なぜ単語単位で韻をふむという前提なのかというと、その方が音楽として歯切れがイイからです。詳しい説明は省きますが、あとこんな理由もあります

 その点、音読み(熟語)は1単語あたり2音節ていどで効率がいいため、グライムのようにタイトなラップをするうえで相性がいいのでは...と考えます。まあこの辺りはこれから日本語グライムを開拓していく方々に任せたい!

 

 そしてオマケですが、「グライムのラップしたいけど今はまだビートが作れないよ!」という方のために下に小さなインスト集を公開したので、練習がてらご自由にお使いください(稚拙なのはご愛嬌...本職じゃないし!)。使用した際はコメント欄でご報告いただければありがたいです。

 インストはこれからも小規模に制作を続けつつ、そのうちコンピの企画でもして少しでも日本語グライムシーンに貢献していけたらと考えています(あるいは誰かやって)...そのときはよろしくお願いします。

 

 

 以上、三部にわたるグライム紹介記事でした!大手メディアの方々、もっと紹介に邁進してくださいね!

 それではまた次回!