韻とアイデアほか

日本語の押韻などに関する走り書きetc...

【駄文】"老い"への羨望

Madvillain - Accordion

"Living off borrowed time, the clock tick faster

借りた時間に生き、針の傾きは速度を増していく"

 

 "I-C-E cold, Nice to be old

氷結はつめたく、老成はめでたい"

 

 老いることに憧れがある。もちろん自分の父親や飲食店で怒鳴り散らす中年男性を見ては「ああはなりたくない」と思ったりもしたが、正しく老いた人は魅力的だ。バイト先に居た古い女性店長(もういない)の厚化粧の奥にのぞく"熟れ"を見るたびドキドキと胸を鳴らしたものだったし、気がつくと聴いている音楽も中高年が歌唱、演奏しているものばかりになってしまっていた。

 

 少し考えてみて分かったが、自分は老い老いることそのものでなく、「老いを肯定しつつそれを恥じもする人」に惹かれるんだなと思う。例えば前述の女性店長は『化粧越しに垣間見える老い』が、老年の音楽家は『年齢と技術に裏打ちされつつも未開の境地を探ろうとする意志』がそれぞれを素晴らしくしている理由になっていると感じる。逆に恥じていない人は魅力的には映らない、ということかもしれない。

 

Lucinda Williams - Dust

 あと『老いそれ自体の素直さ』だ。老いそれ自体は抗いようがないし、思春期の悩みにありがちな"毎日トイレで排便する生理的な汚さ"とか"体毛の成長への嫌悪感"よりは段階的で長期的だ。皮膚と声は片道を一方に進むし、嘘がつけない。「素直なのはいいことだ」と中学の担任も言っていた。上の口では...え?

 

Mose Alison - My Brain

 "皮膚と声は片道を一方に進む"と書いたが、これは例えばインストのジャズプレイヤーなんかを聴くとよく分かると思う。楽器の演奏者の場合、なんの記載も見ずに数十曲を聴いて時系列順に並べるといったことは難しいと思う。もちろん録音技術とかを省けばだが。だが歌手だと比較的容易だ。『演奏が枯れる』とは言うが、声ほどはハッキリと映らない。

 

Norma Winstone - Giant's Gentle Stride

 ではなぜそれらに憧れてしまうのか...と考えてみる。ひとつに自分の若さ、存在のうわつきに対して時間の蓄積、経験の重さを感じるというのがある。あとは『自分より死に近い存在』という神秘性が由来しているかもしれない。学習によって手に入らない、時間だけがそれを与えるという手の届かない感じ。

 威厳ある彫刻や写実的な油彩のような彫りの深さを魅力的に感じるが、それは肉体をともなっていて、そこから"生"を意識させられるから、というのもあるだろう。現代の環境は機能的すぎて屠殺や飢餓のグロテスクさからは遠く、潔癖でつやつやした若者からはそれらの"生"は得られない。

 

Tom Waits - All The World Is Green

 ...などと書いてきたが、あくまで老成の成功例、しかもその表面だけを摘み上げてああだこうだとくだを巻いているだけで、ほとんどの場合「老い」は醜いのも確かだ。いずれは粗相した汚物を見下ろしてパンパースを履かなければならないと悟る日がくるだろうし、介護施設で何も食べてないのに口をくちゃくちゃ鳴らして、若い連中に便器を磨かせたりするわけだ。

 

Jehst feat. Ennio Lion & Mr. Thing - Smoke Screen

 まあそんなわけで老いに憧れているというよりは『老いへの恥』に心を動かされるのかなと思う次第。だから理想的な老人になるには恥を忘れないことがなにより、と結論づけておくことにする。そういえばパンク詩人と銘打たれたチャールズ・ブコウスキーも、賭博に外出するときは必ずスーツだったそうな。なるほど。

 

 ところでロリババアっていうジャンルがありますけど、あれ口調以外何一つ加齢してないしフェイクですよね。もっと皮膚と声の年齢を高めるべきだと思います...艶のある中年声優使うとか、目尻やまぶたの皺を描くとかそういう...説得力がないですよ!