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【UK Hiphop】英国ヒップホップはDirty Dikeから知れ!

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英国Hiphopシーンの復活、その立役者

 

 ンブリッジ出身、元レイブシーンのDJ..."汚い堤防"のMCネームの通り、彼はイギリスのヒップホップでも随一の底汚さを誇るラッパーです。猥雑さの目立つリリックは過剰かつ整然とした韻律で占められていてヘッドバングに耐える完成度ながら、半分くらい意味不明であることも魅力のひとつです。

 その破綻したスタイルは技術以上に"彼自身の魅力"で成り立っているといって良く、代表曲のひとつ『I Ain't Got A Crue(確証にはならない)』でもその点に言及しています。

 

Dirty Dike - I Ain't Got A Clue

"Rappers stepping to me, they want to get some
ラッパーどもが近づいてくる、関係が欲しいのさ
But most of them should go and eat a hand full of fuckin' shit
だが大半の連中はやってきて手に余るウンコを喰らうだろうね" 

 

 そんな誠実とは言いがたい彼がなぜ"立役者"となりえたのか? 今回は彼の成し遂げた多方面での功績に目を向けながら、最新の英国ヒップホップシーンも紹介していきたいと思います。

 

1."サブカルチャー、アングラ"からの離脱

 

Jehst - Monotony

 00年代、Low Life Recordsを中心として花開いたUKのアングラヒップホップシーンは意識的な詩による傑作が数多く生まれるかたわら、陰湿とも言える空気感が楽曲に漂っていました。90年代後半のトリップホップともまた違った、英国の曇り空をまざまざと反映させたような曲調です。

 それは"アメリカの模倣からの離脱"を無意識、あるいは意識していた結果という点でグライムシーンと似ていますが、若者というよりは社会人によるラップであり、"社会現象"として弱かったUKヒップホップシーンはメジャーなメディアで取り上げられることはありませんでした。あるいはそれをシーン自体が拒んでいたという面もあるでしょう。

 代表的なラッパーにJehst、Taskforce、Klashnekoff、Skinnyman、Rodney P、Rhyme Asylumなどがいます。

 

Rhyme Asylum - Smoke Screens & Pipe Dream

 もちろんForeign Beggarsなど比較的明るい曲調を扱うラッパーたちも存在しましたが、彼らはUKヒップホップのコミュニティから次第に離れていき、最終的にはダブステップのビートに乗って別の方向へ去っていきました...

 さらに中心的レーベルだったLow Life Recordsの代表Braintaxが多くの印税を未払いのままオーストラリアへ逃亡し、シーンは暗転していきます。その顛末はJehstの『Australian』で語られています。

 

Foreign Beggars ft. Dr.Syntax - Glacial 

 

Jehst - Australian 

 相変わらずUKHHなどのコミュニティは存続していましたが、シーンの中心となる基軸が欠けたままシーンは10年代へ突入していきます...そこで姿を表したのがラッパーのFliptrixが立ち上げたレーベル『High Focus Records』です。

 

Fliptrix ft. King Kashmere - Smoke Lingers Always

 安価に高品質な映像が撮れるハンドカメラの普及、YouTubeでの世界単位なインディムーブメントの加速などに乗る形で登場したHigh Focusは瞬く間にUKヒップホップコミュニティでの市民権を獲得し急成長、現在ではUK最大のヒップホップレーベルとしてフェスを主催するまでに至っています。

 そしてこのHigh Focusが興隆する最初のきっかけになったのが本記事の主役、Dirty Dikeによる楽曲『Pork Pie』なのです。

 

Dirty Dike - Pork Pie 

"I'm board of my life
俺は俺の人生の取締役だ
Talking my shite
俺のクソを喋って
Snorting my lines
歌詞を自嘲してやるのさ
Like pork to the pie
ポークからのパイみたいに" 

  それまでのUKヒップホップシーンに存在しないようなふざけた内容、ショッキングな映像、そして何よりしなやかでキレのあるフロウ! 楽曲の単純な格好よさはさておき、この汚い存在としての姿勢がシーンへのカウンター(そして若者への求心力)として大きく機能する結果となりました。既存のアングラ然とした楽曲に対する風通しのよさを感じ取ってもらえるかと思います。

 この楽曲が収録されたアルバム『Constant Dikester』はMr.Constant手がけるビートも手伝い、Classicのひとつとなりました。ここが彼のキャリアの本格的な始まりになるわけです。

 以後、彼は『The Sloshpot EP』『Return of the Twat』『Sucking On Prawns In The Moonlight』などのアルバムをリリースしていきます。

 

Dirty Dike - All Things Considered

 

Dirty Dike - One Drink?

 

Dirty Dike - Mallory & Josephine

 そんな絶好調な彼も過去に地元ケンブリッジの環境、そして家族に苦しめられていたとか。その様子に関しては本人のTwitterや一部の真面目な楽曲から伺うことができます

 

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 "俺がだいたい3歳くらいのころ、俺の母親は生活費のために俺をジャガイモの採集に連れていったんだ...俺の親父が牢獄にいる間な。人々は今でさえあの仕事をするのか? 俺は農場でそいつを愛したものだったな"

 

 彼の生い立ちが知れる楽曲『New Street』は2分未満と短いので全小節を訳してご紹介いたします...

 

Dirty Dike - New Street

"I remember every second of youth's grief
青春時代の悲しみ、その全ての瞬間を覚えている
My two feet stepping through the sections of New Street
俺の二本の足ニューストリート区画歩み過ぎる
Have you ever seen death as a kid?
お前はガキみたいに死ぬのを見たことがあるか?
Seen your best friends' parents injecting a pin?
親友の両親が針を注射するのを見たことは?
I was wise by age five, heroin's grim
俺は5歳で賢明だった、ヘロインは恐ろしい
I saw my friends mom die right next to the bin
俺は瓶のすぐ隣で友の母親が死ぬのを見た
The lesson begins, you've never seen a hippy speed addict
レッスンの開幕だ、お前はヒッピーの覚醒剤中毒者を見たことがない
Try and tell your little sister that he's yet to breath magic
お前の可愛い妹にアレが息の魔法にかかってないと話してみな

You ever seen your step dad in rage?
継父が怒っているのを見たことは?
And your mom press the buttons for a smack in the face?
そしてお前の母親が顔に平手打ちされるためにボタンを押すのを?
So back in the days, I went to see my dad in a prison
そうその頃、俺は牢屋にいる父親に会いに向かった
If you've never seen that best be glad that you didn't
もし見たことがないなら、お前がそうならなかったことが最高に喜ばしいね

From rags to the ribbons I've been listening plus
ぼろ布が跡形もなく裂けるのを聞いてきたうえ
I witnessed enough to disrupt my vision of trust
信頼の幻想崩すには十分なほど目撃した
Big and you're tough? As if you think I'm giving a fuck
大げさで不愉快だって? 俺が犯してると仮にお前が思うみたいに?
I'm skinny and broken hustling so give me your stuff
俺は痩せっぽちのイカれたペテンだよ、だからお前のモノをよこしな

Now I remember seeing Gary with the scabby arms
今、俺はカサブタだらけの腕をしたゲイリーを見ているのを思い出す
Peddling my raleigh past his happy little scaggy stance
彼の少し不気味な立場の幸せローリーの自転車を漕いで過ぎていく——
Puffy elbows were bigger than a tennis ball
——パフィの肘はテニスボールよりデカかった
Listen it's an intellect a kid could never get at school
聞け、こいつは子供が学校で永遠に得られない知恵だ
I had stories I didn't wanna tell a fool
俺には物語があって、馬鹿を話したくはなかった
And figured in my head, I wasn't living very well at all
そして頭の中で形取る、俺は全てにおいて立派に生きちゃいなかった
And nothing in the fucking fridge was ever edible
そして糞ったれ空っぽの冷蔵庫には食えるものは何ひとつなかった
Juggling the quids, through the summer at the festivals
1ポンドを出してはしまって祭りの夏を過ごしたのさ"

 

 アンダーラインの部分が韻、太字が脚韻の部分になります。聴いてもらっても見てもらってもわかる通り、彼のリリックは非常に韻律に凝っていることが分かると思います。しかもこの曲での"過去の回想"という一定のテーマを保ったままです。少なくとも日本でこのレベルのMCというのは存在しないかと思われますね...

 

 さらに彼は自身のクルー『Contact Play』に所属しており、芋づる式に同僚たちが次々とHigh Focus Recordsでデビューを飾っていきます(実はJam Baxterの方がデビューは先)。その連続がUK Hiphopをさらに盛り上げていったことは言うまでもありません。

 どのラッパーも素晴らしいので、追い追いチェックしてみてほしいです。

 

Jam Baxter - Incoming

 

Ed Scissor & Lamplighter - Week

 (どうでもいいですが、この曲を初めて聴いたときは軽く失禁しましたね)

 

Mr Key & Greenwood Sharps - Icarus Instinct

 

Ronnie Bosh - Escapism

 

Edward Scissortongue ft. Contact Play - Coma

 クルーが唯一全員集合している楽曲。Lamplighterのビートがあまりにも...人生の深淵みたいなものを覗かせます。

 

 さて彼のラッパーとしての実力は見てもらったとおりです。数々のクラシック、客演のバースなどを通過して現在の彼が居るわけですが...実はそれだけではありません。

 彼、実はプロデューサーとしても一級の実力があるのです!後半ではいかに彼がプロデューサーとして活躍し、そして音楽シーンに貢献したかを紹介していきましょう。

 

 

2.重厚なビートメイク、スターの発掘、輩出...

 

Rag'n'Bone Man - Human

 突然ですがこの方をご存知でしょうか? メジャーデビューアルバムが英チャート1位を獲得するなど、今のイギリスシーンで最注目のソウルシンガーことラグ・ン・ボーンマンです。英国最大の音楽賞『ブリット・アワード』2017の新人賞を受賞していることから、知っている方も多いかもしれません。

 ではメジャー以前の彼をご存知の方はいるでしょうか?

 あるいはインディー時代、彼のプロデューサーとして大きく貢献した人間の名前は...

 

 そうです。何を隠そう彼のメジャー進出にはDirty Dike、彼の功績が大きくあるのです!

 

Rag'n'Bone Man - Put That Soul On Me

 Dirty Dikeのビートはジャズのサンプルに図太いサブベース、という90年代ヒップホップの王道を行くスタイルなんですが、それがRag'n'Boneの声と合う合う!

 この曲はわずか3曲しか入っていないEPからの主題曲ですが、フルートの軽やかな音色が絶妙にソウルフルな歌声を縫うように引き立てていますね。

 

Rag'n'Bone Man - Across The Sky

 同EPからもう1曲...サビのパートを除きサブベースとドラムのみという信じられない構成なのですが...信っっっじられないほど格好良い!!!

 余計な音をはぶいた贅沢な音空間に、ホーンのサンプルへかけられたリバーブの反響音が染み渡るさまがなんとも言えません。スローなBPMがこのアダルトな雰囲気に拍車をかけていて、ただただ素晴らしい...

 

 Dirty Dikeのプロデューススキルはいかがでしょうか? もちろん彼がスター輩出に貢献した例はこれだけに止まりません。次はUK Hiphop随一のスキルと言われるこの方を紹介しましょう...

 

Ocean Wisdom ft. Dizzee Rascal - Revvin'

 畳み掛けるようなマルチプルライムと淀みなく流れるように多音節をいなす高速フロウ、そしてあまり耳慣れない絶妙な声質。Ocean Wisdomは2014年に突如シーンに姿を現し、その超絶スキルでシーンを席巻、あっという間にシーンのスターへと進出してしまったラッパーです。

 あまりに進出が早過ぎて、2018年にリリースした2ndアルバムではDizzee Rascalをはじめ、Root Manuva、Jehst、Rodney P、Chester PなどのUKのレジェンドを巻き込み、終いにはWutang ClanのMethodmanまで客演に呼んでくるなど、とどまることを知りません...

 

 さて、そんな新星Ocean Wisdomですが、彼がどういう経緯でスター街道をひた走ることになったか...ここにもやはり、Dirty Dike彼の存在が関わってくるのです。

 

Ocean Wisdom - Walkin'

 古い映画のサウンドトラックからサンプルしたかのような異様なビート、それを叩きのめすようなOcean Wisdomのラップ..."フロウの展覧会"とでも言うようなこの曲は一瞬でどでかいバズを獲得、ついでHigh Focusと契約、1stアルバム製作開始...と怒涛の勢いで事が進んでいきます。

 そして1stアルバムの詳細が発表されるわけですが、そこで並んだ文字は...全曲Dirty Dikeプロデュース!

 

Ocean Wisdom ft. Remus - O Kiddi K

 Dikeの援護射撃を受けたアルバムは統一感がすさまじく——あとはまあ前述した通りです。High Focusの面々による客演も素晴らしく、UK Hiphopの新時代を予感させるアルバムとなったわけでした。

 ところでこの曲で客演しているRemusっていうラッパーのスキルがまた壮絶で(個人的に主役を食ってると思います)、いったい何小節蹴ってるんだ?っていう熱量もたまりません。

 

 さてここまでスターダムを駆け上がったプレイヤーを紹介しましたが、もう一人、変わり種も紹介しましょう。今度は一転して"アングラシーンのスター"です...

 

Lee Scott - Tunnel Deep

I tried to get a job once but they were too suspicious
俺はいちど職を得ようとしたが奴らは懐疑的すぎた
Like what sort of human is this
まるで「こいつはどういう種類の人間なんだ」みたいに
It's a brutal business
コイツは残酷なビジネスだぜ
If only Dr Dre would do me mixes
もしドクタードレが俺を混ぜるつもりなら
My name would suit the Rich List laaaah
俺の名前は富豪リストに見合うだろうにな〜〜
A bit blitzed eating shark fin and chips
ちょっとチンした食いかけのフカヒレとフライドポテト
Extinct spotted ham fish dish left to rot in the fridge
絶滅した斑点付きのハム魚料理を冷蔵庫に腐れに隔離した

 

 奇妙で笑わせるリリックに英国一きったない発音、そして戦車のキャタピラを思わせるような鈍くもたれるフロウ...Blah Records所属のLee Scottは前述したふたりのスターに比べ知名度に劣りますが、UK Hiphopコミュニティの中で知らない人間はいない、くらいの存在です。

 ちかごろ彼がリーダーを務める名のままカルトじみたクルーCult of The DamnedはSkepta(!)などのグライムMCにツイッターでコメントされ、メジャー層の人間からもちょっと注目を集めるまでになっています。

 

Cult of The Damned - Civilized

 Cult of The Damnedの面々はソロ名義でBlah Recordsに曲を落としているので、気になる人はYouTubeでチャンネルをチェックしてみてください。オススメはBlack Joshですね。

 さてそんな彼を一層有名にしたのが...もう言う必要もないでしょう。彼です。

 

Lee Scott - Everythang is Money

 

Lee Scott - Manatee Rap

 

Lee Scott - Eight O'Clock In The Morning

It’s a still summers day, but it sounds like autumn
それはまだ夏の日、だが秋のように聞こえる
When I’m walking on the remains of memory lane
俺が記憶の細道を歩いていると
Like dry leaves that crunch beneath me feet
まるでバリバリと足元の枯葉が——
But when I look it’s just the concrete cooking in the heat
——だが俺が見やるとそれはただの熱に焼かれたコンクリート

 

 ハッキリいって傑作です。アルバム『Butter Fly』で繰り広げられるビート群は一級品なんてものではなく、いつも以上に多彩でトリップ感を湛えたそれに乗っかるLee ScottのラップもBlah Recordsで披露するより力が入ってるように聞こえます。カリスマとカリスマのタッグ...傑作にならないわけがありません。

 なによりスゴいのがアルバム通してこのクオリティが維持されていることで、完成度はさながらケンドリックラマーの盤です。ぜひ購入を勧めますね!

 

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 いかがでしたでしょうか。追えば追うほど彼のリビングレジェンドっぷりが理解できるかと思います...Twitterを見るとどうやら新作への準備が着々と進んでいる模様なので、知らなかった人はこれを気にYouTubeをサーフィンするなりして、未知の傑作へと期待を膨らませるのがイイと思います。

 稚拙でしたが以上、Dirty Dikeの提灯記事でした!また次回〜〜!