韻とアイデアほか

日本語の押韻などに関する走り書きetc...

【Quake(仮)】新ジャンル提唱のための前書き、あと材料各種

 

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固定観念に"震災"を起こせ

 

 塚治虫がコマ割りに革命を起こして"Comic"から"Manga"へ独立させたように、日本のラップミュージックも既存のジャンル...つまりヒップホップやトラップ、グライムなどから独立できないかなと考えるわけです。

 なぜ独立しようとするか!まず第一に『自立した文脈がなければずっと海外のトレンドを追いかけ続けるだけになって、ようするに"先頭"にはなれないから』です。

 今日のマンガ界は数え切れないほどの個性で溢れていて、先人若手ふくめ海外のバンドデシネやアメコミからの影響を公言している作家はたくさんいます。しかしそれら全ての作家が"漫画家"たりえるのはひとえにマンガの作法に乗っ取っているからだと思うわけです。つまりコマ割りや特徴的なデフォルメ技法...などなど、いかなる影響があっても根幹をなす定義の存在を第一にしている。

 何が言いたいかというと、日本の音楽もコマ割りのような新しい技法、枠をでっちあげて、その上でやったらいいんじゃないの、ということです。そしてその大枠の中でさまざまな分岐を新しく作り出していく。海外から分譲された土台ではなく、です。

 

 

 考えてみてほしいのが、いったいアメリカのどれくらいのアーティストが『あいつは海外のアレのパクリだ』な〜んて言われてると思いますか? あるいはUKのグライムはUSの後追いだったか。逆に『Weeaboo』という単語について考えてみるのもいいでしょう。けっきょくのところ、土台が借り物の時点でコミュニティがいくら日本独自のものだとしても最終的にソレは借り物にすぎないわけです。

 それはつまり、トラップをプレイしている日本のプレイヤー彼ら自身が、実質的にはトラップの同好会を運営しているに過ぎないような状況ということ。コデイン大麻もリーンもやらないし治安もいい、環境と音楽がリンクしていないからリスナーが音楽を通してレプリゼントする環境もない...トラップ以前のヒップホップ、あるいはJポップにしたってそうです。誰が涼宮ハルビンで抜くんですか?

 

WEEABOOS

 

LET'S ARGUE ABOUT K-POP

 

 これは別に商業として成立しているとか、メジャーであるといった計量で言っているわけではありません。仮に日本のラップミュージックがお隣韓国の音楽のように国民一般に大きく支持されていたとしても、あるいはアメリカのチャートで一定の成功をおさめていたとしても『借り物は借り物』なんだということです。

 

 「独立だって!グローバルな視点を持ったら?」と思いますか?

 では逆に問いかけますが、グローバルな視点を持ったとき、トラップというブームがとっくに過ぎて次の音楽に埋もれたとき、あなたは、あるいはあなたの支持するプレイヤーは『トラップの伝説』として名を残すと思いますか? あるいは『日本人のトラップアーティスト』として?

 

 なぜ多くの人間が創作という行為に固執するのか、それは①現在に熱中することで不安を忘れるため、そして②作品という遺産(自己肯定の材料)を残すため、このふたつに尽きると思います。

 では②について論じましょう。あなたが相対的に自分の人生を評価する、あるいはしてしまう人間だとして、あなたが日本語バージョンのトラップを作ったとします。当然あなたの音楽は「世界の音楽史」には残らないでしょう。では日本の音楽史には...これも現状の価値観では残らないでしょう。あるいはメロウなら可能性はあるかもしれませんが...

 さてようやく『日本語ラップ史』となったところであなたの音楽が残る可能性が出てくるかもしれません。ですがこのときあなたの音楽は『日本のラップ史』にも関わらず、結果的にはアメリカのトレンドを追った借り物でしかないわけです。そしてそこで、あなたは相対的に自分の人生を評価するとして、虚しくならない自信はありますか?

 別に食っていきたいわけでも名を残したいわけでもないのなら話は別ですが...

 

 

 ではあなたが『新ジャンルのラップ音楽』を打ち立てたとしたら?

 当然日本語ラップ史には残るでしょう。日本の音楽史にも(少なくとも批評史には)。では世界の音楽史には...残るかもしれません。あるいは残らなくてもあなたは自分の人生を"相対的に"肯定できるはずです。なぜならその残した作品群は他に前例がなく、そしてあなたはプレイヤーでなく『開拓者』を自負できるからです。しかもそこで必要になるのは玉石混合から目立つための膨大な広告費ではなく、アイデアを考える時間とそれを書き留めるための紙とペンだけなのです。

 

 グローバル視点というと最先端に追従することと思われがちですが、今はSNSやジャンル別のメディアで世界中の情報がシェアできる時代。他国の優れたものがすぐに手元へ。北欧系のソファに腰掛けながら宅配のピザとスコッチを頬張り、中国製の家電で部屋をあっためつつNetflixで日本のアニメを眺めるわけです。ガレージにはイタリア車、ガソリンはおそらく中東とかロシア産で、隣にすわるチリ人の嫁がまとう衣服はフランスのブランド...

 

 で、自分の国にあるものの"特に優れているわけじゃない日本バージョン"をわざわざ探しに行くか?NO!NOですよ!世界中がつながる今ではむしろ、グローバルな価値観の外側の『田舎者なコンテンツ』こそ求められてると理解すべきです。

 考えてみてください、全身ジャージでクソほどなまった発音、ロンドンでしか通用しないスラングを用いてラップするグライムMCたちは世界視点から見れば田舎者だったんですよ?

 

 

 だから独立する必要があるわけです。それに中途半端な『日本"版"』より、明確に世の中に新しいものが増えたほうが楽しいでしょう! というわけで、今回はうさんくさくも新ジャンル『Quake(クエイク)』というものをでっちあげて、あてずっぽうにアイデアを陳列していきたいと思います(いわゆるブレインストーミング)。採用するのも結構、見なかったことにするも結構です...

 あ、ちなみにクエイクというのはもちろんアースクエイク(地震)から取っています。日本ならではを考えたとき、一番特徴的なのは震災大国であることかなと。まあそんな感じで。

 

1.日本古来の音楽を漁ってみる

 

 東京音頭

 日本固有の音楽、と聞いて思い浮かべるもののといえばやはり雅楽、民謡、そして音頭でしょう。和太鼓と金物楽器がリズムを、三味線や篠笛などが副旋律を奏で、そこに古めかしい歌謡が乗っかることでひとつの楽曲にまとまっています...

 ではこれらの楽器を使ってビートを!と思ってもミクスチャーかサンプリングヒップホップみたいにしかならないので、楽器の各要素を取り出していきましょう。まず上記の東京音頭を参考に、リズムセクションを表にして見たいと思います。

  1拍 2拍 3拍 4拍 5拍 6拍 7拍 8拍
和太鼓 ●---●- ----●- ●----- ------ ●---●- ----●- ●----- ------
ふち ------ ------ ----■- ■---■- ------ ------ ----■- ■---■-
金物 □---□- ----□- □----- ----□- □---□- ----□-- □---□□ □---□--

  こんな感じ。現代の打楽器で置き換えると和太鼓がキック、金物がハット、そして太鼓のふちを叩く音がスネアに当たると思います。

 さて注目してもらいたいのがスネア部(ふち)の箇所なんですが、ヒップホップが2拍目と4拍目の頭、トラップでは3拍目の頭に一発ずつ置くのを基本としているのに対して、音頭のソレの場合は4拍目周辺に数発、という奇妙な構成になっています。

 まあ現代音楽ではないので当たり前だと思えるでしょうが、これは新ジャンルを作る上でアイデアになるかもしれません...というわけでアンダーライン付きで特筆しておきます。

 そして楽器の音色、和太鼓のタイトでなくサスティーンの大きい低音、そしてハイハットよりもやや金属感のたかい金物なども独自性を追求するうえで参考になりそうです。それでは次に雅楽を聴いてみましょう。

 

雅楽:越天楽

 雅楽は「笙、篳篥龍笛などの管楽器」、「楽琵琶、楽箏、和琴などの絃楽器」、そして「太鼓、羯鼓鉦鼓などの打楽器」をドローンのように多層に折り重ねることで成り立つ日本古来の音楽だそうです。こちらはその代表曲のひとつの『越天楽』で、音の抑揚、とりわけ全ての音が一時だけ完全に消え入るさまはとても清美で幻想的です。テレビなどで一度は耳にしたことがあるかもしれません。

 ところでこのような同じ音程を違う楽器で多層に重ねるという手法、ラップ音楽のビートメイクではあまり見られないアイデアなので使えるかもしれません。ここにメモしておきましょう。

 

右方:還城楽

 こちらの雅楽は少々変わっていて、和楽器の重奏をはじめる前に打楽器のみによる長い前奏が設けられています。これは演舞の構成によって生じたものですが、ここで打楽器のリズムを聴いてみましょう...キックに当たる太鼓は1、2、3拍目の頭、鉦鼓とよばれるキンキンいう音は各拍の頭を等間隔に、そしてポンポンと締める羯鼓の音は4拍目周辺...これって、音頭のそれとほとんど同じですね。

 あまり多くを参照していないので断定的には言えないですが、このリズムって古来の日本では基本だったのかもしれません。なににせよ、日本独自を考える上でちょっとばかし重要な気づきになりそうです。

 

 では次に近代の日本音楽を聴いていきましょう。時期はだいたい80年代あたりへ、テーマは『SFとエスニック』です...

 

2.SFとエスニック、そしてNEO東京

 

YMO - Neue Tanz

 80~90年代の日本は何がそうさせたのか、SFとエスニックの融合を目指していたかのような音作りや絵作りが多数見受けられます。それは後述する攻殻機動隊AKIRAでもありますし、風の谷のナウシカや、YMOなどのテクノアーティストもそうです。

 YMO6作目『テクノデリック』の2曲目にあたるこの曲では、バリ島のケチャのサンプルとアナログシンセサイザー幾何学的レイヤーが合わさることで、どこか有機的なSF情景を見せてくれています。

 

 

Ken Ishii - Extra

 日本人テクノの代表作のひとつであるKen Ishiiの『Extra』も、スタジオ4℃手がける映像によってSFと退廃的な(そして少し誇張された)日本を融合しています。いま全盛期を迎えているVRですが、それを示唆するような表現も。

 音楽の方もシンセ一辺倒にならず金属質なパーカッションのサンプルをループさせていて、アニメーションの世界観へのフィットに一役買っているように思えます(もちろん作られたのはアニメが後ですが)。

 

Ghost In The Shell - Making of Cyborg

 パンドラムや民族楽器のパーカッションがとても印象的なGhost In The Shellの楽曲群ですが、やはり一番はこの神秘的な女声によるコーラスでしょう。よく聴くと日本語の古語による詞になっております。

 SF全開の本作に(連想されるシンセサイザとは異なる)民族調というエッセンスを加えることで、化学と相反する魂という概念...つまり『殻の中の幽霊』というテーマをより浮き立たせていると言えるのではないでしょうか。

 

AKIRA - Kaneda's Theme

 言わずと知れた名曲。木琴のような民族楽器による反復演奏が徐々に盛り上がりを見せ、あの印象的な「ラッセイラー」のコーラスとともに高揚感を帯びていく様は圧巻です。映画音楽の中でも唯一無二ですね。

 有名どころだけ漁ってみましたが、このように"日本独自だった音楽やビジュアル"を振り返ると、前述したSFとエスニックの融合という点で共通するのではと考えます。合わせて、これらの作品を見た外国人によるステレオタイプの日本観...あるいはそれを意図して作り上げた"架空の日本"というのも日本独自を考える上で重要になるかもしれません。

 

 日本の遺産を参照するのはこれくらいにして、今度はラップ楽曲において『あまり使われていない』パターンを探していきたいと思います。つまり、トラップの三連符やグライムの整然としたノリ"以外の"定型を見つけていくわけです...

 

3.新しいラップの定型を探せ!

 

Big Daddy Kane - Set It Off

 "探していきたいと思います"...とか書きましたが、結論からいうと『16ビートの裏拍でリズムを取り続ける』という手法が有効なのではと思っています。

 こちらは1988年発表という古典中も古典なのですが、このようなノリ方って現在のトラップような遅回しやグライムのような早回しではあまり見られないノリだと思うんですよね。この乗り方をアップデートしてうまく使いこなせれば新境地が開けるのでは...などと予想しています。

 

Eric B. & Rakim - Juice (Know The Ledge)

  1拍 2拍 3拍 4拍
0小節 - - - sip/-/the/juice
1小節 -/-/-/- I/got/ta/enough -/to/go/a round/-/-/-
2小節 -/And/the/thought -/takes/-/place -/up/-/town -/-/-/-
3小節 -/I/grew/up -/on/the/side -/walk/-/where I/learned/-/street
4小節 -/talk/-/and then/tough/-/to hawk/-/New/york -/-/-/-

 Rakimの名曲『Juice』の冒頭4小節を引っこ抜いてみました。太字になっている箇所がアクセントを強く発音している箇所になります(すこし雑ですが)。

 聴いてみて分かるように、オールドスクールヒップホップに特徴的な執拗なまでの(16ビートの)偶数拍による拍取りが行われています。90年代から発展した日本語ラップではこういう80年代的ノリ方は珍しく映るのではないでしょうか。

 

OutKast - B.O.B.

 聴いてもらいたいのは1バース目のAndre3000。さすがKendrickなどからリスペクトされる実力で、混沌としたスキルの応酬が単純に格好良いですが、ここでもしばしば偶数拍を狙い撃ちしたフロウが垣間見れると思います。

 特に5~6小節目『Who want some? Don't come unprepared/I'll be there, but when I leave there』の部分のリズムキープぶりが格好良い!

 

Eminem - The Way I Am

 こちらはEminemの代表作と認知されているMarshall Mothers LPの収録曲ですね。貧相なピアノリフとベースと単調なドラムでトラック自体はパッとしないんですが、そこにエミネムの強烈なフロウが合わさることで化学反応が生まれています。

 ここでは16ビートの4、8、12、16拍でアクセントを強調するようにリリックが書かれていて、非常に高度です(詳しく言うと弱弱強歩格というんですが今回は省略)。セルアウト扱いされるメジャーラッパーで生き残るだけあり、技巧にも凝っているわけですね。

 

 というわけでまだ発展の余地がありそうなフロウとして『16ビートの偶数拍』を紹介してみました。では次、まだヒップホップで開拓されていないビートの手法を探っていきましょう。というのは..."変拍子"です。

 

4.変拍子という概念

 

Faraquet - Carefully Planned

 ヒップホップはダンスミュージックということもあってか、踊るには難しい変拍子のビートというのは作られてこなかったようです。確かにヘッドバンギングするには混乱してしまいますし、リリックを書く分にも自由ではありません。

 筆者はロック初心者なので詳細には説明できませんが、こちらの曲は5/8で始まり、サビで3/4?になる構成です。ヒップホップに慣れた耳には新鮮!

 

Braid - I'm Afraid of Everything

 こちらは6/8拍子の楽曲ですが、格メロディーの区画ごとにドラムのノリが変わっていくのが面白いですね。こういう有機的に変化していくビートってラップミュージックではあまり見られませんよね。

 歌唱もサビとそれ以外とでガラッと入れ替わったり...まあロックには定番の手法かもしれませんが、これをラップでやってみたりしたら楽しいのでは...とか言っとく。 

 

Tool - Schism

 これはどういう構成なんでしょう...影を落とすギターリフに痺れますが、この難解な構成がそれをより暗く呪術的な作品に組み替えています。

 おそらく5/8と7/8を交互に繰り返し、サビでは6/8→7/8という循環に切り替わる...という風に聞こえるんですがどうなんでしょう(詳しい方教えて)。とにもかくにも難解で、これにラップ載せるとしたら相当ハードですよね。そしてノレない。

 

Tera Melos - Trash Generator

 モジュラーシンセサイザーによる自動演奏か、みたいなリフがまさに『Trash Generator』な曲ですが、こちらは7/8を基本に、たまに10/8とかいろんな拍にシフトしているようです。

 しかしBPMのおかげなのか、割とヘッドバンギングしても混乱しないようになっているのが不思議です。これならラップ載せられそうと思えるので、なかなか研究の余地があるのではないでしょうか。

 

 

 - - - - - 

 

 

 とまあこんな具合に、参考になるものを陳列してみました。

 いかがでしたか?何かしらのインスピレーションが得られたら幸いです...そしてもちろん、自分もこれらを踏まえた上で新ジャンルを作ろうとしているところです。

 次回以降は実践を踏まえつつ、ひとつの手法に焦点を絞りながら技術論を講じたいと思います。あるいは使えそうな材料が見つかったら再度シェアするでしょう...

 

 それではまた!