韻とアイデアほか

日本語の押韻などに関する走り書きetc...

【Quake(仮)】②まだ歌われていない営み

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ビールケースは用意した。その上で何を説く?


 て第一回では「どうやって海外との差別化を図るか? "どう歌うか"?」という点に重きを置いて材料を探してみました。和楽器や80年代のラップ、マスロックあたりを参照することでぼんやりとした全体像が見えてきたと思います。

 しかし"何を"歌えばいいんでしょう?

 

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(utakiki氏のツイートを借用。言及ありがたいです...)

 

 従来のヒップホップのように私生活についてアレコレ述べるというのも良いですが、それだとわざわざ新ジャンルを名乗る意義が弱いように思えます。もちろん日本には銃社会のゲットーや根深い人種差別はなく(貧困はそこいらにありますが)、劣悪環境があるとしてもSHINGO☆西成やANARCHY、BAD HOPなどの面々が既に表現済み。かといって日常的なことはラップでなくともロックやポップスでだって表現できるわけです。

 例えばトラップシーンでは「金・女・暴力と共存する軟弱さ」や「薬物賛美とそれに対する葛藤」のような若者らしい矛盾が散見され(全部ではないですが)、グライムシーンでは「郵便番号レベルまでのローカル」、良い意味でこじんまりとした範囲での物事を説いていたりします。そしてスラングの数々...

 

 ではあえて客観的に、"日本でしか歌えないこと"、あるいは"日本でこそ歌うべきこと"を考えるとどんな要素が浮かぶでしょう。忍者、侍、ゲイシャ、ハラキリのようなステレオタイプでしょうか?

 確かにそれらは諸外国から見て特徴的ではありますし、Huluで"日本的"な映画を探せばそのような文化が該当するかもしれません。しかしあくまでそれらは過去の産物、アイコンであり、現在の自分たちの立場を表しているものではありません。わざわざ甲賀や伊賀まで忍法の修行をしにいくこともないですし、そもそも銃刀法で刀は持てないわけです。

 というわけで今回は『今の自分たちの何を表現するのか?』それについていくつかの要素を取り合げてみることにします。

 

 

 

1.オタク、ナードであること

 

Web2.0/ラップ同好会

 日本がこの数十年で生み出したもっとも大きな概念...といえば"オタク"であると言えるでしょう。誰もがコトブキヤのフィギュアをガラスケースに納めているわけではありませんが、漫画やアニメを嗜む文化は今や一般人にも普及していますし、相変わらずアイドル市場は健在です。

 このラップ同好会の楽曲『Web2.0』は2007年当時のネット社会に言及した貴重なコンシャスナンバー。ワンクリック詐欺、同人誌あるある、2ch(現5ch)のモラルやニコニコ動画の釣りとランキングの歪みまで、割とどうでもいいニッチな話題にユーモアを混じえながらも、どことない若者の気だるさや疑問を感じさせるのが素晴らしいです。

 

 注目してほしいのがスラングや固有名詞の数。『ノートン先生』『レバ剣』『どーじんぐ娘』『夜もしょっぱなから混雑(ニコニコのサーバー負荷による低画質配信を指したもの)』『魔法の箱(トルネコ)』『ラクガキOF便所(2chの別称)』『びゃあ゛ぁ゛゛ぁうまひぃ゛ぃぃ゛』などなど、一般認知されてない単語のオンパレードです。

 本来ヒップホップではこういったスラングがよく用いられるのですが、日本語ラップの場合せいぜいアメリカの英単語をそのまま引用してくるといったケースがほとんどで、大抵は大多数が理解できる汎用的な語彙をつかって書かれています(有名曲の引用はしょっちゅう見かけますが)。

 その点オタクカルチャーは途方もない数のスラングで溢れかえっており、5chのローカル板でしか通用しないワードなんかはもちろん、アニメ関連のスラングは1年もしないうち次々と刷新され、界隈に張り付いてないと置いていかれるほど代謝が高いです。

 こういった点でオタク文化というのは、矢継ぎ早に単語韻や時事ネタへの言及をくりだすラップ文化と非常に相性がいいと考えられます。

 

ナズナver.073 - 新ジャンル「ラップ」

 こちらは2chの板「ニュース速報(VIP)」の新ジャンルスレ全盛期の様子を眩しいほどの衝動でラップした良作。二次元との馴れ初めを書いた前半から性癖属性をまくし立てる後半への構成がとても秀逸です。

 ナズナ氏は他にも学生時代の留年を描く『単位あばば』圧倒的ぼっち生活を歌った『ココロコドク』など、スクールカースト下位に焦点を当てた楽曲が面白くオススメです。

 

 インターネットラップ、特にニコラップではこのような二次元ネタ...アニソンネタの上でアニメの内容をなぞるラップや『俺の嫁ラップ』と評されるお気に入りキャラへの熱心なプレゼンが遍在しており、ヒップホップ的価値観とは一線画したものが多く見られます。深夜の薄暗いクラブハウスでラップできるオタクと巡り会うなんてのは稀ですからね...自然とネット界隈で集ってしまうというわけです。

 

 そしてもちろん、それらは海外で表立っていない要素でもあります。上記のような強烈なロリコンソング(PV)など規制の対象になりかねないですからね(著作権はともかく)...まあ海外でどうかなどはどうでもよく、一般人からして奇妙、または最低に映る事柄こそ面白いとは思いませんか?

 

【ニコラップ】オナ禁マイクリレー【Self players】

 こちらはその"一般人からして奇妙、または最低"のど真ん中を撃ち抜く作品。『オナ禁に失敗した人順にラップする』という意味不明なコンセプトのもと、オーガズムのごとく高まっていくBPMイカ臭い男たちのラップが乗せられていきます...最低!

  マスターベーションをラップした曲といえばThe Pharcydeの『On the DL』の2バース目("バスルームへ向かった、ココアバターを手に持って")などがありますが、それほど題材として頻用されるものでもなく、メジャーとは言い難いです(当たり前)。

 

 ただ"この行為"はオタクではなくごく一般人も秘密裏に行なっていたりするわけで、極めて普遍的なテーマでもあります。基本的に性に関する話題を、それも公衆の面前で積極的にしようなどとは思わないですからね。他人には隠したい諸事、心の裏側...こういったことも歌われていない、言及を避けたがられる事物として優秀な例でしょう。

 

【リッポ】狂性曲【かっつん】

まさに蠱惑的

怖くて気になったんならば来なくていい

興味本位じゃ痛い目に

ペニスぶちこむ君の左目に yo

  野太く低い声が魅力のリッポ氏とメロウで少年的な声を聴かせるかっつん氏によるコラボ曲ですが...引用の通り、とんでもなくえげつないリョナ趣味の内容となっております。他にも"脳姦はノーカンてどうなんだ嬢ちゃん/脳みそにブチ込んで童貞卒業じゃん"など狂ったパンチラインが盛り沢山。両者ともに当時未成年(かっつん氏に至っては16歳)というからこれまたえげつない...

 

 日本のギャングスタラッパーと言われる人達もここまでラップすることは普通ありません。彼らはあくまでキープイットリアル、現実的であることを売りとしているので殺人や強姦といった類を歌うことはほぼなく、仮に口にすれば裏でシメられるなんてことになりかねません。

 しかしあくまでこの楽曲は虚構であり、あるいは隠している性癖の暴露なのでリアルですらあるかもしれません。マフィア映画のような『表現としての残虐性』を歌うのには、むしろオタクという前提がある彼らのような人間のほうが適していると言えるのかも知れませんね。

 

Plugnet - OLDFINGER'83

 ヒゲドライバー氏プロデュース、8bitなビートの上でこれでもかとファミコン愛を叫ぶ胸熱なナンバーです。"ちっともいいことないけれど/今日もアダプタはあったかい"のサビが哀愁を誘う...このアツい三人組『Plugnet』はネットラップ発ながらフランスのケーブルテレビ局NoLife TVでPVが放映されるなど、局所的に話題になったりしました。

 ゲームを歌ったラップといえばスチャダラパーによる『ゲームボーイズ』なんかも有名ですね。あっちは91年ながら業界ディスまで飛び出したりして危うい感じですが、こちらはビートも含めてよりレペゼン意識がっょぃ。

 

 もちろんゲーム音楽をサンプリングすることはクリアランス問題も含めかなり厳しいですが、こんな風に好きなカルチャーの音をそのまま舞台とするというのは、自分たちの出自を主張するのにうってつけのわかりやすい方法ですよね。実際、ニコラップにはアニメのサントラにラップを乗せるなどの動きも日常茶飯事でしたし。

 さて83年のファミコン発売日から35年、表現限界は40KBから20GBへと飛躍して2019年、時代はドットの横スクロールから世界100人同時対戦のバトルロイヤルへと移行していきます...

 

RAITAMEN / EZ

duoで乗り込むsquad

高所からの制圧 撃ち勝つ

マッチからの離脱のお手伝い

やっぱ最後の一撃 せつない

 クリエイティブ集団のPitch Odd Mansion所属のRAITAMEN氏による一曲。こちらはゲームへの思いではなくプレイヤー自身としての目線/意識でラップが進んでいく珍しいタイプの曲です。Dubbymaple氏てがける物騒なビートの上、さながらサグなストーリーテリングのようですが、内容はコアなゲーマーしか分からないスラング混じりという("Pogchamp"とか日本でどんだけの認知度だよと)。

 ちなみにRAITAMEN氏はNF Zessho氏とのコラボ『Bluno's Way[Another]』でもその道の人間しか分からない単語を連発しており、スラング使い激しいラップのお手本と言っても過言ではないです。

 

 ちょっと曲の内容とはズレますが、これや狂性曲のようにゲームの世界観に入り込んだようにラップする、というのもあまりなされていない試みなのではないでしょうか?日本人にとってKendrick LamarのGood Kid M.a.a.d Cityはゲーム世界みたいな感覚ですが、バックボーンなしでもそういうラップを作れる余地があるのでは...とこれらの楽曲を聴いて少し思わされたりもします。

  

 さてオタク文化に絡めてラップを紹介してきましたが、この他にも日本固有の立場というものが存在するか考えてみましょう。例えば...捕鯨とかですかね。

 

 

2.社会の畜産物、略して...

 

 SALU - ホームウェイ24号

 20代後半ともなると日本固有の問題で思い当たるものはブラック企業の卑劣な労働環境のひとつに絞られるでしょう。タイムカード改竄、過剰な叱責、通勤ピーク時間の満員電車などなど..."べき論"を唱えて、何かを変えなきゃいけないと警鐘を鳴らすとしたら真っ先に挙げられるべき課題です。

 SALUのこの曲では通勤電車と社会人の未来を重ねて不安を抱えた彼らの心境を歌い上げています。メロウで落ち着かせるHOOKに反して言っていることは底暗く、"目には見えないこの目の前の線路の上を"だとか"やりたいことはできたかい?"など、若干皮肉にも取られかねないワードを挟みつつ彼らへメッセージを送っています。

 メジャー進出前とはいえ、ここまでポップさと毒をギリギリで混同させようとするあたり、さすが家庭崩壊とホームレスを経験してきた人物だなと感じさせます。

 

ZORN / My life

 昭和レコード所属のZORNから、"洗濯物干すのもヒップホップ"のパンチラインで有名な出世作ですね。ビートは海外でJazz Hiphopのトラックメイカーとして割と(Nujabesほどではないですが)有名なDJ Okawariがプロデュース。

 "だいたいこんなもんさMy life"のサビの通り、 鼓舞や悲観というよりは繰り返し変化ない日々への静かな諦めをしっとり歌い上げています。3バース目、ビートが雲間から光が差すように展開しはじめ、わずかな希望へと言及を変える構成も素晴らしいですが、個人的にとりわけ良いと思うのは2バース目のこちら。

誕生日に手紙をくれたな

下手な似顔絵もくれたな

どうもありがとう、ホントありがとう

別に悪くない、今日も明日も

 この二度「ありがとう」と復唱したあとに続く"別に悪くない、今日も明日も"。これが実際そうは思っていない自分へ無理に言い聞かせているかのようで、とても心を打ちます。現代人のぼんやりとした現状への疑問を表現できている好例ですね。

 

らっぷびと - オサラバ feat.RIPER (Mushup)

 こちらはネットラップの大御所らっぷびと氏とRIPER氏によるフリーターの葛藤を描いた佳曲。こちらのリンクは原曲ではなくマッシュアップで、Souls of Mischiefの93 'Til Infinityのビートを拝借したものとなっています。HOOKのマッチ具合が素晴らしい。

 RIPER氏のあまり韻律や小節を意識しない喋るような自然なフロウもさることながら、"まだ余裕っしょなんて言葉も次第に出なくなるから焦る"そして"あぁ、バイト辞めてえ"という二つのラインが変わりたいけど変われない自分への嘆きを暗に感じさせ、まさに今25歳フリーターの身である筆者の心を打ちます(だから何)。

 

Tachibuana - 営み

俺には理解できんね社会や機関の束縛

不合理、衆愚、異端は毒殺

追従し微笑、欺瞞が得策

クソッ喰らえ!何が違うそれと二万の即尺

(中略)そんな具合にふけり散歩する日本を憂うマン

すると来た、恥垢で臭え2トンの婦警官

「いつも居て扱いは基本不審者、

ねえ、あなたいつまで収まるの?

——地方のフリーター」

 こちらは筆者が作ったボーカロイドによるラップ楽曲です...宣伝もいいとこなので詳しい言及は避けますが、こちらは社会批判をしながら社会に属したことがない情けなさを表現したつもりです。いろいろ稚拙ですみません!

 

Meiso - 不響和音

己の情報網に絡まった蜘蛛の子

散らすべき身動き取れぬデフォルト

機械が壊れネタ切れの焦燥

まるでジャンキーの禁断症状

  2009年の名盤『夜の盗賊』より一曲。Meisoは2枚目のアルバム収録『買ってはいけない』など、社会への問題意識あふれるラップを技術力とメロディに落とし込む稀有な才能の持ち主です。ビートの濃厚さに対して完璧なアプローチ。

 こちら『不響和音』は"冷凍スマイルにはヘドが出る"の下りなど、当初の意識とは相反する状況に陥ってしまうという現代社会の飽和にいたる構造、"不協和"を上手く炙り出している良曲だと思います。

 Meisoは他にも『理想像』などで同じテーマを扱っているので、気になる方はチェックしてみてください...

 

Shing02 - 400

最新の機械の使い方も理解できない大人が牛耳る世界
最近の若い世代の扱い方知らない本当なら怖い
なのに臭いものに蓋、話すだけ無駄、知ったか流行りの歌
ちょっと待ったそれで終わりか?だからお互い分かち合うのは
同じ文化の違う世代よりも違う文化の同じ世代、そういう時代
何が大事か誰がマジか見切りつける締め切りも間近

 説明不要でしょうか。Nujabesとの『Luv(sic)』やサムライチャンプルーのオープニングソング『Battlecry』で共演しているMC、Shing02の代表曲のひとつ『400』です。

 こちらは正統派の労働歌で、若い世代に対して労働意識を説くと思えば、日本の会社特有の年功序列制を批判するなど、内省的と思われがちなShing02の楽曲群のなかでもとりわけ主張が大きい歌詞となっています。英語でやっている時と違って、お洒落というより無骨で力強いラップですね。鼓舞されます。

 

 〜〜とここまで労働社会に関するラップを取り上げてきましたが、どうでしょう。個人的に感じるのが、『暗黒企業、社畜などと呼ばれるほどの日本社会の壮絶さが反映されてないのでは?』という点です。

 

Berta, Berta (Prison Work Songs)

 なんというか、生々しさやグロテスクさが徹底的に切除されている印象です。加工済みのパック肉というか、海魚の刺身が清らかな川を泳いでいるかのような...

 上司や会社への憎悪、人生に対する絶望、枕の抜け毛や目の下のクマのようなものが楽曲中に反映されている例がほとんど見受けられないように思えます。これだけ問題視されているにも関わらず。

 上のBerta, Bertaはアメリカ囚人の監獄労働歌で、木を切り倒したり線路を敷いたりするときなどにもっぱら歌われたそうですが、こんな感じの肉体から発せられる生と死の気迫、生命力も漂ってきません。 

 

 まあこんなの不可能な注文もいいところで、本当に社畜だったら歌なんて作ってる時間はないですし、怒りを歌い上げる気力すら残されていないでしょうから...外部からはいくらでも言えますが、実際その状況下に晒されている張本人からしたら無理な相談なわけです。失礼極まりない記事だまったく!

 

 

 ここまでオタク、社畜とそれぞれ日本の身分を挙げてみましたが、では今度はそれらを取り巻く環境から題材になりそうなものを見ていきましょう...

 

3.価値観の混沌の中で

 

The Internet ft. Tyler, the creator - palace

 Tyler the creatorといえば17年に『Flower Boy』をリリースし、楽曲中で同性愛のカミングアウトをほのめかしたことが記憶に新しいと思います。こちらは彼が運営しているOFWGKTA所属のThe Internetというグループの楽曲ですが、リーダーであるSyd tha Kydもレズであることを公表しています(一応この曲に関してはただのパーティ/ラブソングに収まっておりますが...)。

 日本においてLGBTに関する公の議論はあまり行われてないように見えますが、マツコデラックスやIKKOのような芸能人、新宿二丁目の存在などは普遍に認知されており、Twitterではポリティカルコレクトネスやフェミニズム、その弊害などに関してリプライの応酬がたまに見られると思います。フォローせずともRTなどでTLへ流れてきたり。オタク界隈では腐女子や男の娘(あるいはふたなり)の概念はもはや一般教養と化しています。

 

 個人的に思うのが、LGBTの社会的肯定といった表層より、LGBTのちょっとした日常の所作とか、あるいは縦でなく横側への意識...ゲイにホモ同人誌がどう映ってるのか、特定コミュニティでの人間関係などなど、一般人の想像できない範囲でのLGBTをもっと描き出してほしいんですよね。

 LGBTというと"べき論"ばかりが横行していますが、異質な存在の肯定というのは対象への深い理解によってのみ得られると思いますし、それは「理解しろ!」という命令によってでなく彼/彼女らの普段の生活を表にすることでこそ獲得できるのかなぁと。別に自身がゲイやレズでなくとも自らインタビューなりゲイバーでゆったりするなりで生の声は聞けるわけですし、そういったある種のジャーナリズムをアーティストが発揮してもいいのではと考えます。

 

ドナルド・トランプの大統領選挙とメディアの偏向

  もちろん個人リサーチにもソースの正確性や偏りに責任が伴うので、あまり極端な表現をすることはできません。16年のアメリカ大統領選挙では主要メディア(FOXニュースを除く)すら偏った報道を続け、フェイクニュースという単語が流行し、その単語を流行らせたトランプ張本人もやはり功績を前に展開しながら代償を後ろに隠しているわけです。これは人間としてしょうがない行動なのかもしれないですが...

 というわけで何かを担保にした情報発信はなかなか難しいのですが、これが一般的な正解のない、生活上のたわいない物事であれば表現もしやすいのではないでしょうか。例えばZOZOTOWNで可愛い靴下を買う、のような感じで(想像力なくてすいません)。

 いい例として西野カナは『マーケティングリサーチ』という手法を使っていることを公言していて、作詞のコンセプトを考えたあとアンケートや友人への取材を行なっているそう。そして集めた情報から共通点をみつけて文字に落とし込むのだとか。その成果は "ねえDarling 脱ぎっぱなし/靴下も裏返しで" や "急に不機嫌になることがあります/理由を聞いても答えないくせに放っとくと怒ります" など、共感しやすい歌詞へと実際に現れていますね。

 メジャーという制限下でありながら具体性のある、物議を醸しながらも間違いは犯してない作詞。これらはインディー、アマチュアである人間が決定的失敗をしないためにも大いに参考になるのではないでしょうか? まあもちろんインタビューなどした上で仕分けして偏向することなど本人次第でいくらでも可能なわけですが。

 

ドイツ極右団体の躍進と急増する移民

  さて日本では労働移民に関する法律が可決され、埼玉県川口市には中国人が半数を占める団地が生まれるなど、移民に関する事情も他人事ではなくなってきています。アフリカから中東から東南アジアから..."価値観の混沌"の幕開けです。

 EUでは移民政策が失敗し、イギリスがブレグジット問題を起こした原因の一端にもなりました。上の動画は4年前のドイツのものですが面白く、初めは移民反対を唱えていたPEGIDAという団体が、その規模を増すにつれただ単に政府に変わってもらいたい人や軍事産業批判者など関係ない人たちを巻き込んでいくなど、二極化の片側にも奇妙な多様さが生まれてしまっている所です。これは移民問題を考える上で大きな参考になります。

 

 欧州はこうして結果が出たわけですが、日本はこれからその問題へとぶち当たっていく最中にあると言えます。同じことをすれば、おそらく同じ結果へと向かうでしょう。

 ではどうするか。前述のLGBTのように個人にインタビューするというのはあまり得策ではないように思えます。移民問題の多くは暴行事件や殺人、窃盗などの治安被害が公になることで一般からの批難がはじまるので、そんな中で「移民のみんなが悪じゃないよ!」と唱えたところで被害が起きたことは変わらないのです。LGBTと移民の問題の違いはそこで、前者は実害を起こしていないのです。

 学校や職場と同じように、ひとりが大きな失敗を起こすとその場所全体の評判が下がるのは人間の心理なので抑えようがないと言いきっていいと思います。社員の問題なら会社を、教徒の問題なら宗教を悪く思うでしょうし、ホンダやトヨタデトロイト壊滅の一端を担えば日本自体が恨まれることになるというわけです。きょうび、「オウム真理教の全てが悪かったわけじゃないよ!」なんて言う人は(教徒を除いて)もちろんいません。

 

 この手の問題は後から擁護することが不可能。では我々アーティストに何ができるか〜〜ッッ!?ということなんですが、自分は『問題を踏まえたうえで未来像を提案すること』だと考えます。

 

ZEITGEIST: MOVING FORWARD

 こちらは2011年に公開されそこそこ有名になった『ZEITGEIST時代精神)』という2時間越えのドキュメンタリー(日本語字幕で視聴可能)なんですが、このような感じでアーティストが諸問題に対して提案をまとめるというのも面白いんじゃないかと思います。この動画は2時間問題をこねくり回したあげく結論が「お金を捨てて管理社会を建設しよう!」なのが酷いですが、まあまだ提案なのでよしとしましょう。

 

キリコ - DIS IS IT

 重要なのは提案です。問題に意識的なコンシャスラッパーは数多く存在しますし、問題提議は知識を授けるでしょう。しかし批判だけでは結局ガス抜きにしかならないわけです。むしろ個人ではどうしようもないこと、それに対する意識はストレスを増長するだけで、その後の生活にマイナスに働くことだってあるわけです。エジプト革命から8年経ちますが、具体的なビジョンのないまま起こしたこの革命は、結果としてただ圧政を別の人が受け継いだにすぎないものとなりました

 

 自分がQuakeなんて新ジャンルを提案しようとしているのは上の動画のキリコ氏の影響が限りなく大きいです。『アメリカから独立できない日本語ラップ』という曲や、この曲の"世界標準ふざけんなまたアメリカのパクリか?"他、数々のラインは今日まで有効だと思っています。

 ではなぜ誰も彼の話に耳を傾けなかった(ように見えた)のかと考えると、やはり具体的な代替え案がなかったからなのではと思うのです。

 

クソスレエフェクトとジャンルの衰退

 この自分のツイートをまとめたクソスレエフェクトの話でも同じ旨を話しているんですが、下手くそであっても批判者みずからが提案の実例(ボケ)を上げることで、上手な二番手を喚起し、それが発展につながっていくのです。グライムを創造したUKのWileyも最初はガレージシーンの各人から批難を浴びていましたし、ただのリバイバルと言われても『リサフランク420 / 現代のコンピュー』は1ジャンルとしてコミュニティを生み出してしまったわけですから。

 

 なんか政治的な話題になったり無茶苦茶ですね(白目)。話を戻してまとめると、移民問題がもし起きたとしても外国人の批判や擁護はまったくの無駄なので、その前により持続的な未来像を各々提案しておけよ、ということですね。壮大!

 

 

4.終わりに

 

日本、奇妙な国

 その他、日本には少子高齢化、食品廃棄、自殺率など議論しがいのある物事が山ほどありますが、その辺に関する直接的言及はともかく、議論を喚起するような新しい視点でそれらを間接的に描写していくというのがアーティストとしてできることなのではないでしょうか。新しい音には新しい言葉を。まだ歌われていない営みはたくさんあるはずです。

 

 それではまた次の記事でお会いしましょう!パート3は技術論か、あるいは他ジャンルとの比較をしようと思っています。ではまた...