韻とアイデアほか

日本語の押韻などに関する走り書きetc...

【翻訳練習】Rob Sonic - Happy Land Disco

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Rob Sonic - Happy Land Disco

 

 90年代から現在まで名作をドロップし続けるMCというのは数えるほどでしょう。彼のグループHail Mary Mallonの対のMCであるAesop Rockがそうですが、実は盟友である彼も例外ではありません。

 

 ワシントンDCで生まれたRob Sonicは幼い頃にNYのブロンクスへと引っ越し、12歳でラップを始めます。98年、同郷のDJ Fred OnesとEric M.O.、そしてDJのPreservationと意気投合すると、ヒップホップバンド"Sonic Sum"を結成。99年にアルバム『The Sanity Annex』をリリースします。

 

 このThe Sanity Annex、恥ずかしいことに自分はGen-Aktion氏の『HIPHOP ANTI-GAG MAGAZINE Vol. 1.5』を読んで初めて知ったのですが、これがまあ凄いんですよ。まずRob Sonicのリリックの、なんというか"曇った窓に映る雨降る水溜まりの奥の原風景"とでもいうような、途方もなく抽象的な詩です。Rap Geniusで確認できるリリックをちょろっとだけ翻訳してみても、都度立ち止まって考えてしまうほどに。

 そしてフロウはKool Keithがマッドサイエンティストを辞めて自然の神秘に目覚めたみたいな、穏やかな未開の渓流的なかんじなのです。流れ出る流れ出る。このアルバムが彼の最初のリリースになるのですが、既にこの時点でひとつスタイルを完成させてしまっているんですよね。

 

 そしてビートの方はローファイのゆったりしたサンプルに、バンドの生のサウンドとDJのスクラッチが加わるというもの。これが彼のぼんやりしたリリックに120%マッチしていて、"曇った窓~中略~の原風景"の印象を底支えしてるんですよね。

 ただサンプルだけなら凡百かも知れないところを、バンドサウンドが入ることで過去と未来が交差するような、未来から見つめる曇った原風景な感じになってるんですよ。本当にオススメなので、知らない人はぜひチェックしてほしいです。

 

 その後Rob SonicはDef Juxと契約、Sonic Sumとしても04年に2作目『Films』を出しながらソロで『Telicatessen(04年)』『Sabotage Giante(07年)』をリリース、閉鎖後はグループHail Mary MallonとしてRhymesayersで『Are You Gonna Eat That?(11年)』『Bestiary(14年)』2作をリリースしております。

 

 彼は初期のリリース後フロウを一新させ、以降はキッチリとしたオンビートスタイルにシフトしていきます。若干惜しまれるとこですが、クラブで客を揺らすことを想定すると正しい選択だったのかもしれません。

 

 このたび紹介するのは彼のソロ3作目『Alice in Thunderdome』から"Happy Land Disco"。彼のカタログの中では比較的わかりやすい曲で、「違う、そうじゃない」とツッコミを入れたくなる四行詩が矢継ぎ早にスピットされます。そしてHookでの謎のフレーズ"幸せの国のディスコ"...これ以上の解説はヤボってものでしょう。

 

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【翻訳練習】Jehst - The Return of the Drifter

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Jehst - The Return of the Drifter

 

 ついに表題曲です!"漂流者の帰還"ということで、ここでのジェスト氏はシラフに戻って現実と向き合うさまを描写。アルバムの直前までの曲の帳尻合わs...伏線を回収すべく、ぶっ飛びながら書きつづった情景描写にそれらしいオチが加わります。"頭一杯の火"、"傷んだ指関節"とかその辺ですね。

 

 しかし開幕6小節もそこそこにまたしてもぶっ飛びはじめ、やはりテーマそっちのけにバースを蹴り続ける男...手におえん!


 思うにこのアルバムが01年のUKシーンに画期的だったのは、ライミングのレベルを高めた一方で、リリックの敷居を下げた事にあるのかもしれません。以前訳したMadvillainyもそうでしたが、「ライムさえ格好良けりゃなんでもいいだろ」というノリ。模倣したくなる、しやすい、共感できる、ロールモデルにふさわしいラップを提示したことがJehst-Senseiの功績だったのかも知れません。

 

 同年代でもChester PやKashmereは独特の世界観があって安易に真似れないし、Mystro、Kyza、Verb TあたりはJehstほど人間としての隙が露呈してなかったですしね。内臓を自分で見せにいくブコウスキーの流儀、このひとつまみの塩が違ったんではないでしょうか!あともちろん、首振りまくれるフローも。

 

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【翻訳練習】Aesop Rock - Daylight

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Aesop Rock - Daylight

 ※21/05/12 数か所を修正、リンクの添付などをしました。

 

 の方ほど翻訳者をブチ切れさせるラッパーが他にいるでしょうか?アンダーグラウンド全盛期を代表する作品のひとつを作り、その後着々とアルバムを積み重ねてインディでトップの知名度を誇るラッパーになったにも関わらず、彼のリリックはここ日本でほとんど翻訳されてないわけですよ。学生だった当時、そのことに心から憤ったものです。そして今では別の理由で憤っている。

 

 Aesop RockはNY州のシオセットで生まれ、同州ロングアイランドのノースポート村で高校時代までを過ごしたあと、マサチューセッツ州ボストン大学へと入学します。

 そこで視覚芸術の学士号を取得することになるのですが、そこで同大学に通っていたBlockhead(後にAesop Rockの中期までの作品群を大部分カバーするプロデューサー)と出会うことになります。Blockheadは元々ラッパーになる夢を抱いていたそうですが、Aesop Rockのフリースタイルを聴いてプロデュースに宣伝することにしたそう。判断がすばやい。

 

 大学に通っている96年当時、彼はマンハッタンのGraebarという(レコーディングではなく)ファッションショーなどに使われていたスタジオにたむろしていました。そこには彼以外にも、インターンとしてスタジオで働き、最初期にAesopにビートを提供したDub-L、同じアングラMCで後にコラボするC-Rayz Walz、そして後にKanye WestやKid Cudiを中心に多くのメジャーアーティストを担当する音楽プロデューサー、Plain Patの4人がよくいたそうです。

 

 当時の録音物は彼の1枚目のアルバム(というより音源集)である『Music for Earthworms』に収録されてるのですが、どうやらそれらは全部ダイナミックマイクSM58(いわゆる"ゴッパー")で録音されたそう。音源集は自主サイトと当時人気だったMP3ドットコムで宣伝を行い、300枚以上を売り上げたとか。

 

 そして98年に大学を卒業すると、音楽制作を続けるかたわら、彼の短いようで長い悪夢"労働"が始まることになるわけですが...経歴の説明はいったん中断しましょう。

 

 本稿で紹介するのは彼の4枚目のフルアルバムであり、アングラ全盛期を象徴する01年作『Labor Days』より代表曲"Daylight"です。

 00年代のラップ好きなら一度は耳にしたことのある曲でしょう。その寂しい気持ちにさせる音色に、彼のエモーショナルで技巧的なフロウが乗っかるわけですよ。リリックを読まずに聴けば、なにか社会人が郷愁に駆られ、過ぎた幼少期を惜しむかのように聴こえます。ジャングルジムとかオリガミとかなんとか言ってるし。

 

 しかし!翻訳すると分かる!

 何言ってるかわかんねえ!

 一番の特徴なんですが、彼は「普通その言葉はそんな風に使わない」みたいなことを毎っ行毎行、病的なくらい執拗に繰り出してくるんですよ。まるでUTF-8コードをShift-JISで読み上げるブラウザみたいに。

 例えば1バース目の"Fathom the splicing of first-generation fuck-up"は、自分の幼い技量で直訳すると「失敗第一世代の継ぎはぎを突き止める」とかそんな感じで、はあ、という感じ。そもそもFathomて何?

 とはいえ、これはまだマシな方ですが。

 

 2バース目"Shimmy cross the centerfold"は「シミー(ダンス)が見開きを横切る」、この"シミ―"はタブロイド紙の見開きのピンナップガールのこととも取れますし、あるいは新聞を両手で持ってるオッサンの方を意味してるとも取れますが、どちらにせよ”シミー”とかいう語をそうは使わない。

 あげくの果て"Plug deteriorating cenobite pendragon"、「堕落した修道士のペンドラゴン(アーサー王の父)に差し込め」ですよ。文脈を読んで、このペンドラゴンとかいう人物について調べて、なお意味が分からん!このペンドラゴン氏と"修道士"という概念がそもそも関連づかねえだろと。

 

 こうなるともう全体を意訳ということになるんですが、それじゃ原文の詳細が失われてしまうわけで、かといって直訳すれば昔のエキサイト翻訳みたいになるしで、頭を抱えるしかなかったですね。

 

 なんていうか、この人は取ってる手法が対極にもかかわらず、ある意味で三島由紀夫を彷彿とさせますよ。一般人にある程度知られているにも関わらず、やっていることは邪道も邪道という点で。三島は普通なら省くような描写を延々と(よく言えば"クソほどご丁寧に")書くのにたいして、Aesop Rockは "赤子が何かの気まぐれで三角の積み木を逆さまに置いて土台やてっぺんとして無理やりバランスをとらせる" みたいな無茶な省略をするわけですよ。どっちも勘弁してくれ。

 

 というわけで、ここに記載する見当違いのデマ誤訳もどきはほぼ勘で書かれたものであって、決してニュアンスをよく理解したものではないという前提のうえお読みください。いつも以上になにも保証できない。

 じつは彼のアルバムを全部翻訳しようかな、というひそかな夢があったんですが、たぶん一枚を訳すころ、自分の10円ハゲはミラーボールと化してるでしょうね。

 

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 とはいえ、何の解説もナシってのはアレなので少しだけ。

 この題名"Daylight"は「人が変わっていく(褪せていく)」のを日の光にたとえている、ということなのかな~なんて思います。1バース目と2バース目は違うようで実は同じ人物目線で語られており、その心の変化そのものが「昼から夕、そして夜」という変遷を表しているのではと。

 

 さらにもう一つ重要なテーマが"鳥"と"解体"ですね。この曲にはいくつか鳥、あるいは類似のモチーフが存在していて、それらの比較によってリスナーへ残酷な現実を目の当たりにさせようとします。胸クソ悪いほどに。さすがデビュー1曲目で"全ての望みを捨てよ"と言い放った人物なだけはあります。

 

 しかしリリース当時かれは写真館で働いていたそうなのですが、彼自身このアルバムをリリースしたあと深刻なうつ病に陥り、ツアーに出演しないという事態に見舞われたそうです。どれだけユーモアに富んでいても現実は重い。

 

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【翻訳練習】Jehst - Staircase to Stage

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Jehst - Staircase to Stage

 

 テージへの階段、ということで、ライブするまでの過酷な仕事をラップするのか――と思いきや、むしろ労働者をあざ笑う方向に舵を切る鬼畜ジェスト氏。一向に"漂流"から帰ってくる様子がありません。"ラップくそ喰らえ、むしろ俺はモップ掛けるかパティを返したいぜ"は傷つくのでは?

 

 USからの客演J-Zoneもクズっぷりを見せつけてくれます。どうやら元からこんな作風なようで、良く言えばむしろ持ち味を活かした好投とするべきなんですかね。しかしよくタイミング良くこんなぴったりの逸材を見つけたもんですな...

 

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【翻訳練習】Atmosphere - Guarantees

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Atmosphere - Guarantees

 

 存じRhymesayers Entertaimentの共同創設者(正確にはBrent Sayersという人物が自分の名をもじって95年にスタートさせたものだそう)、MCのSlugとDJ兼プロデューサーのAntによるデュオ、Atmosphereです。元々は高校時代にSpawnというMCにSlugがDJをする形で組まれたもので、紆余曲折を経て今の形に至るそう。

 

 詳しい経歴については他サイトや冊子に譲るとして、この曲はAtmosphereの08年作『When Life Gives You Lemons, You Paint That Shit Gold』から。このアルバムはAntのビートが前作の濃厚でソウルフルなものからガラッと洗練された盤で、打ち込みのビートと削がれたサンプルや生楽器を使用したビートが交互に折り重なります。内容も初期の若く不安定な精神から吐出されたものから、より大人として成熟したものに。

 

 この曲"Guarantees"は労働者であるリスナーを代弁し、また自身の最良とはいえない状況を吐露しています。1バース目は倉庫の搬入をする肉体労働者を、2バース目はミュージシャン、そして父親として葛藤する自分を。そしてライブ版で追加された3バース目(彼の別のグループであるFeltの"Deathmurdermayhem"からの引用)では一転、上司へのむごたらしい逆襲をラップ。その内容のズレかたがちょっと笑えるんですが、曲にスカッとするオチが加わって個人的にはスキですね。

 

 そんでこのドラムレスのビート!今でこそ珍しいものではなくなりましたけど、この侘しい音に寂しいラップが乗るのが当時としては新鮮でたまらなかったです。そしてその中で、ライムによってビートを刻むSlugのラップスキルがまた素晴らしい。

 

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【翻訳練習】Jehst - Alcoholic Author

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Jehst - Alcoholic Author

 

 コウスキーのようにアル中の作家さ...本曲はこんな風にはじまります。

 チャールズ・ブコウスキーですよ。このブログで紹介した中ではDOOMやJonwayne、そしてJehstなど第一線のMCたちから影響を公言されるカルト的作家ですが、数多くの翻訳本でご存じの方も多いでしょう。ビートたけし氏なんかも敬意を表してますね。

 

 彼の小説は"ヘンリー・チナスキー"というオルターエゴ的存在を主役に語られます。ほぼ実話とおぼしき、つまり作為がなく脱線の多い話を、砕けすぎな文体で書く。この無骨で簡潔なスタイルに多くのひとが魅せられました(そして露骨さに倦厭もされる)。

 自分のオススメは断然『パルプ』ですね。彼の死直前に書かれた遺書的な小説で、探偵であるニック・ビレーンが犯人の尻と女の尻、それと(競馬の)馬の尻を追うという、パルプ小説へ捧げられたかなり適当なプロット。死を目前にした老人の覚悟、哀愁を感じて笑いの中に凄みがあるんですよね。柴田元幸氏の粋な翻訳もまた子気味イイので未読の方はぜひという感じ。

 小説よりも詩の方が有名な方らしいんですが、日本だと96年を最後に翻訳が途絶えてるみたいで。とはいえ翻訳権とかいろいろ面倒がありそうなので、このブログで手を付けることはありませんが。あしからず。

 

 ~~とブコウスキーについて軽く触れてみました。が、肝心のJehst氏の曲は相変わらずの散文で、まあこのスタイル自体が氏への敬意を体現していると言えば聞こえはイイのですが、特に著作への言及とかもないのでそこは期待しないでくだされ。

 

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【翻訳練習】Cage - Among the Sleep

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Cage - Among the Sleep

 計仕掛けのオレンジで主演をやりそうな白人ラッパーは数いれど、その主人公にまんま自己投影して1曲クラシックを作るなんてのは彼くらいなものでした。しかし実際、オルターエゴでもなんでもなく、彼の人生もドラッグ、暴力、体制に彩られていたとは。

 

 Cageは1973年に冷戦下の西ドイツ、憲兵として派遣された米国人一家のもとで生を受けると、早くも壮絶な人生に巻き込まれます。4歳で父のヘロイン販売および使用のため元々住んでいたアメリカへ強制帰国すると、4年後に父が散弾銃で家族を脅迫、逮捕。その後に母は2回再婚、ストレスで彼自身もコカインやLSDの服用を始め、麻薬所持や暴行で複数回逮捕されてしまいます。

 やがて収監された精神病院での16か月の入院中、誤って抗うつ薬のテストグループに混入。投与されるあいだ、靴の紐での首吊り、精神薬のリチウムを1カ月分まとめて接種するなど、何度も自殺を図ります。

 

 さてようやく退院した彼は、18歳でようやくラッパーとしてのキャリアを志向するようになります。この時点で自分に名付けた当時の芸名が"Alex"だったりして、既に時計仕掛けのオレンジの影響が分かりますね。そのあとはコロンビアレコードとの契約と解消、ミックステープのリリース、21歳で娘ができる、エミネムさんとのビーフなどを経て、01年にEonとDJ Mighty Miとのグループ"Smut Peddlers"としてアルバム『Porn Again』をリリース。

 この盤がやたら豪華で、Kool G Rap、Copywrite、Apani B-Fly(エロアルバムに似合わぬ客演...)、Kool Keith、そしてまだ色モノ感が拭えない頃のR.A. the Rugged Manなどとんでもない面々。ビートのクオリティもやたら高いし、やっぱり最高なのはヤク中全開だった頃のCageのフロウが高音質で聴けるとこですね。リンクはしないですが、R.A.が客演した"Bottom Feeders"のMVが酷すぎて笑える。

 

 その後はソロMCとして数々のレーベルでアルバムをリリースし、最近ではコロナ下でのショッキングな"I Got All The Toilet Paper"を投稿するなど、現在も元気に活動を続けております(急に雑になる紹介文)。

 本稿の"Among the Sleep"はそんな彼の1stアルバム『Movies for the Blind』から。"盲人用映画"のタイトル通りストーリーテリングを中心とした盤で、本曲は悪夢を見たまま抜け出せなくなってしまうというもの。流石のスキルで違和感なく描写しきり、フローはトんでる時の彼だし、ビートはRJD2の最高傑作のひとつなうえ、唸るオチまで用意されている!最高!

 

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