韻とアイデアほか

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【翻訳練習】Jehst - High Plains Anthem

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Jehst - High Plains Anthem


 国ヒップホップを語る上で最も避けて通れない男は?

 こんな質問をイギリスのリスナーがされたとして、まず間違いなく名前が挙がるであろうMC、それがこの男、Jehstです。

 

 Jehstは1998年から活動を開始しているMCで、自身がリリースを行うレーベルYNR Productionsの共同設立者でもあります。ロンドン大学のスクール・オブ・エコノミスクという社会科学専門のカレッジに入学するも、レコード契約とレーベル設立のため退学。元グラフィティライターという過去があり、ロンドンのいくつかの場所には未だに彼の作品が残っているとか。

 99年『Premonition EP』でデビューした彼は、その後Task ForceやLewis Perkerなどの古株たちとコラボするなど、華々しい成長を遂げていきます。今日に至るまで活動を続けており、デジタルリリースした17年作『Billy Green Is Dead』は英国の音楽マガジンClashで10点中9点を獲得するなど、実力は衰えを知ることがありません。

 

 この曲はそんな彼が一躍出世することになった02年の音源集『The Return of the Drifter』の1曲目にして、彼のキャリア中で最も人気を誇るマスターピースです。このアルバム自体が驚くほどの完成度、世界観、ムード、そして手放しで素晴らしいと言える巧妙なライムスキームとフロウで構成されており、のちのUK Hiphopの行く先を決めた、あるいは始まりを告げたと言っても過言ではありませんが、そのイントロを飾るライムを越えるものは——シーンを通して見たとしても——本当に数が限られてしまうことになります。

 UK Hiphopを愛するものとして、このアルバムを翻訳することは半ば義務で当たり前だと感じます。というか嘆きにも近い。実際、00年代末にUKシーンを知った筆者はネット上を狂ったようにディグしましたが、それに対する言及のなんと少ないことか!

 というわけでこの『The Return of the Drifter』、シリーズ化して全曲翻訳と行こうと決めました。ちょっと時間がかかるかと思われますが、地道に一個一個やっていくのでお付き合いください。

 

 さて曲の解説。この曲のタイトルは73年に公開された映画『High Plains Drifter(邦題:荒野のストレンジャー)』から引用されており、あらすじとしては『西武の小さな街Lagoについた流れ者が、ひょんなことで街の護衛を任される』といった感じ。

 しかし本楽曲の内容はスペース・ウェスタン(宇宙西部劇)と呼ばれるSFのサブジャンルに分類されるものです。同ジャンルは日本でも『カウボーイ・ビバップ』『トライガン』などアニメ・漫画で世界観を採用されており、馴染みのある方も多いのではないでしょうか。

 High Plains Drifter(高原の漂流者)という原題ですが、ここでは『マリファナでハイになってトリップしてる人』的な意味で使われております。最後の最後で伏線が回収されるのですが、そのラインがもうパンチライン中のパンチラインで、顔料インキで印刷して額縁に飾りたいレベルの一品なんですな!このラインのためだけにも聴く価値がある。

 まあそんな感じで、無茶苦茶に具合がよろしい曲なので皆聴いてくれというノリです。こんな名曲が日本で知られてないのは残念としか言いようがない!

 

 

 


[Intro]
"Here we go"
さあ行こう

 

"Yeah, you may have heard about the gangster of love
ええ、アンタは聞いた事があるかもしれない、愛のギャングスターや、
and the space cowboy,
スペースカウボーイについてを
but I'm gonna whip a cat on you right now
だが俺は今からお前を厳しく躾けるつもりだ
who's had more trouble, trials and tribulations."
——誰がより多くのトラブル、試練、苦難をくぐり抜けてきたのかを

 

It doesn't stop now (High plains drifter, it's the high plains drifter)
今じゃ止まらねえよ(高原の漂流者、そいつは高原の漂流者...)

 


[Verse 1]
I walked in a saloon at high noon, the moonshine sipper
俺は正午の酒場を歩いた、密造酒を嗜む者
Spit a new rhyme till it's hasta la vista
新たなライムをさよならになるまでスピットする
The king blue twister, smash your transistor
青い竜巻の王、お前のラジオを破壊するぜ
"It's the High Plains Drifter", that had to resist the
"そいつは高原の漂流者" 抵抗しなきゃならなかった——

 

Sickness of the city life, I'm sat by the river
——都市生活の病に、俺は川のそばに座る
A packet of Rizla and a flask full of liquor
リズラのパケ水筒一杯の蒸留酒
Made the locals ask: "who's the masked figure?"
地元の連中に問わせる "あの仮面姿の男は誰だ?"
Fill a page with the pain it seems you can't picture
お前が描けないほどの痛みでページを埋めるぜ

 

The last heavy hitter, so many consider me
最後の強打者だ、とても多くの人が俺を考察する——
To be very bitterswitching up my delivery
——とても辛辣だと、投球法を変えるぜ
Stitching up my injuries, and flipping imagery
怪我を縫合し、比喩の画を引っくり返す
Mixing toxins till I'm lost in the synergy
相乗効果に自分を見失うまで毒素を混ぜていく

 

Drown in my misery, a man of mystery
俺の惨めさに溺れろ神秘の男
I stand in the blistering heat as the epitome
俺は焼け付く程の熱気の中に立ってるんだ——
Of the anti-hero, tipping my Stetson
——アンチヒーローの醍醐味のままに、Stetson(カウボーイハット)を傾ける
Space cowboy, I drink whiskey with George Jetson
スペースカウボーイさ、俺はGeorge Jetson(アニメ)とウィスキーを飲み交わす

 

Two thousand and one, a space western
2001年、宇宙の西部
Quick on the draw, bring a war to your section
素早く拳銃を抜き、お前のセクションに戦争を起こす
Blood sport veteran, contraband cargo
血塗られたスポーツの百戦錬磨密輸品の貨物
The known desperado rolled into Lago
Lagoに転がり込んだならず者として知られてる

 


[Scratches]
"Traveling, through the mind
旅行する、思考を通り抜けて
One time..."
かつて...

 


[Verse 2]
I ride with lost peasants, hot stepping across deserts
俺は失業した小作人と相乗りして、砂漠を横切って介入するぜ
Letting the dust settle for sheep who watch shepherds
羊飼いを見た羊をなだめ落ち着かせてやる
Yeah I rock sessions, with unorthodox methods
ああ俺は会合をあっと言わせるぜ、異端的な方法
The messenger, ready for death when God beckons
伝令役さ、死へ備えな——神が手招きしたなら

 

On front lines, worldwide kids had got weapons
最前線で、世界中の子供たちが武器を持っていた
And grey skies hide sunshine from the heavens
そして灰色の空が天国からの陽光を隠してる
I'm threatened, by the seven sins of my species
俺はおびやかされた、俺の生物種七つの大罪によって
I don't need TV, I read tea leaves
テレビは必要ない、俺は茶の葉を読むのさ

 

Smoke the peace pipe, in the chief's tepee
平和の煙管を吸い込む、族長のテント小屋
I speak freely, the 3D graffiti writer
俺は自由に話す三次元のグラフィティライター
It's kinda like the new easy rider
そいつは新しい"気ままなバイク乗り"って感じだ
More bad apples in the crew than cheap cider
乗組員中じゃ粗悪な林檎酒よりもっとろくでなし(Bad Apple)な連中だぜ

 

I breath fire, the propane flamethrower
俺は炎を息するプロパン火炎放射器
Man the fort for this hostile takeover
この敵対的買収に向けた砦の男さ
I play poker-faced, hold the ace
俺は無表情な顔をして、エースを握る
Tucked up my sleeve, leave your mouth with a sour taste
袖を閉じて、お前の口に酸味を残すぜ

 

That's just how I play the game nowadays
それがここ最近の俺のゲームのやり方
Apologies to the crowd, I'm a hour late
聴衆に謝るよ、1時間遅れちまった

 

Yeah,yeah,yeah
ああ、ああ、ああ

 


[Scratches]
"Traveling, through the mind...
旅行する、思考を通り抜けて...

 


[Verse 3]
Battling me? That'd be an embarrassing mistake
俺と戦うって?そいつは恥ずかしい失態になるかもな
Like promoters who don't get the "H" in the right place
適切な位置に"H"(JE"H"ST)を入れなかった宣伝部みたいに
My mic stays in close range, I travel the low plains
俺のマイク近距離ある、俺は平野を旅する
But drift on a high like cocaine
だがコカインみたいに高みを漂流するぜ

 

Exchange words with the man with no name
名前のない男と言葉を交換する
Inspectors, throwing up letters on the ghost train
監査員だ、魔列車で手紙を投げて寄こすぜ
I rotate, like old brakes on chrome plates
俺は回転する、まるでクロム板古いブレーキのように
Hunched up, punching keys till my bones ache
肩をすぼめ、骨が痛むまで鍵(歌モノ)を殴りつける

 

I blow fakes outta the water, chucking harpoons
俺はフェイクどもを水の外に吹き飛ばすを投げつけて
You can't move, running on the spot like a cartoon
お前は身動きが取れないカートゥーンみたく同じところを走ってる
Leaving a trail of destruction when I pass through
俺が通過する時は壊滅の跡を残すぜ
The drunk fool, fighting off demons with a barstool
酔っ払ったマヌケさ、酒場の丸椅子と悪魔に立ち向かってる——

 

Screaming "Ja Rule", my instincts are carnal
——"Ja Rule"と叫びながら、俺の本能は肉欲
The dirty rascal, or the king of the castle?
汚いゴロツキか、あるいは城塞の王か?
I'm partial to both titles, the soldier's quoting the Bible
俺は両者のタイトル片手落ちだ、戦士が聖書を引用してやがる
Holding my rifles, to false idols
ちょっと俺のライフルを持ってろ偽りの偶像のためさ

 

I love the crackle on the old vinyl, I rock break loops
古いレコードのノイズを愛してる、俺はブレイクのループを動かす
And make moves from my HQ
そして司令室から手段を講じる
I stay true to the ancient ways
俺は古代の方式忠実でいるんだ
The herbalist curb-surfer riding paper waves
薬草師の波乗りが巻き紙をサーフィンするぜ...

 

 

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