韻とアイデアほか

日本語の押韻などに関する走り書きetc...

【翻訳練習】Ed Scissor & Lamplighter - Spastic Max

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Ed Scissor & Lamplighter - Spastic Max

 

 共感覚を持たない我々一般のリスナーであっても、この英国の二人組が紡ぎだす虚無の具現化にグレースケールのイメージを覚えることでしょう。

 Ed Scissor、旧称Edward Scissortongueがどこからやってきたのかは定かではありませんが、Dirty DikeやJam Baxter、Mr.Key、Ronnie Boshを内包する今日では伝説的なUK Hiphopクルー『Contact Play』の一員であることで知られ、2009年の唯一のクルー共作アルバム『Champion Flaff』で初めてその姿をあらわにします。

 その次に彼の存在がリスナーに認知されたのは、皮肉にも彼の作品それ自体でなく、Dirty Dikeの出世作である『Constant Dikestar』に収録されているSkit"Where Is Scissor Tongue"によってでしょう。なんでも同アルバム制作中にEdが姿をくらましたのを発端に作られたらしく、同梱されている曲"What D'you Expect"では実際に彼が欠席してる様子が電話で語られます(「もうマスタリングしちゃったよ」「やめろ、俺抜きで終えるな」のやり取りが笑える)。

 

やりたい放題やられてるEd Scissor氏

 

 この過程によって謎の人物という印象を残した一年後、唐突にリリースされたのが本稿で紹介する"Spastic Max"を収めたアルバム『Better.Luck.Next.Life』です。

 "唐突"という表現は語弊があり、CD販売の慣例によってMV数本が発表されたあとにリリースされたのですが、それでも"唐突"と表現し得るのは、この曲がBoombap全盛期だったUK Hiphopシーンにおいてあまりにも静寂を湛え、クラブのサウンドシステムや家でのヘッドバングには向かない、真っ暗でグレーな音楽だったからです。

 

 その印象に大きく寄与しているのがLamplighterでしょう。スコットランドアバディーン、その曇り続きで日照時間の短い環境で育った彼のビートは、人というよりは悪辣な環境それ自体がそのまま化け物となって排出している生理音のようです。気だるい湿り気を吐きだし、あてもなく灰色の路地を踏みしめているような...。

 本稿の『Spastic Max』は、まさにそのイメージと合致するアルバム代表曲ではないでしょうか。”痙攣”マックスという人物をめぐるストーリーテリングなのですが、これがまた恐ろしく暗い。

 

 通常、ストーリーテリングといえば起承転結があり、その展開の緩急によってリスナーが引き込まれ共感する、という感じに機能するかと思うんですが、この曲はただ淡々とマックスの行動が描写されるのみです。器物損壊、薬物使用、放浪。そこにほぼひとつのパンチラインもなく、血が沸くようなシーンもなし。

 しかしそれがこの曲が異彩を放っている理由でもあります。この鬱屈とした変化のなさこそが、同じ貧困を舞台とした数々のラップ音楽の中、あまり見られない"貧困の退屈"を表現しきれているのです。

 イギリスでしばしば語られる『サッチャー政権以降の緊縮財政』そのままに、描かれる公営団地は小便臭く、中流階級は少なくない人数にとって幻想であり、失職を薬が埋める。なによりリアルなのが、ここで行われる犯罪行為の数々がUSのゲットーものと比べてはるかにショボいこと。メインキャストは殺人犯や売人ではなく、ただの退屈した人間なのです。

 筆者も公団住宅でちょっとした貧困を経験したことがありますが、これらの光景にすこし見覚えがあるのです。麻薬こそないものの、徘徊、早すぎる性の目覚め、傷を搔きまくって薬を塗る痛気持ちよさ、意味もなく階段の踊り場の排水溝で小便をするのはもちろん、スーパーの試食コーナーを3周回ったり、一番高い階から車の窓に石を投げつけて命中させたり(割ってから事の重大さに気づいた)、本屋からゲームの攻略本を盗んでは、中に入ってるオマケのシールを団地裏の死角の壁に貼り付けて遊んだり。今でも自宅のロッカーには、小さいころ万引きした青い塗装の木製バットがしまってあります。一度も使ったことはない。

 

 貧困の中で退屈すれば人はなんでもやる。悲劇の物語ではなく、あえてそういうタイプの空白、虚無だけを書ききることに徹したEd Scissorの審美眼たるや。カプレット的な韻を使わず音を散漫とさせているのも虚無さを深めています。

 

 

[Verse]

It was 1999
それは1999年のことだった
Bonfire Night
ボンファイヤー・ナイトの日
When the red mist first enveloped his character traits
赤い霧が初めて彼の人格面を覆い隠した時、

 

He found himself
彼は自己を発見した

 

With no control over his fists
彼の拳に余る制御不能なもの
Wailing on some dickhead’s face from his council estate
住んでる公営住宅から間抜け共のツラを嘆き悲しむ

 

See many moons had passed
多くの月が沈んだのが分かる
since the hope of a 2 point 4 landlubber life style had been smashed into smithereens
──中流労働者の生活様式という希望が粉みじんに砕け散ってから
It was a year ago this very day
ちょうど一年前のこの日だった
that the intravenous sludge pumping had taken off at a wild speed
静脈からのヘドロの汲み上げが猛烈なスピードで始まったのは

 

He found himself a regular at the phone boxes
彼は自己を見つけた──電話ボックスの常連に
Cherry Lambrini
チェリー・ランブリーニ(発泡ワイン)に
Bicarb from the corner shop
角の店重曹(粉の麻薬)に
Back to the mould covered wormhole mattress
カビで覆われたワームホールマットレスに戻る
stained practice baccy, packs full of flints
汚れた試作タバコにパック一杯の火打石
and butts stinking
そしてバッツが悪臭を放っている

 

Nuff guzzling drugs
十分なドラッグを一気飲みする
Vein deposit lumps, clogging his mug, stuck in the mud
静脈が塊を堆積し、口を詰まらせ、泥沼へとハマり、
the AM doth greet him
午前が彼に挨拶する
Spastic Max sat in a deluge of acid tabs
痙攣マックスは酸の風呂の洪水に座っていた
Flame retardant trackie pants and garage raps sketching
難燃性のトラッキーパンツでガレージラップを下書きする

 

Seldom seen was he between A-to-B
彼はAB間で滅多に目撃されなかった
Missions to spaghetti junctions, paints on the underpass
ジャンクションへ行きガード下にペイントする任務だ
Hanging off the highest bridge
一番高い橋にぶら下がり、
Run goose-quack-a-thon
間抜けとの隠れんぼを実行する
Throwing breeze blocks through speeding windscreens passing
軽いブロックを投げ、過ぎていく速度超過のフロントに貫通させるのだ

 

He would climb electricity mains
彼はよく送電線へ登った
and cut the power from his home town and roam the streets reeling in the panic
そして故郷の町から電気を絶って、パニックにざわめく通りを漂い歩く
And cotch in cul-de-sac hedgerows
そして生け垣の行き止まりを見つけ、
watching single mothers sparking matches in the darkness of their living rooms
シングルマザーが居間の暗闇にマッチを焚くのを見物する

 

His grief flourished like anthill communities
彼の嘆きはアリ塚のコミュニティみたく蔓延した
Caplets from an undercurrent colour source beneath the grey
グレーより暗い水底の色源から来たカプセル錠
concrete corridors and monoliths, in-and-around the pissy stairwells
コンクリ廊下とモノリス、そこかしこが小便臭い吹き抜け、
and pissy lifts in which he found his peace
そして彼が平穏を見出だす小便臭いエレベーター

 

Beneath the bread line
パン配給の列の元に
Bread knives sliced at the smart price car
パンナイフで安値の車を切り刻む
Crimes carnage his hair greyed
犯罪は彼の髪を灰色に殺し尽くした
Cracked enamel pegs inside a garbage pail
生ごみバケツの中のひび割れたエナメルペグ
kid cabbage patched tapping veins until the sun decayed
幼い脳が「日が暮れるまで静脈に打とう」と閃いた

 


He moved inland for better dope
彼は強い麻薬を求め内陸へ移動した
Cast away bastard face forgot the names of his school mates
見捨てられた負け犬顔は同級生たちの名を忘れてしまった
He moved inland like seagulls sacking off trawler ship
彼は移動した - まるでトロールをクビにして、
cast offs for landfill luncheon
ごみ処理場の昼食会のため放棄するカモメのように

 

The coastline haunted his thoughts
海岸線が彼の考えに取り憑いた
and so he thought ever more about taking a saw to his neck side
そこで彼はもう一度、首の脇へ鋸を持っていこうと考えた
He had visions of blood dripping over the floor
彼は床中に血が滴り落ちるのを見た
of his four-by-four foot box bedroom
- 彼の4×4フィートの箱の寝室に
Next life
来世だな

 

He’d open paperbacks but only paint the pages black
彼はペーパーバックを開いたが、ページを黒く塗るだけだった
and use a magnifying glass to spark a map of memories
そして虫眼鏡を使って、記憶の地図に火を起こし
Words would get deleted quicker than a 100 metre dash
言葉が100メートル走より早く削除されていく
Another night laden with some fear and loathing imagery
恐怖と憎しみのイメージと共にもう一つの夜が積もっていった

 

You might have known him
あなたは彼を知ってるかもしれない
The man behind those ram raids
ラムレイド(※車で強襲する強盗)の背後にいる男
The man behind the letter bombs sent out to several primary schools
いくつかの小学校に送られた爆破予告の背後にいる男だ
You might have known him
あなたは彼を知ってるかもしれない
as the dude who scampered down the side of your house
──あなたの家の脇をあわてて駆け抜け、
and made off with your penny farthing bicycles
ペニーファージング自転車を盗んだ男として

 

He used to watch the freight trains
彼は貨物列車を眺めたものだった
He used to fish for carp and beat
彼はよくを釣り、
his catches to a rancid mush with heavy ended claw hammers
研いだ釘抜き金槌で腐臭のグチャグチャへと潰したものだった
He used to sneak into the cinema and sit in front rows
彼は映画館に忍び込んで、前列に座り、
and laugh his head off to the hammer horror matinees
古典ホラーの二枚目たちを過度に笑ったものだった

 

He used to talk to people and people used to talk him too
彼は人々と話し、人々も彼と話していたものだった
That was way before the crack, the whores, the drugs, the sniffing glue
それはクラック、売春婦、麻薬、シンナーよりも前のことだ
That was way before the days of simply nicking pissy booze
それは単に不快な酒を舐める日々や、
and jumping queues of peeps shopping for shitty supermarket food
劣悪なスーパーの食べ物に並ぶ人波に飛び込むより前のことだ

 

See life wasn’t ship shape
ご覧の通り、人生は船の形をしてなかった
life was shit main
人生は下水管だった
Life was hookers tied to his bed frame with grip tape
人生は彼のベッドの枠粘着テープで縛りつけられた大量の酒だった
Blindfolded piss games
目隠し小便ゲームだった
Net curtained shit stained fist gape
網カーテンで覆われ、拳でかっぽり空いた糞塗れの肛門だった
listening to Rick James’ mixtapes
リック・ジェームズ(※よくある平凡な名)のミックステープを聴くことだった

 

He was his mother’s only baby pains
彼は母の唯一の分娩痛だった
His mother’s only labour day
彼の母の唯一の労働日
His mother’s one and only angel saint
彼の母の唯一人の天使の聖人
His mother never thought she’d see her grave
彼の母は自身の墓を見るとは決して思わなかった
before the day that Max was raking cash
- マックスが現金を搔き集め、
and chasing pavements to the stock exchange
証券取引所への舗装を走る日よりも前には

 


His mind felt heavy
彼の心は重さを感じた
cracked skull, matter, case, fragile flesh
割れた頭蓋骨、問題、真相、もろい肉が
with lead brick sat inside throbbing
ズキズキする鉛の煉瓦と内部に座っていた
He felt his face change shape
彼は顔の形が変わり、チーク材棺桶奥深くの
and time ebbing away the vital signs of life ankle deep inside a teak coffin
人生の足首のバイタルサインが引き去るのを感じた

 

Sitting in the fourth dimension
四次元に座り込み、
he felt the raw depression
彼は激しい憂鬱を感じた
of forty horsemen stretching his organs awful essence
- 40頭の騎兵が彼の臓物のぼろぼろの骨子を伸ばすような
He was ever omnipresent as a portal peasant
彼は門前の田舎者として常にどこにでも居た
looking in the mirror, clock a devil dressed in his reflection
鏡を覗き込み、映った悪魔が着替えるのを待つ

 

During thunderstorms he found peace with life
雷雨の合間に、彼は人生の安らぎを見出した
He saw the rain as writing letters with Jesus Christ
彼にはキリストが雨に手紙を書いてるように見えた
and with his fingers he’d scribe letters across the sky
そして彼の指がに文字を書き、
in the hope that constellations would free his mind
星座が彼の心を解き放つことを期待して見えた

 

But deep inside his rancid flat
だが彼の腐臭のするアパートの奥深くで
Light flicker movements mapped
電灯の揺らめく動きが描き出す

 

white face
白い顔
wrinkled grimace
皺のよったしかめ面
lager cans
ラガー缶
and baccy ash
そしてタバコの灰

 

Lost in the soil for the Spastic Max
痙攣マックスにとっての埋葬だった
Six foot two six foot box, six feet deep in the cancer tank
6フィート×26フィートの箱、6フィート埋もれた腫瘍のタンクの中で