韻とアイデアほか

7割は合ってる / 誤訳の指摘は24時間お待ちしとります

【翻訳練習】Telemachus ft. Roc Marciano - Scarecrows

f:id:Tachibuana:20210409114258p:plain

Telemachus ft. Roc Marciano - Scarecrows

 ※21/05/09 "broad's purse/Church, tabernacle~"の箇所を修正しました。 

 

 国最高峰のビートメーカーとアメリカ最高峰のラッパーが組んで、最高にならないわけがないんですよね!

 Roc Marcianoはご存じNYロングアイランド出身の巨塔、苦節の年を経て難攻不落のプロップスを得たMC/プロデューサーです。とはいえ筆者はアメリカのヒップホップを詳しく紹介しようとするとボロが出るので、彼についてはこのくらいにしておきましょう。説明不要だ説明不要!

 Telemachus...通称Chemoは、初期のUKシーンの重要イベント"Speakers Corner"の協力者として活躍し、UKのキリマンジャロスタジオ(現KMJ45 Studios)で数々のUK Hiphopをマスタリング、Jehst率いるYNR ProductionsとHigh Focus Recordsのチーフエンジニアに携わる傍ら、ビートメイカーとして数々の作品に携わり、アルバム単位ではTriple Darkness、Onoe Caponoe、そしてJam Baxterとは3枚もの共作を重ねております。かのガーディアン紙は彼を『ほとんどの人間が認知するよりはるかに英国の音楽が進むのを助けた男』と評価しているとか。

 

 というわけで本稿でご紹介するのは、そんなChemoがTelemachus名義で初めてリリースした曲なのです。まあこれが鬼渋でメタクソに格好良い。

 ファットで有機的な音色の中、うっすらと控えめに乗るハイハットに変わってビートを刻むRoc Marcianoのリリックは、これでもかというくらいのマルチライムで叩きのめされております。

 

 マルチライム。これですよ。

 どれくらいの日本語ラッパーがマルチライムに関して理解しているでしょうか。おそらく「韻が固い」とか「たくさん踏んでる」、または「複数の音節で韻を踏むこと」と捉えているでしょう。最後のは惜しいです。

 マルチライムで重要なのは『複数"語"で韻を踏む』ということなのです。

 試しに今回のリリックの韻を踏んでる箇所を抜き出してみましょう。1バース目の最後4小節から抜き出すと...『Platinum jewels』『Natural goons』『Passing the boon』『Black and maroon』『laughing at you』『acting a fool』『back to the rule』『gat in the suit』といった感じです。

 

 さらによく見てみましょう。これらの韻はほとんど2語の目的語や動詞に、接続語や接尾辞(ここでいうingのような語の後ろにつくもの)を加えて構成されてるのが分かるでしょうか?『Pass(ing) (the) boon』『Black (and) maroon』『laugh(ing) (at) you』『act(ing) (a) fool』『back (to the) rule』『gat (in the) suit』という風に。

 そして中間の接続語や接尾辞は必ずしも韻を踏まないということです。ここでいう『Black and maroon』のand、そして『back to the rule』のtoは音があってないですよね。

 

 つまり前の語、Pass - black - laugh - act - back - gat と後ろの語、boon - maroon - you - fool - rule - suit の片方ずつを合わせれば、中間はどうでもいいということです。こう考えてみると、難易度がぐっと下がらないでしょうか?

 この2語に分けて考える方法はさらにメリットがあります。それは、韻を連想する過程において、韻をシャッフルすることで最適な語を吟味できるということ。どういうことかというと...

 

 ・pass                   ・boon

 ・black                  ・maroon

 ・laugh                  ・you

 ・act                      ・fool

 ・back                    ・rule

 ・gat                      ・suit

 

 この左の語と右の語を、自由に矢印で結んで組み合わせることができるのです。

 通常の単語韻だと各6個しか韻のパターンを作れないのに対し、マルチライムだと左の単語「pass」に対し右の6つ全てに(理論上は)結ぶことができ、それを6単語でやるので6×6の計36通りで韻をつむぐことができるんです!
 もちろんこの方式でやると不自然な組み合わせというのができるんですが、それを省いても、というより省くことにより、より適した表現を模索することができるというわけなんですよ。

 

 試しに日本語でやってみましょう。韻グループA「固い-甘い-赤い-高い」と韻グループB「りんご-金庫-人魚-ヒント」があるとします。ちょっと考えてみてください。この韻グループBで何かしら面白いことが書けそうとは思わないですよね。

 これでマルチライムを書こうとすると...

 

固いりんご-甘いりんご-赤いりんご-高いりんご

固い金庫-甘い金庫-赤い金庫-高い金庫

固い人魚-甘い人魚-赤い人魚-高い人魚

固いヒント-甘いヒント-赤いヒント-高いヒント

 

 4×4の16通りできました。ここで生まれた2語の組み合わせをちょいとピックアップしてみましょう。例えば「甘い金庫」というのは鍵が甘いのかな?という感じだし、「高い人魚」というのは違法なオークションにかけられた人魚を思わせますし、「赤いヒント」というのは血塗られたリスキーなヒントをイメージできます。

 こんな感じで、マルチライムには自分の考え付かなかったような言葉の組み合わせを生み出す能力もあるのです。ある意味ではブレインストーミングに似ていて、韻という「自分の頭の外にいる他人」に好きに発想させているかのようです。

 ではさっそく、生み出した言葉で韻文を考えてみるとしましょう。こんな感じに...

 

  俺は恋をした、競売で一番高い人魚(だ)

  そいつは居る、アルカトラズみたいな固い金庫(に)

  鍵穴を抜ける彼女と俺の赤い糸──

  俺はPCで警備をハックした──"高いリンゴ(Apple)"(さ)

 

 いちおう文章らしい文章にできたのではないでしょうか(不出来もいいとこですが)。しかし単語単位で考えたときに比べ、思ったより面白いものが書けましたよね(ね!)。

 

 ここまで書いたことをまとめましょう。マルチライムというのは、ただ堅物のオッサンが好んで聴く硬派なブツってだけではなく、ツールとして実用的なのです。マルチライムには...

 

1.使える韻の選択肢を大幅に増やせるメリット(連想法としての韻)

2.自分の想像力の外側にある言葉を創造するメリット(錬金術としての韻)

3.語を取捨選択して吟味するメリット(整理術としての韻)

 

 この3つがあるんです!

 さて、それらの知識を踏まえたうえで──この曲、Roc Marcianoの『Scarecrows』を聴いてみてください。そしてプレイヤーなら、英語のマルチライム部分を口ずさんでください。そして体で覚えてほしいです。マルチライムというのがいかにビートの上を楽しく跳ね、ラッパーのデリバリーを重厚にし、"ライムを書く"という行為を奥深いものにしているかを。

 リリックではなく。

 

 

[Intro]
It's real shit, nigga
こいつはリアルなクソだぜ、お前ら
Chemo baby, what's good?
チェモだ、調子はどうだ?
Moss
モス(バーグ・ショットガン=彼の通称)だ
Got it
了解
Military mind, nigga
ミリタリー精神だぜ、お前ら

 

[Verse 1]
One in the chamber
1が金庫/薬室
Fifteen up in the handle
15がケース/マガジンに控えてる
I'm a businessman
俺はビジネスマン
No
違う
I'm the lambo
俺はランボー
Show 'em how the plan go
計画の行方を見せてやる
Take a couple of a hand notes
手記を2,3枚とりな
You just stand there and pose like a scarecrow
お前はつっ立って案山子みたくポーズを取ってろ

 

In '96
96
I had the TEC with the airholes
俺はTEC(銃)とエアホール(顔マスク)を持ってた
Fiends jumping out the manholes
マンホールから飛び出す悪魔たち
Grand roles
豪華な役者たち
Here's a sample
ここに見本がある
We trample
手荒い
Gamble
博打
Making samples
標本を作ってる
Be careful
気を付け

 

Beware fool
注意しろ間抜け
We werewolves
狼男たち
Yeah, true
ああ、マジ
Tear to flesh
肉に涙する
Scared niggas vamoose
怯えた連中は高飛び
Or get ran, do
あるいは逃走か、しな
We pull up in that van, vroom
俺たちはバンへ引き上げ、ブルーン
Cannon's through
砲丸が通る
Timberland tan boot
ティンバーのなめし革ブーツ(※焦げた足しか残らないの意)

 

Ha/ummers to shoot
撃つための撃鉄/ハマー(車)だ
Then ran to Cancún
その後カンクン(メキシコの都市)へ走らせる
Now let that soak in your dude like shampoo
じゃあお前の知人シャンプーみたく浸すとしよう
You can't spook me with hand moves
手話じゃ俺に会話できない
Boo, I'm an animal
ブー、俺は獣
Collect my mechanicals
俺の機械式を集めな

 

Lex Coupé and a turret-proof
レクサスクーペ防壁タレット
Without a roof
"天井無し"だ
Motherfuckers is washed up like Baton Rouge
くそったれどもはバトンルージュ(ハリケーンの被害地)みたく洗い流される
I'm blasting a tune
俺は曲を奏でる
Clap for the loot
贈り物に拍手を/戦利品のために撃つ
Plus how I rap to the tune
加えて音へラップするさま
That's satin-smooth
そいつはサテンの滑らかさ

 

Platinum jewels
プラチナの宝石
Natural goons
天然の羊毛
Passing the boon
願いの消滅
In the big Benz, Black and maroon
デカいベンツの中で、『赤の中の黒』(マーク・ロスコの絵画)だ
I'm laughing at you acting a fool
俺は馬鹿をやるお前を嘲笑する
But back to the rule
だがルールに戻ろう
Know that still keep the gat in the suit
"スーツに銃を忍ばせたまま"と覚えとけ

 


[Hook]
Nigga, get mines
お前ら、モノにしな
Whether it's crack of spitting rhymes
そいつがスピットされたライム結晶であろうとも
Snatch shines off niggas arms
連中の腕から光るものをかっぱらえ
Then we move onto bigger jobs
そうすりゃもっとデカい仕事にありつける

 

Get mines
モノにしな
Whether it's crack of spitting rhymes
そいつがスピットされたライム結晶であろうとも
Snatch shines off niggas arms
連中の腕から光るものをかっぱらえ
Then we move onto bigger jobs
そうすりゃもっとデカい仕事にありつける

 


[Verse 2]
Spark the herb
ハーブ点火しろ
You heard nigga, Mossberg
聞いたろお前ら、モスバーグ
Make the big car swerve
デカいらす
That's a sharp turn
こりゃまた急旋回だな
Your hearse looking like starburst
お前の霊柩車星型に見えるぜ
Cars disperse
車がばらばらになる
Plus keep the squeezer in my broad's purse
しかも俺の女の財布(性〇)が圧搾器のままだ

 

Church, tabernacle nigga, some say
順調だ(教会)、礼拝堂だと誰かが言う
Watch for the gaffle cruising down the one way
強奪にそなえ眺め、片道を旅する
Travel in peace
平和な旅
Oops, I meant trouble with the piece
おっと、(piece)によるトラブルって言ったんだ
Or get clapped up in your black hyundai
お前の黒いヒュンダイで銃撃されたってことでもある

 

They rap mundane
奴らは平凡にラップする
Some running untamed
数人は抑制されずに走ってる
But whether sun or rain
だが晴れでも雨でも
We hustle for chump change
俺たちは覇者の交代へ推し進むんだ
Dump the gauge
散弾を放り出せ
We jump up in that plum range
俺たちは密射程に飛び込む
Ain't no fun and games
遊びもゲームもない
My Uzi a ton it weighs
俺のUzi(銃)は重さが1トンがある

 

20s of haze
もやの20秒
Blaze in my Stunna shades
俺のスタナシェイズ(眼鏡)に映る火
Cut that butter and roll like tumble weed
ショートカットして回転草みたく急転する
Bundles of D(ollers)
ドル札の束
Blood in the streets
路上の血
Gun in my reach
届く位置の銃
Up under the seat
席の下で備え
Here's something to see
ここに見るべき何かがあるぜ

 


Who want it with me?
誰が俺とやりたい
Dump in his meat
ヤツの肉にぶち込
You slumped in your ve(hicle)
お前は車両に倒れた
Trying to run with a key
を回してろうとしてみな
Plug your physique
――自分の体躯に接続しな
Make love to the beat
鼓動に恋しな
Up on a beach
浜に打ち上がりな
Run up in it deep
駆けてはまり込みな
Fuck it and skeet
「クソが」と鼻水
Nut on your sheets
シートを濡らしな

 

Some on your cheek
お前の頬に何かが乗
Dumb on the freaks
間抜けが発狂する
Some on a leash
何かが紐につながれる
That's how some of us eat
これが俺たちの食い方
The Summers is heat
"夏"は暑い
Smuggling E(nemy)
敵を密輸する
You're running your G
お前はお前のGをやりな
Bubbling Green
泡立つ緑("G"reen/濃硫酸)だ
That's because the struggle is deep
なにせ復讐は底知れないからな
Nothing is free
何ひとつ自由じゃない


[Hook]
Get mines
モノにしな
Whether it's crack of spitting rhymes
そいつがスピットされたライム結晶であろうとも
Snatch shines off niggas arms
連中の腕から光るものをかっぱらえ
Then we move onto bigger jobs
そうすりゃもっとデカい仕事にありつける

 

Get mines
モノにしな
Whether it's crack of spitting rhymes
そいつがスピットされたライム結晶であろうとも
Snatch shines off niggas arms
連中の腕から光るものをかっぱらえ
Then we move onto bigger jobs
そうすりゃもっとデカい仕事にありつける