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【翻訳練習】Buck 65 - Gee Whiz

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Buck 65 - Gee Whiz

 

 達男め、なんて羨ましい!見てくださいこの......ええ?

 

 ...と楽曲に関係ないことはともかく。Buck 65です。カナダ出身、Stinkin'Richという名で下積み時代を経験し、Buck 65に変名後、アルバム『Vertex』を含めた3作、SixtooとのデュオSebutones名義でのリリースなどを経て2001年、Anticonでの『Man Overboard』を契機にWarner Music Canadaと契約。

 2003年『Talkin'Honky Blues』ではカントリーやブルース、フォーク、エレクトロニカのサンプルを大胆に使った音作りに加え、Tom Waitsが『Small Change』で見せたような(アレほどではないが)ダミ声路線へのシフトによってさらに個性的な作風を獲得、04年にカナダの音楽賞JUNO Awardsのオルタネイティブアルバム賞まで受賞してしまいます。その後も創作意欲は衰えず、グループ名義を含め10枚以上の作品をリリースしているみたいです。

 

 活動をリアルタイムで見てきたわけではないのであんまり知ったような口はできないのですが、リリックを書く上でのテーマ選び、書き方が独特で、ライムスキームやフロウ以上に(それ自体もよくできてるんですが)"独創性そのもの"に焦点をあてている人だなと聴いてて思います。

 今回紹介する曲は2011年作『20 Odd Years』からの曲"Gee Whiz"なのですが、これもまた一筋縄ではいかない曲で、ラブソングのような体を装っている反面...

 

 この曲は解説を先にすると台無しになるので、先に翻訳文を載せましょう。あと音源よりもライブverの方が音質が良いので、今回はそっちを載せます(正規版は各自でオナシャス)。そんではGee Whiz、どうぞ。

 


[Hook]
Tell me what it is
それが何なのか教えて
Gee Whiz
"素晴らしいもの"
I don't think I know
わたしが知ってると思わないわ

 

[Verse 1]
Well believe me I've tried but there's no explaining
うーん信じてくれ、やってみたが説明がつかないんだ
Eyes piled up you look like a painting
目が堆積してて、あんたが絵画に見える
Saintly and sexy, the soft-spoken wind blows
繊細で色っぽく、柔らかな声の風が吹く
Uncertain curtains cover broken windows
カーテンが割れ窓を覆っているか確信が持てない

 

In desperate need of a safe haven and inflamed
安全な避難所を切に欲し、炎症を起こしてる
I walk around Paris, unshaven and ashamed
俺はパリを歩き回り、ヒゲもそらず恥ずかしがってる
20 odd years since last time I slow danced
最後に"ゆっくり踊って"からかれこれ20年
Teenage crisis and the end of romance
10代の危機とロマンスの終わりだよ

 

I see myself in the form of a wolf
俺は自己に狼の姿を見る
Furry down on all fours and worried
四つん這いに伏して怯えている
Uneven colours and the echoes of fly tones
不均一な色彩とハエの羽音の反響
Connections I've lost in a collection of jawbones
顎骨のコレクション接続(意識)を失っていた

 

Apples and oranges, you decide which
リンゴとオレンジ(完全な別物)、どちらか選べ
I'm writing graffiti on suicide bridge
俺は自殺の多い橋にグラフィティを執筆する
I once knew a woman who was clever and tough
かつて俺は、賢くタフだった女を知っていた
Who said too much make up is never enough
厚化粧にやりすぎなんてないと言った女だ

 

Her eyelids were heavy with words and desire
彼女のまぶたは言葉と欲望に重くなっていた
She lives underwater with the birds and the fire
鳥と火と一緒に水中で暮らしてるんだと
And it just so happens I'm selling my psyche
それでたまたま、俺はを売り払ったんだ
If you like love you'll love this, most likely
愛を好むならお前はコイツを愛すだろう、十中八九

 


[Bridge]
You and me are meant to be
"お前と俺はそうなる運命だ"
that's right, I love you
"その通り、愛してるぜ"
Can't you see
"分からないのかい"
whatever partner
"パートナーなどどうでもいい"
you do choose you have the ability to marry
"お前は結婚する才能を選んだってことだ"
6, 7, 8
"6,7,8"
I'll never hurt you, you know
"傷つけないよ、分かるだろ"
Husbands love their wives
"夫は彼らの妻を愛する"
Yeah, love the woman
"ああ、女を愛するのさ"

 

Part of me is here with you
"俺の一部はあんたと共にある"
One life, where my heart beats for you
"一度の人生、あなたにときめく時間さ"
Well, here we are again
"なるほど、また始まるってわけだ"
Here's a couple, tree...treacherous
"ここにカップルがいる、トゥリー(親切)...トゥレチャレス(不誠実)だ"
I'm impatient in relationships in and love
"俺は人間関係と愛とにイライラしてる"
When will you see
"いつ分かるんだ"
quand allez-vous me voir!
"いつ分かるんだ!(フランス語)"

 


[Hook]
Tell me what it is
それが何なのか教えて
Gee Whiz
"素晴らしいもの"
I don't think I know
わたしが知ってると思わないわ

 


[Verse 2]
Bird girl sorry I'm too sleepy to make
小鳥ちゃんすまない、眠くてたまらないよ
But the sounds of my dreams always keep me awake
でも夢の音がいつも目を冴えさせ続けるんだ
Don't wanna scare the birds away so I speak soft
女の子が逃げるのを恐れたくないから優しくしゃべるよ
Memories like the shows of Vanessa Beecroft
ヴァネッサ・ビークロフトのショウ(超自然主義な裸体の展覧)みたいな思い出さ

 

Her bedroom philosophies are so perplexing
彼女の寝室哲学はとても得体が知れない
But I think these two wooden legs are so sexy
でも思うにこの2本の木の義足はすごいセクシー
Cries of sadness, spectacular
悲嘆の叫び、目を見張るほどに
You be Rossy de Palma and I'll be your Dracula
お前はロッシ・デ・パルマ(超自然主義の女優)で俺はお前のドラキュラってとこだ

 

Fist is of agony decorate the last room
拳は部屋の去り際を飾る苦痛だ
Shoes by the door on the floor is your costume
ドアのそばで床に置かれた靴はお前の衣装
Open the trunk with the car key, the odd way
車のカギでトランクを開ける、変な方法
Love songs call me the marquis de sade
ラブソングは俺をマルキ・ド・サド(暴力的/超自然的ポルノ小説家)と呼ぶぜ

 

Lord of the files, you lost me I wonder how
事件簿の監督、どう俺を見失うのかって不思議だよ
Midnight meet me at the entrance for the underground
地下への入り口で真夜中が俺に出会う
So many questions but I'm afraid to ask
数多の疑問、しかし尋問を恐れてる
So I whisper them to apollinaire by Picasso
だから俺はピカソの『アポリネール』(超自然主義の名付け親)にそれらを囁くのさ

 

I touch all the flowers and break the chain
すべての花に触れ、鎖を破る
I wish I could fly but I'd rather take the train
空が飛べたらと願うがむしろ電車に乗りたい
And it just so happens I'm selling my psyche
それでたまたま、俺はを売り払ったんだ
If you like love you'll love this
愛を好むならお前はコイツを愛すだろう

 


[Outro]
You wouldn't tell me what it was
それが何だったのか教えないでしょうね
Because
だって
I don't think you know
あなたが知ってると思わないもの

 

 

 - - - - - - - 

 

 いかがでしたか?
 どことなく変な感じがすると思います。1バース目では忍び入った家で女に恋に落ちるように聞こえて、2バース目ではトランクに殺した女を隠す殺人犯のようにも聞こえます。そのまま女を電車で運んでスリルを感じたい変態野郎、みたいな...

 しかし勘のいい人は気づくでしょう、この曲がやっているのはまさにラップを使った"完全犯罪"ということを。

 

 どういうことかというと...この曲は女を犯すという表のテーマの裏で、ルーブル美術館の義足を盗むという行為を描写しているのです。

 まず4小節目"カーテンが割れ窓を覆っているか確信が持てない"。これはそのまま侵入をイメージできるかと思います。飛んで9,10小節目"俺は自己に狼の姿を見る/四つん這いに伏して怯えている"も、背を低くしてバレてやしないかを気にしてるのが分かりますね。ここまででは入ったのが女の家か、あるいは美術館なのかわかりません。

 ですが5小節目の"炎症を起こしている"、11,12小節目の"不均一な色彩とハエの羽音の反響/顎骨のコレクションに接続(意識)を失っていた"は地下水道の不衛生な環境を想起させないでしょうか?

 

 パリというのは地下に途方もなく巨大な地下水道が広がっており、全長で2100キロもの長さを誇ります。パリの主要施設にもれなく接続されており、『レ・ミゼラブル』や『オペラ座の怪人』などでもその様子が(疑似的に)見て取れるんですが、Buck 65はそこを伝って美術館へと侵入した、ということなんですね。

 巻き戻って7小節目の"ゆっくり踊って"も、女性を誘っての社交ダンスのように思えつつも、現行犯逮捕やマグショットのことを意味するようにも聞こえます。10代の頃に逮捕歴がある、というような。

 

 続く2番目では4小節ごとにシュルレアリスム/超現実主義の影響下にあるアーティストのネームドロップを繰り返すんですが、ここでも猟奇殺人といった単純なことでなく非現実的な行為であることを強調しております。各所ではさまれる"眠い"という表現も夢の中の超現実さを意味してのことなんでしょう。

 6小節目、"でも思うにこの2本の木の足はすごいセクシーだ"で彼は目当ての品(木製の義足)を発見、10小節目、"ドアのそばで床に置かれた靴はお前の衣装だ"はその義足に履かせる別の展示物といった所でしょうか。11小節目の”トランク(Trunk)”は水道管という意味もあるらしいので、それを開く=マンホールの入り口、ということで、14小節目の"地下"に意味が通じるはずです。

 

 まだ信じられないでしょうか?では最後に1バース目の13,14小節目に戻ってみましょう。ここで彼は"リンゴとオレンジ(完全な別物)、どちらか選べ/俺は自殺の多い橋にグラフィティを執筆する"と言っていますね。これは唐突に挟まれたストーリーと関係ないラインなのですが...

 この"リンゴとオレンジ"というのがミソなんですね。かっこで付いてるように"Apples and oranges"というのは「完全な別物」という意味の慣用句なんですが、ここではもう一つの意味が取れないでしょうか? その果物の色、赤と黄色......つまり、『アウトと危険信号』です。

 

 これによって続く行"俺は自殺の多い橋にグラフィティを執筆する"の意味が強調されます。つまり『完全な別物のストーリーがあり、バレればアウトだが、バレなきゃ危険なだけでセーフ』ということ。そう考えると1バース目の厚化粧の女は曲そのものの厚塗りを思わせますし、そして最後のHookに戻ってみれば、Buck 65宛てでなくこちらに挑戦するように歌われているように聞こえてこないでしょうか? さて、これらを楽曲全体の枠組みに当てはめると...

 

 Buck 65からの「お前らはこの完全犯罪(曲の裏のストーリー)に気づいたか?」というメッセージが浮かび上がる、まさに「Gee Whiz!(なんてことだ!)」というわけなんですね!

 いや~~、言葉遊びって色々ありますけど、こんなに用意周到に張り巡らせられるものなんですね。恐れ入りました。

 

 というわけでBuck 65の"Gee Whiz"でした。

 最後にひとつだけ──Buck 65、現行犯逮捕だ!