韻とアイデアほか

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【翻訳練習】Tonedeff - My Lady

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Tonedeff - My Lady

 気で編まれた技巧も極めれば狂気になる、ということをこの方は如実に証明しています。

 

 Wikipediaによると(本当に申し訳ないが、自分は彼のことを何も知らない)TonedeffはバトルMCとして初期のキャリアを積み、CommonやRoyce da 5'9のオープニングアクトを務めた経験などがあるらしいのですが...

 やはり一番彼を有名にしているのはHIPHOPグループCunninlynguistsの楽曲群で見せた名バースの数々でしょう。01年『Will Rap for Food』の"616 Rewind"、03年『SouthernUnderground』の"Love Ain't"ではいずれも強烈な先陣を切り、06年『A Piece of Strange』の"The Gates"での罪人の演じぶり(そしてリリック)は堂に入ってて圧倒されるし、客演曲で一番新しい14年の"Urutora Kaiju"(Ultraではない)では全く衰えていない高速ラップを披露しとりますね。

 しかも今知ったんですけど、彼らCunninlynguistsの中期までのリリースを支えたレーベル"QN5"の創設者もこの方、Tonedeff氏だったんですね。ラップも歌もやってさらにレーベル運営とは恐れ入るばかりです。

 

 そんな彼がCunninlynguistsのビートを担うKnoとタッグを組んだ時期があったらしく、 "Chico & The Man"という名義でアルバムリリースを予定していたそうです。結局ふたつの曲を残して計画は座礁してしまうのですが、今回紹介するのはその片方である"My Lady"になります。

 

 Tonedeffはとにかく練られたライムスキームを、何の苦もなく、それどころか可能性、自由を拡張するかのようなフローでビートに織り込んでいきます。圧巻、という感じで、文字を詰めているにも関わらずひとつも無理がない。

 個人的な話になるのですが、自分がマルチライムというものの存在をにわかに感じ取ったのは彼の"No Hope"とDirty Dikeの"Pork Pie"によるところが大きく、この2つの圧倒的な押韻とフローを前に「もしかして日本と海外ではまったく違うゲームをやってるんじゃないか...?」と疑念を抱いたのがそのきっかけでした(ちなみに前者で歌われる故人"Dirty D"はもちろん後者のDikeのことではない笑)。

 それに加えてGenaktion氏のブログを手掛かりに、よりマルチライムの理解を深めていくことになるのですが~~そんな筆者の話はともかく、本筋に戻りましょう。

 

 Tonedeffのフロウの軽快さ、ビートをマス目でなく波のように乗りこなす技術の秘密はその符割りにあります。

 聴いてて分かる通り、かれは4×4の16ビートでなく6連符の4拍、24ビートで解釈した上でラップしております。この源流はEminem...ではなくMasta Ace(この曲の1番手を聴けばわかる)なのですが、まあそれはともかくとして、基本はこの上に敷かれております。3連符の中間一音節を空けてスイングしてるようにラップしてますよね。イーハトーブ高野豆腐、みたいな感じで(例えがクソですまない)。

 

 それを踏まえたうえでなんですが、この曲で彼は、驚異的なことにマルチライムによって4,8ビートを刻んでいるのです。

 どういうことかというと、つまり押韻Aで表拍を、押韻Bで裏拍のリズムを叩いているんですね。あるいはその逆でAで裏、Bで表という具合に。とか言ってもさっぱりだと思うので具体例を挙げましょう(曲を聴いた後にでも見返してください)。

 まず1バース目6~7小節目"That I’m alive in lieu of you/And in the silence of your tomb/I hear your cries as you’re consumed"。 ここでは"alive in,silence,cries as"で4ビートの偶数拍を、"you,tomb,consumed"で奇数拍を打っています。

 次に1バース目10~11小節目"The constant bass is soothe in tune/I drew from you like still-lights/Was still born with room to move"。 この場合だと韻のパターンはひとつですが、"soothe,tune,drew,you,born,room,move"の音で8ビートを明確に捉えているのが分かるでしょう。8ビートで首を振って乗ってみるとわかりやすいです。

 

 しかし本番は2バース目からで、3,4小節目の"Like a phoenix rising, even I could be surprised if we entwine/I feel the climate reach its highest peeks when she’s besides me"。 最初のLikeの韻が表拍、"phoe"の韻を裏拍として、完全な8ビートを刻んでいます。キチガイ。そして意味もしっかり通っているからなおのこと恐ろしい。

 続く6~7小節目でも"Typically we aspire to dream and climb the steepest heights that we can find/And better, redefine the cheapened lives we seek and find"という具合。「"we aspire","dream and climb","steepest height","we can find","redefine","cheapened lives","seek and find"」のマルチライムで8ビートが成立しています...

 こんな感じでその後も曲は続いていくんですが、こういった『単純なリズムの心地よさを追求する』という面で、この曲はマルチライムの可能性を示してるんではないでしょうか。といっても神業、妄執としかいいようがないので、そうそう真似できるものではないですが...

 

 マルチライムって大半をバトルライムやパンチライン狙いのものが占めると思うんですが、この曲は内容も目を見張るものがあります。詳細は伏せますが、起承転結があり、脚本術の王道を行くような話になっていて...単純に内容に圧倒されると同時に、えっ技巧と内容って両立できるもんなの?と二重に唖然とさせられます。

 

 こんだけ恐ろしい才能はめったにお目にかかれないんですが、日本だとあまり有名ではないみたいで...もっとスポットライトの当たるべきアーティストのひとりなんじゃないかと不思議になりますね。駄文失礼。My Lady、どうぞ。

 


[hook]
My lady, my lady, my lady
俺の女、俺の女、俺の女よ
Uh huh huh huh...
ああ、ああ、ああ...
Are you gone?
あなたは去ったのか?

 

My lady...
俺の女は...

 


[Verse1]
So regal, beautiful
とても堂々として、美しい
Too bad I’ll never see the funeral
葬儀を見れないのが残念でならない
And even through the doom and gloom
それから破滅や陰に向かう中でさえ
As soon as the moon can be viewed in full
そのすべて露わになるとすぐ
I saw a star in the heavens; I knew it was you
俺は天国に星を見た; あなたと分かっていた

 

My anxiety is through the roof
俺の不安は屋根を突き抜ける
Can’t deny the irrefutable truth
反論できない真実に抗えない
That I’m alive in lieu of you
俺があなたの代わりに生きていることだ
And in the silence of your tomb
あなたの墓の静寂の中で
I hear your cries as you’re consumed
疲れ切ったように泣く声が聞こえる
Your spirit ride, illuming under the twenty thousand hues of blue
あなたの魂が浮揚して、二万もの青色をまとって輝き
Fade out
消えていく

 

...

 

Zoom in
拡大
I felt your heart as I grew in your womb
胎内で育ったみたいにあなたの心を感じた
The constant bass is soothe in tune
安定した低音が調べに心地いい
I drew from you like still-lights
俺は穏やかな光のようにあなたから抜け出た
Was still born with room to move
部屋に余白があるうちに生まれたんだ
I’d use in pursuit of my roots
ルーツを辿るためだったのかもしれない
I would later be groomed to lose
後に負けるよう仕向けられたのかも

 

Last June I tattooed this date in numerals under my chin
去年の6月、俺は顎の下にこの日の数字を入れ墨した
The last place ever touched by your skin
あなたが最後に肌で触れた場所だ
'Cause something within me loves to pretend that you’re my mother again
俺の中の何か母の再来演じたがるからさ
Though I barely remember you tucking me in
なのにあなたが俺をしまっていたことを殆ど覚えていない
There’s a constant nagging
ここには変わらず自責がある

 

My subconscious acting up
俺の潜在意識が暴れている
Thoughts that’s drawn from the past
過去から決着のつかない考え
Constant racking of pots and pans
鍋とパン積み重ね続け
Up in the kitchen cooking
台所料理をしながら
Mom and dad arguing again
母と父がまた口論している
Saw your chance, so I guess you took it
機会があったからあなたはそれを行使したのだろう

 

You had the heart to match the strongest hands that God could grant a woman
神が女性に与えうる一番丈夫な手、それに値する心をあなたは持っていた
Carried the term, but never saw the man your son is
学期をひとつ過ごしたが、あなたの息子の夫をついに見ることはなかった
And sometimes I can’t confront it
そして時々、俺はそれに向き合うことができない
I’m asking what I’d give to be you
あなたになるため何をすべきか自問する
But as dawn advances I bid you adieu
だが夜が更けたとたん俺はあなたを諦めるんだ
My──
俺の──

 


[bridge]
I know you can still hear
まだ聞こえると知ってるよ
You'd, you'd be proud me
あな、あなたは俺を誇りに思うだろう
I’ve done a lot
俺は多くを成したよ
I met this beautiful, beautiful woman
この美しい、美しい女性に会ったんだ
She reminds me of you
彼女はあなたを思い起こさせる


[hook]
My lady...
俺の女は...

 


[Verse2]
So radiant, vibrant
とても絢爛として力強い
Hazel tint in her eyes and the way that her skin shines is
──彼女の瞳の赤褐色肌の輝くさまは
Like a phoenix rising, even I could be surprised if we entwine
まるで不死鳥の飛翔だ、絡み合った時でさえ俺は驚くことができた
I feel the climate reach its highest peeks when she’s besides me
彼女がそばにいる気候が最高潮に達すると感じるよ

 

But we got deeper ties than physical needs, desires
だが俺たちは肉欲願望よりも深く繋がっていた
Typically we aspire to dream and climb the steepest heights that we can find
例によってや、発見しえる最も険しい高みを登ることを希求していた
And better, redefine the cheapened lives we seek and find
もっと言えば、探し出した質を下げた生活を再定義することを
And there’s a reason to bind together
そしてここに、交わる理由がある

 

Though sometimes I tell some teeny lies to feed her pride and sleep between her thighs
とはいえ、たまに彼女の誇りを満たし、太腿の間に眠るため俺は小さな嘘をつく
My peace of mind is reached if I can keep a smile on
俺の心の平穏微笑んでいられるまでに至った
If the seas are wild then she’s an island
海が荒れているなら彼女は島だ
Complete with whitened beach to greet the tide in
潮の満ち引きに合わせ白くなったビーチを備えている
Or retreat to hiding where you can flee to dryness
それに引いて隠れるために避難できる乾燥地帯も

 

A peaceful night beneath the sky so we can speak in private
空の下の静かな夜、そう俺たちは親密に会話できる
On the water for an easy ride
水の上での気楽な旅
Nobody’s speaking either
お互いどちらへも話しかけない
She reminds me of you in some ways
彼女はいくつかの面であなたを思い起こさせる
It’s like they redesigned her
まるで彼らが彼女を再設計したみたいだ
Flinging rocks off the eastern side to watch ‘em sink in silence
岩(月)東側から投げ出され静寂に沈むのを見つめ──

 

I take a knee for Her Highness
俺は彼女の高位さに膝をつく
Her mere presence a gift to me
彼女の無二の存在が俺への贈り物
I kiss a ring of diamonds
俺はダイヤの指輪にキスする
Take pride in the queen my bride is
花嫁の王妃を誇りに思うよ
Her Amphitrite to my King Poseidon
彼女のアンフィトリテ(海の女神)を俺のポセイドン王
And she’s decided in her sneaky slyness she’d conceive a titan
そして彼女はその姑息なずる賢さタイタン族(子供)を宿すことを決意した

 

I’m uneasy, I can feel the heightened fear inside
俺は心配だ、心で恐怖が高められたのが感じられる
As tears arrive, her fingers guide me
涙が溢れてくると、彼女の指が俺を導いた
to this breathing child that’s lying beneath her nighty
──彼女の寝間着の下で息をする子供のもとへ

 

She don’t have the slightest idea what tonight is
彼女は今夜が何を意味するのか見当もつかない
I hear the singing sirens
俺はセイレーン(胎児)が歌うのを聞いて
I bid her adieu as she and I collide as my──
彼女に別れを告げる、相性が悪いみたいに、俺の──

 


[hook]
My lady, my lady, my lady
俺の母、俺の母、俺の母と同じように
Uh huh huh huh...
ああ、ああ、ああ...
Are you gone?
あなたは去ったのか?