韻とアイデアほか

7割は合ってる / 誤訳の指摘は24時間お待ちしとります

【翻訳練習】Blueprint - Ten Paces

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Blueprint - Ten Paces

 ※22/03/31 クソ寒い解説の書き出しを削除しました。

 

 讐を果たしましょう。ってなわけでEPラスト、"Ten Paces"(10歩)。この10歩というのは、ピストル決闘で戦士二人が背中を合わせて進む歩数のことですね。曲の終盤においては他の事も意味していそうですが...。

 

 ヒントのようにまばらな場面が描かれた本作ですが、それらからの推理が求められる瞬間がラストにやってまいります。このアルバム、なんと投げっぱなしジャーマン...つまりクリフハンガーで締めくくられてしまうんですよ。

 

 様々な解釈ができるのでこれと断定はしませんが、こういう幾つもの含みをもたせる表現はやはり後味を複雑にしますよね。思わず舌鼓を打ちまくってじっくり堪能したくなります。海外ドラマさながら、真相はシーズン2へ持ち越しとなります。

 ...次回作? そんなものはねえ!(核爆)

 

 

 さて最後に、このブログ恒例の技術論に移りましょう(アルバムの内容と無関係なので、興味ない方は飛ばしてください)。

 

 このアルバムでは主に1人称による情景描写を中心として話が進んでいくんですが、いったいどうやってこういうリリックで押韻してるのかと不思議になります。

 ストーリーを意識するほどライムがおろそかになるし、無理に韻をねじ込めば...いわゆる"韻に踏まれてる"状態になって、話に脈絡を付けられないんじゃないかと。

 

 で考えたんですけど、もしかしてモノや目的語の名前から韻を広げていくことで、映像にアクションを自在に作り出すことができるんじゃないでしょうか。ちょっと説明が長くなるんですが、どういうことかというと...

 

 例えば2曲目でこんなリリックが出てきます。

Seen her legs hanging out from behind the dumpster
ゴミ箱の後ろから彼女の足が垂れてるのが見える

 韻を踏んでいるのはゴミ箱(dumpster)という単語ですよね。ではこの7曲目で登場する次のラインはどうでしょう。

Second shot blow a hole right through that old dumpster
2発目が古いゴミ箱にまっすぐ風穴を開ける

 

 つまり何が言いたいかというと、同じゴミ箱という単語で韻を踏んでも、そこに至るまでの文章で情景やアクションを変えられるということです。このEP、やたらとゴミ箱が頻出するんで嫌でも意識してしまうんですが、そのせいで、ふとこういうことが言えるんじゃないかと思い至りましたね。

 

 ちょっと話をずらしまして。日本の思想家に吉本隆明という方がいるんですが、この方が著作『言語にとって美とはなにか』という本で"指示表出自己表出"という概念を提唱しているんですよ。これはどういうことかというと、「言葉の品詞によって、主観的な意識客観的な意味を伝えるパーセンテージが違う」ということを言ってるんですね。

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 著作内で行われる膨大な検証は省くとして...このグラフはその理論を簡単にあらわしたもので、感動詞自己表出性(主観的な意識表現)が高く、指示表出性が低い。名詞のばあいだと指示表出性(客観的な意味表現)が高く、自己表出性に乏しいことを示しています。

 

 で話を戻すんですが、件のゴミ箱はモノの名前、つまり名詞なので、自己表出がほとんどない、つまり、その単語ひとつだと何もない空間にゴミ箱という存在だけがある(という意味)だけで、その表現が示す意図が無いわけです。ちょっと3DCGを作る要領でイメージしてみてください。

 

 で、あなたはこのゴミ箱という物体に対して、好きに自己表出(主観的な意識)を加えることができます。例えば動詞なら「ゴミ箱に隠れる」でもいいし、「ゴミ箱を破壊する」、「ゴミ箱に捨てる」でもいいわけです。

 形容詞なら「古い/新しいゴミ箱」でしょうし、副詞なら「まるで/なんてゴミ箱」という風に。

 

 こんな具合ですよ。ほら、やはり冒頭で言ったように、モノや目的語を起点に韻を踏めば、連想で自在にアクションを付け足せると思いませんか?

 あらゆる物体が銃弾でぶっ飛ばす対象になるでしょうし、身体ほど大きな物体があれば何であれ隠れる壁として配置できるでしょう。ただ車窓をながれる背景として描写できるでしょうし、「まるで〇〇」のような比喩表現として用いることもできますよね。

 例えば描きたいシーンが銃撃戦で、シチュエーションは学校、そこから連想して思いつく単語が"教壇"であれば...

どうやら無駄みたいだ商談や草

防弾に使教壇の裏

装弾を済ま

 稚拙で申し訳ないですが。あるいはスイカであれば...

腰から従者を出す

イカがSplash

悔いたか猿次は当たる

ブチ込む追加で2発

 しかしもし、ここであなたがギャングスタ趣味をためらうのであれば...

聞こえはギャングスタラップ

俺はただしてるだけだ改札でStuck

 このような感じです。スイカじゃなくてSuicaでしたーつってね。

 

 ただし。日本語でこのような機能的押韻をつむぐには、①倒置法を使う②マルチライムで他の品詞ごと踏むかの2択に迫られます。なぜかというと日本語はSOV言語、つまり名詞(目的語)より動詞(述語)が後に来てしまう言語だからです。基本的に名詞(目的語)が最後にくる英語とは対照的。

 

 上の例で言えば"済ます"、"出す"、"Splash"、"当たる"は動詞ですよね。こういう単語だけを起点にしてしまうと、発想や加えられる展開が著しく制限されてしまいます。理由は? もうお分かりですよね。上記の自己表出指示表出です。

 

 動詞による押韻自己表出性を含むため、特に脈絡や時間軸のあるストーリーを描写するうえで不利になりがちなんですよね。つまり"母音が同じ"という制限下、しかもアクションが先に既定されてしまうせいで、連想が難しいし、自由度が低いうえ、あるていど様式化されてしまうのです。

 

 日本語ラップに馴染みのあるリスナーの方なら、「~~まで」「~~だけ」「~~ため」という押韻パターンを飽きるほど耳にしたことがあるかと思います。例えば「墓に骨を埋めるまで/俺はペンを走らせるだけ/すべては自分に意味を見出すため」...とかそんな具合で。

 

 これらはぜんぶ副助詞という品詞で、日本語だと割と自然に語尾にもっていきやすいんですよね。そして分類では助詞に含まれるため自己表出性(つまり意識の表現力)が高く、なんか聴いててラッパー本人の魂のようなものを感じさせやすいわけですよ。そうじゃないですか?

 

 ゆえに安易に使われ過ぎるし、様式化されてしまってるんですよね。自由度が低く、新規性に乏しい。再び話を戻しますが、こういったことが動詞などを使ったストーリーテリングでも(なんなら普通のラップでも)起きてしまうわけです。だから倒置法やマルチライムを使い、名詞を含めて韻をつむいでいかなければならないんですね。

 

 

 

 話が脱線しすぎましたね。技術解説については以上です。

 それでは脚韻してる語句を踏まえたうえで、Blueprintの『Vigilante Genesis』、最後までお楽しみください。駄文と誤訳にお付き合いいただき、ありがとうございました。Tachibuanaでした~~!

 

 

 

 

 

[Verse]
Loaded burner, blade in a calf holster
満ちた噴射機、子牛のホルスターに刃物
Walkie talkie to communicate with the chauffeur
運転手と連絡するためのトランシーバー
Map of the block to escape when it’s over
完了後に逃げる用の地区のマップ
Looking like a killer, feeling like a soldier
見た目は殺し屋、気分は兵士のよう

 

The smell of perfume from having Tasha in my bed
タシャとベッドを共にした時の香水の匂い
Sticks to my fingertips and still lingers in the air
指先に付着して、まだ宙に残っている
She told me about a hot spot named The Dragon’s Lair
彼女は"ドラゴンの隠れ家"という地帯を教えてくれた
Off a backstreet up out by the state fair
遊園地の側の裏通りにあるという

 

She guarantee me every Sunday they be there
必ず毎週日曜奴らはそこにいるそうだ
Playing pool and sniffing coke up until the AM
朝になるまでビリヤードしたり、コカインを嗅いだりしてる
She met 'em both back when she used to bartend
バーテンダーだった頃、彼女は2人に会った事がある
But said they'd be hard to touch cause the gang that they roll with
だがギャングが取り巻いて、奴らに接触するのは困難なんだと

 

No fear, ice is flowing through my veins
恐れはない、氷が血管に流れてる
Surveyed the spot last night and it’s all arranged
昨夜その場所を調査し、すべて手配した
I know where they hang plus where they lay their heads
奴らの頭部をどこに吊るし、寝かすかも分かってる
They can confess to what they did or they can end up dead
自分の仕業を認めるか、死んじまうか

 


Had to drop me off three blocks from the spot
その地帯から3ブロック先で降りる必要があった
Then park across the street in an open lot
その後、向かいの空き地に駐車する
Put on my gas mask and took the alley just to creep up
ガスマスクをつけて、小道から忍び寄る
Black trench coat looking like the grim reaper
黒いトレンチコートが死神みたいに見えるぜ

 

Black assassin waiting for 'em after dark 
黒いアサシンが日没を待ち構える
Inside of a dumpster, twenty feet from where they park
ゴミ箱の中で、奴らの駐車場から20フィート
Quiet as a church mouse, silent as a beating heart
教会の鼠くらい黙り、鼓動する心臓くらい静か
Then the fat one stumbled out with a fat blunt to spark
するとデブが太いブラント燃やしによろめき出てきた

 

I knew the owner didn’t let them smoke in the bar
オーナーが酒場で喫煙させないのは知ってたさ
So they usually walked out to the dumpster way behind their cars
だから奴らはいつも車後ろのゴミ箱まで歩いていくんだ
He took a couple pulls and blasted off to outer space
奴が2回ほど吸って宇宙へぶっ飛んだトコで
Pulled out my pepper spray and caught him right in his face
唐辛子スプレーを取り出し、顔面めがけ直撃させる

 

Hopped out, he started screaming, punched him in his jaw
飛びあがり叫び出したので、顎を殴りつける
The force from the punch made him bite down on his tongue
パンチの勢いで舌を噛んじまったらしい
"How it feel, fat boy? Now you all alone!
"気分はどうだ、デブ? ひとりぼっちじゃねえか!
Remember me?" pushed him to the ground and kicked his balls
を覚えてるかい?" 地面に押し倒し、タマを蹴り飛ばした

 


He tearing up like "oh shit, I thought you was dead!"
奴が泣き言ほざく"マジかよ死んだと思ってたぞ!"
"Naw man you and your mans killed the wrong kid
"いいや、お前らが殺したのは違うガキだよ
I could kill you now for the sake of revenge
復讐のため、今すぐお前をぶっ殺すことだってできる
Or you can come with me and tell the cops what you did"
あるいは一緒に来て、やったことサツに話すかだ"

 

Heard footsteps, turned around, they’re coming fast
足音がして振り向くと、奴らがすぐにやってきた
Two white t-shirts, two big dudes with red rags
白いTシャツ2体、赤いボロを着た巨体が2人
Side-stepped the first one but slipped on some broken glass
1人目を躱したが、割れガラスで滑っちまった
The second one caught me hard enough that it cracked my mask
2人目にマスクがヒビ入るほどぶん殴られる

 

Fell back a little dazed but knew he broke his hand
ちょいと唖としたが、手を骨折したのは分かってた
Acted hurt but pepper sprayed him when he circled in
怪我した様子だが、旋回したとこで唐辛子スプレーを喰らわす
First cat back now, he’s swinging mad wild
1人目が戻ってきたアホほど雑な殴り
Duck stuck my knife into his stomach, made him take a bow
カモがナイフを腹に喰らい固まる一礼させるぜ

 

Three dudes laid down, back to the fat money
3人の男がぶっ倒れたので、デブの友人に戻ろう
He spit in my face he say "fuck you, I ain’t doing nothing!"
奴がツラにツバ吐いて言う"クソが、何もしてねえぞ!"
I put my blade to his neck and started slowly cutting
刃を首に当て、ゆっくりと切り始めると
Heard a shotgun pump then I heard it start dumping
ショットガンのポンプ音のあと、ぶっ放し始めるのが聞こえた

 


Moved just in time, the shot hit the fat dude
間一髪で動くと、タマはデブに命中した
Blew the face right off the skull it was attached to
顔がくっついてた頭蓋骨から吹き飛ばされる
He pumped again I could see the short motherfucker
奴が再度リロードする、チビのクソッたれが見えた
Second shot blow a hole right through that old dumpster
2発目古いゴミ箱にまっすぐ風穴を開ける

 

Can’t hide much longer gotta make a break
もう隠れようがない、駆けだすしかねえ
Buck shots from a third shot almost hit my face
3発目の散弾はもう少しで顔に当たるとこだった
I saw lights from a car pulling in the strip
路肩に止まる車のライトが見えた
Thinking it’s a cop car, I take it as my chance to dip
こいつはパトカーじゃないか、出ていくチャンスと受け取るぜ

 

Fourth shot hit the window of somebody's whip
4発目が誰かの車窓に命中し
I’m hauling ass fast as possible until I slip
俺はすっ転ぶまで全力でケツを運ぶ
He got the drop on me, but I still pull my nine
奴がのしかかる、だがまだ握ってるぜ

 

(BLAM!)
(バン!)

 

His body drop but I swear that shot wasn’t mine!
ヤツが倒れるが誓う――このタマは俺のじゃねえ