韻とアイデアほか

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【研究メモ】日本語ラップのストーリーテリングと構造問題:㊥音節との闘い

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日本語ラップと音節省略の試み

 

 び登場です。前回は日本語ラップストーリーテリングをどう落とし込むかをざっと振り返りつつ、まだ消化できてなさそうな課題を見つけていきました。そして見えてきたのが...

 

 ①:主語と時制が抜けていること

 ②:①を達成すると音節が多すぎること

 

 この2つでしたね。つーわけで今回は、日本語ラップでどうやって音節省略が試みられてきたかを振り返りつつ、新たなヒントを探っていきたいと思います。ストーリーテリング関係なくなりますけど気にしないでください。

 そして"探っていきたい"という言葉通り、コレ書いてる現時点ではマジで何もわかってなく、書きながら適当ほざくので使えるトコかい摘んで読んでいく感じでお願いシャス。というか前回の記事もそんな感じなので...ライター業はフリースタイルよ(放言)。

 

 前回の宣言通り10年代から紹介したいとこなんですが、そこに至るまでの流れを巡ってかないと何とも説明できそうにないので、90年代、「んなこたとっくに知っとるわ」みたいなトコから見ていきましょう。

 

 

1.キングギドラのおふたりの例

 

 最初の例は...やっぱり原点たるこの方達がふさわしいでしょう。キングギドラの1stアルバム『空からの力』の5曲目"コードナンバー0117"から、注目したい箇所をピックアップしていきます。

 

 

 

  1拍 2拍 3拍 4拍
0小節 -/-/-/- -/-/-/- -/-/-/- -/-//
1小節 D/J/オ/ア シ/ス/の/は じ/き/出/す Dope/-/Beat/-
2小節 イ/メ/ー/ジ ど/お/り/の -/メ/イ/ジ ど/お/り/を
3小節 あ/ば/れん/ リ/リッ/ク/で さ/き/に/い く/-/-/-
4小節 ほ/ね/つ/き カ/ル/ビ/の や/き/に/く ちょ/う/お/き
5小節 に/い/り/- YO!/-/-/- ケ/ー/ダ/ブ シャ/イ/ン/に
6小節 む/や/み/に ち/か/づい/ちゃ す/っ/げ/え あ/ぶ/な/い

 

 K Dub Shine氏の1バース目、10小節目~16小節目から。冗長と言われがちなケーダブ氏のフローではありますが、この最初期の曲の譜割り、特に太い赤字の部分を見てください。

 

 彼はここで母音や「」、「」など音節(シラブル)をともなわなくていい音を短く切って、16ビートにピッタリはまるように高速で発音しています。こういったリコーダーのタンギングのような発声法のことを海外でチョップ、ないしはチョッピングと呼んだりします。

 

 とは言っても、トラップ世代の人には当たり前の技術ですよね。これはUSヒップホップの80年代末くらいには基本的なスキルのひとつだったんですが、日本で90年代的ラップを志しているMCは未だにコレを意識できてない人が多いです。今更な情報ですが、まあこれも音節省略の歴史のひとつってワケです。

 

 では次にZeebra氏のバースを見ていきましょう。17~20小節目からです。

 

  1拍 2拍 3拍 4拍
0小節 -/-/-/- -/-/-/- -/-/-/- -/-/-/と
1小節 ば/さ/れっ/ぱ な/し/メ/シ ぬ/き/で/餓(死) -/-/で/も
2小節 ビ(シ)/-/バ(シ)/- あ/ら(し)/-/の よう/に/歌/詞 出(し)/-/-/バ
3小節 ラ/バ/ラ/に さ/れ/た/そ の/あ/と/に く/し/ざ(し)/-
4小節 -/そ/ん/な さい/ご/-/よ り/も/ま/だ マ(シ)/-/-/-

 

 チョップしている箇所はともかくとして、太い赤字の部分にご注目を。単語の末尾の"シ"の音を「S-H-I」ではなく「S-H」と、つまり末尾の母音「I」を省略することで、音節をひとつ減らしているのが分かると思います。

 

 これは日本特有の技法で、英語だったら単語の末尾が子音なんて普通も普通なんですが、日本語の場合そんな言葉はひとつとて無く、ゆえにこうやって母音を消すことでスピード感を向上させたりしてるわけですね。これも現行のトラップ世代には常識ですが、念のため押さえておきましょう。ここでは仮に母音省略とでも名付けますか。

 

 さて90年代といったらもう1グループ、重要な方達が居ましたね。

 

 

2.ブッダブランドのみなさんの例

 

 

 96年にご存じ『人間発電所』を発表してシーンをかっさらった4人グループ"BUDDHA BRAND"。ノリの良いフローと、バイリンガルで暗号的なリリックを書くとこに格好良さがあったわけですけども...野暮もいいとこですが、譜割りを起こして何が起きてるか見てみましょう。まずは1バース目、DEV LARGE氏の最後の8小節から。

 

  1拍 2拍 3拍 4拍
1小節

Hea/vy/waight/-

skill/-/者/O ri/gi/nal/本 -/モ/ノ/-
2小節 Ain't/no/た/だ モ/ノ/You/know -/I'm/-/ ワ/モ/ノ/Pro
3小節 fe/ssio/nal/Bu ddha/Brand/-/ク ロ/オ/ビ/段 -/ち/がい/-
4小節 み/な/も/つ ド/デ/カい/か た/い/か/い め/ん/た/い
5小節 や/ん/で/る し/じん/-/きゅ

う/きょ/く/ちょ

う/じ/ん/-
6小節 平/成/の/偉 -/人/-/King -/of/the/moun -/tain/-/-
7小節 Walk/ing/百/科 辞/典/-/い つ/も/ill/- Tripp/ing/-/-
8小節 ブ/ッ/ダ/の 化/身/-/つ  ま/り/I'm/- da/man/-/-

 

 英語はもちろん、日本語部でのチョップも自然で、ただでさえビートが格好良いのにMCとしても卓越してるのがスゴいですね。当時じゃほとんど聞けない16ビートの偶数拍ノリもしっかりこなしてて素晴らしいの一言です。

 

 まあフローはともかくとして、彼のバイリンガルを駆使したリリックですよ。引用した行の中だと"Aint no ただモノ/You know I'm ツワモノ"あたりを意識したいです。

 前回の記事から浮かび上がった日本語ラップの欠点である「時制の欠如主語の不在」、それと「音節が多すぎる問題」、それらがこの歪なバイリンガルラップによって見事に解消されてるんですね。2言語読めるという前提さえクリアすれば、いちおう、"主語述語目的語"の要件は満たしてるわけです。

 

 ちなみにDev Large氏はこのリリックの記述法をNipps氏が書いた「たった4小節のリリック」から学んだそう。原点はあのILLの代名詞たる方だったんですね。

 

 Nipps氏いわく、当時ちょっと喋れた英語とちょっと喋れた日本語を使ったら自然とこうなったらしいんですが、それが何の奇跡か、今日まで続くバイリンガルラップの礎を打ち立ててしまってるわけです。倒置法を発明したK DUB氏と並んで、現在の日本語ラップシーンは2人の天然超人によって築かれたといって過言じゃないですわな。

 

 というわけで起源であるNipps氏のバースも見てみましょう。最後の8小節から。

 

  1拍 2拍 3拍 4拍
1小節

Mic/-/もっ/た

ガ/ッ/チャ/マン -/ま/る/で ニ/ン/ジャ/-
2小節 Got/-/mo/- fla/vor/than/- ゴ/レ/ン/ジャー -/-/-/-
3小節 Dan/-/ger/- き/け/ん/だ き/い/ろ/い し/ん/ごう/-
4小節 消/え/た/い M/-/C/- Mo/ther/fuck/in' ど/う/ぞ/Bo
5小節 -/zo/-/- お/さ/き/に

-/-/ど/う

-/ぞ/-/-
6小節 Com/in'/at/a live/on/then/I な/ま/ほ/う -/-/そう/-
7小節 Fat/-/like/- Su/mo/-/Hit -/ya/wit/a ぼ(く)/-/とう/-
8小節 I/drop/-/da funk/-/like/a ふ/ゆ/ば/の の/ぐ/そ/-

 

 こちらのリリックだとよりメリットが分かりやすいですね。"Got mo flavor than ゴレンジャー"や"Comin' at a live on then I 生放送"みたいなラインは、音節的に日本語のみでは難しいですし。

 特に前者のような体言止めは、日本語だけでは構造的に絶対にできないんですよ。than(~よりも)みたいな語と倒置体言止めを日本語で同時にやる方法は、22年現在でも見つかってないですからね。

 

 英語のように末尾の目的語や修飾語でのライムを印象的にするために、その直前まで英語で記述するというのはこういう理由で合理的だったんですね。「どうぞ - 生放送 - 木刀 - 冬場の野糞」なんてライムパターンは純日本語だと難しいんじゃないでしょうか?

 

 しかも"Fat like Sumo"なら"ファットさはまるで相撲"なんて具合に、4音節から9音節と倍以上にリズムを食いますし、リズム重視の音楽としていかにこの問題がデカいかが、このリリックから逆に読み取れますよね。

 

 さてさて、これら2組のグループからリリックと音節の関係、葛藤はうかがえたと思います。本質的にアプローチのしかたは約25年を経た現在もこのままなんですが、00年代をすっとばし10年代に入ると、新たな手法が試みられることになります。

 

 

3.Low High Who?一派の発音解体

 

 SNSや安価なカメラの発達によってインディでの活動がより活発になった00年代末から10年代に、ゆっくりと姿を現した創作家Paranel主催のレーベル、Low High Who?。

 

 Vongakuや不可思議/wonderboyのようなポエトリーリーディング、雨風食堂、Daoko、Gomessを始め、比較的潮流を外れたアーティスト群を発信しつづけていた彼らですが、一方で主流に食い込んでいくような興味深いムーヴメントも見えました。YamaneKuroyagiJinmenusagiによる一連の発音解体です。

 

Anno Domini Beats feat. YAMANE, ELOQ - NMNS

 

 

暴走半島 feat. Thomas Effing - Kuroyagi 

 

 

ぐちぐち - Jinmenusagi

 

気にいらないヤツをヲチる、ハメる、褒め、持ち上げる

こっちは身を切る思いでおもんねぇ動画あげる

ぐちぐち言えないから匿名で荒らす

ファビョる呆れ顔を遠目に笑う

 

 ネット上のいくつかのインタビューいわく、Kuroyagi氏とJinmenusagi氏のフローの源流は、同レーベルのビートメイカEeMu氏にあるそうです。しかし参考となるリンクが見つからなかったので今回は割愛。

 

 英語的に発音を崩すというのは00年代にSeeda氏やBes氏がやっていたことなんですが、言っても語頭や末尾の母音を略すくらいなのでまだ聴き取れる範囲に収まっており、それをさらに押し進め形にしたのが彼らでした。

 

 その中でも特に目立ったのが、ニューカマーとして急進的な発音解体を繰り出したJinmenusagi氏でした。現行シーンの最前線のひとりとして立つまでに至った彼ですが、当時のTwitterYoutubeではとにかく「聞き取れない」の一点張り。

 そんな状況に耐えかねたのか、彼は最終的に2ndと3rdアルバムの間にリリースされた2013年のMixtape『R2BA』で、聞き取れるフローに戻すと表明することになります。

 

 

 時代は変わって、今では聞き取れないなんてさして問題視されることもなくなったわけですが、このムーヴメントには見過ごしてはいけないヒントがあると思うんですよね。

 

 それはこのブログでしつこく追及してるあくまで日本語で書くということ。Jinmenusagi氏の1stアルバム『Self Ghost』の歌詞カードをめくってみれば、上記の"ぐちぐち"がほぼ日本語で書かれてるのが確認できます。もちろん他の曲も大半がそうです。

 現代のラップに先行して、英語と調和させるためというより音節削減によるグルーブ追求を狙っていたという点で先見性がありますよね(もちろん"聞こえが良い"という前提もある)。

 

 で振り返って再度きいてみて思うんですが、「聞き取れない」とされた要因って時代以外にも法則性が無かったってのがデカいんじゃないかと思うんです。それは①省略するタイミングがランダムってのもそうなんですが、②母音の濁し方も当てはまるのかなと。

 

 例えば上記に引用した行だと"匿名で荒らす"の「ら」の母音はアだとハッキリ分かりますけど、次の行の"遠目に笑う"の「ら」はアとオの間、つまり発音記号で言うところの「ɔ」のような発音になってますよね。

 

 こういう気まぐれな母音発音の入れ替えもまた、リスナーを混乱させる一因だったのかなと思います。法則性、これは今後の日本語の省略を考える上で頭に置いておきたいですね。

 

 個人的に、こういう反省をするそもそものきっかけを作れた事など含め、この発音解体のムーヴメントが一過性の無駄な出来事だったとは思いたくないんですよね。

 実際、Sushi BoysのFarmhouse氏などはモロこの方達の影響を受けて上がっていったアーティストでしょうし。彼の"緑茶"を聴いたとき、自分の脳裏に真っ先に浮かんだのはKuroyagi氏の"お茶motherfuckin'会"だったもんですよ(彼はニート東京で「カエルからフローのヒントを得た」と言っておりますが)。

 

 ちなみにいち早くこの発音解体に取り組んだYamane氏は、現在もこのスタイルのまま音楽を作り続けております。しかもより解体の方へ突き進んで。

 

YAMANE - GOMER

 

 母音どころか子音まで崩して、もはや異界の呪詛かグロソラリアのような領域に達してしまっています。もっとも彼は敬虔なクリスチャンなようなので、後者に近づいていると解釈すれば、一貫したスタンスとは別の意味で自然な説得力あるスタイルなのかなと思ったり。

 

 

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 今回はここまで。㊤、㊥と、日本語ラップがたどってきた文章の構成法、音節の省略法を回想してまいりましたが、㊦ではそこから紐解き、新しい省略方法がないかを研究してみたいと思います...上手くいくかは筆に任せる形になってしまいますが。

 

 正直なところ、このシリーズは記事じゃなくて完全なひとり言のメモとして書こうとしてたんですよね。というのも自分は日本語ラップの歴史にあまり詳しくないですし、口語形式でこういう記事を書くと「教育してやる!」みたいな厚かましさが生じてキモいので。

 

 自分は"歴史は知っておかなきゃならない"みたいな教養主義的姿勢も好きじゃないですし、なにより文面からラップ学ぶほどクソダサいことはないだろと誰もが思ってるでしょうから、こういう記事はもうあんまり書きたくないんですよね。

 

 ただ次を考えるうえで車輪の再発明みたいなことをしてもしょうがないし、一応ブログという媒体を運営させていただいているので、このような形に落とし込んでおります。というわけで次回が最終回、というか本番ですね。一緒に音節問題に取り組んでいただけたら幸いです。Tachibuanaでした。