韻とアイデアほか

7割は合ってる / 誤訳の指摘は24時間お待ちしとります

【研究メモ/コラム】日本語ラップの真の問題点

日本語ラップはダサい、というよりは...

※ 22/05/11 取るに足らない加筆のうえ、冠詞のとこを間違えていたので訂正しました。死にたい。

 

 本来なら7月まで更新を止める予定だったんですが、色々書いておくべきだと思ったことが増えすぎるし、モヤモヤが加速してしまったのでここに書き収めることにいたしました。翻訳目当ての方には申し訳ないですが(あんな稚拙な訳が目当ての方が居るかは存じないですが)、7月までその手の記事の再開はないと思ってください。

 

 で、そのモヤモヤの第一弾としての日本語ラップ論的なアレです。記事を始めるまえにざっと概要だけ述べておきましょう。

 

 まず察しの通り、筆者は日本語ラップについてあまり良い印象を持ってないです。持ってなかったんですが、最近考えなおしてみて、日本語ラップ"全体"にはそこまでヘイトはないんだなということに気付きました。問題はアングラ/インディシーンにあると思うんですよね。

 

 

0.まずこのブログの立ち位置から

 

 本題に入る前にブログの経歴をば。

 このブログがそもそもリスナーでなくプレイヤー(つまりラッパー)向けに書かれてるというのは何回か話してきたと思うんですが、いちおう年月を経るごとに、より説得的なやり方に変えてきたつもりです。

 

 例えば初期は「○○のやり方!」的な指南や「こうすべき!」みたいな"べき論"に終始していたわけですけど(いずれも未熟かつ、専門用語に誤りがありすぎたので非公開にしました)、前者は優等生がお勉強するみたいでダサいかな~と若干感じてましたし、後者は命令してるみたいでまず効果無かったなと。

 

 Genaktion氏がろくにライミングしない日本語ラップのことを「もはや文化盗用では」とおっしゃってたんですが、逆に"べき論"みたいな教養ありきの、相手の前提(このばあい日本語のハードルとか聴衆のニーズ)を全否定して頭ごなしに言うのは植民地主義的だよなと。

 

 まあ確かにバリ島におもむいてきて「ケチャなんてみっともないことしてないで、国のために金融学を習いなさい」とか言われても「お、おう」としか言えないですよね。そこは今では反省しておりますね。

 

 ですが今回はちょっと手厳しいことも言うことにしました。できる限り言葉を選ぶつもりですが、耳が痛くなるような言説も含むやもしれません。

 

 

 さて。上記のことを反省しつつ、じゃあどうするか...みたいになってたある時、Twitterでこんな動画が流れてきたんですよね。

 

 

 これ見た時は正直ブチ切れてましたね。何が嫌だったかって、普段ライムの話になるたび「押韻主義者が~」とか言ってた日本語ラップ界隈の人たちまで喜々としてリツイートしてて、「お前ら普段あんなこと言っておいてアメリカのMCがそう言ったら納得するんか!? へえ!」みたいな気持ちだったんですよ(でお気持ちツイートもしたためました)。

 

 でしばらくして冷静になったとき、ふと「あ、じゃあ海外のラップに添える形でライムの解説すればいいじゃん」と思いまして、英語ぜんぜん分からんのに始めた翻訳練習シリーズに技術論も添えるようにしたんですよね。ライムの配置を視覚化して、嫌でも海外のライム量を認知させてやるぞという意気込みは前々からあったんですが。

 で、最初に投下したのがマルチライム、複数語韻についてでした。

 

 

 これが当時の相互フォローの人たちに割と好評だったので、味をしめてその後も続けることにしたわけです。だいたいアルバム翻訳の最後の曲とかに添えてますね。もはやライムに関係ないことまで話してますが。

 

 そんなこんなでめでたく100曲以上、アルバム10枚を翻訳したわけですが...ここで本題に戻りましょう。

 

 

1.英語圏のラップがどれだけ進んでいるか

 

 自分が話したいのは日本語ラップのインディーズ問題です。

 というのも、メインストリームがくだらないなんて話は日本に限らず世界中どこもそうなわけで、そこに技術とか硬派なことを求めるのは冷静に考えて筋違いだったんだなと(今更)気付いたんですよね。そりゃメジャーなんだから大衆に浸透するように薄めるわなと。

 で、そうなると必然的にインディーズ(アングラや中間層)に焦点が絞られるわけなんですが、まさにそこにこそ日本語ラップの問題があるんですよ。

 

 まずカタログの技術面での乏しさです。日本って個性の追求に関してはよくできてるんですよ。ギャングスタ系ならMSC周辺や舐達磨などが居ますし、オーセンティックなのならDogear RecordsやDinary Delta Force周辺、OLL KORRECT周り、ナードとかサブカル系だったら...あまり多く知らないんですけどトップハムハット狂とか野崎りこん辺りでしょうか。などなど、ラッパーとしてのキャラはそれぞれ立ってると思うんです(敬称略)。

 

 ただ曲のトピック、それを表現する技術の幅がUSとかに比べて圧倒的に狭いと思うんですよね。これはフロウの話ではなく、リリック面でです。

 偏りはありつつ、紛いなりにも100曲以上訳してきて思うのは、①とにかく日本語ラップは「一人称でどうこう言うだけ」みたいな曲が多すぎる。そして②ライムパターンがしょぼいうえ、それが災いして③語彙も少ない

 

 

 アメリカって80年代中期から末期に移る時にすでにSlick RickやKool G Rapストーリーテリング、つまり3人称など主語の入れ替え曲を通したタイムラインづくりの技術を完成させてて、後者に至っては80年代時点ですでにマルチライムに取り組んでいたわけですよ(これはGenektion氏の受け売り)。

 

 で90年代末から00年代頭にMF DOOMAesop Rockみたいな複雑な、曲を通して何通りも意味がある(いわばマルチミーニングの)リリックが出現することになります(厳密にはKool G Rapの『456』とかでその技術は試みられていたらしいですが)。

 

(翻訳の稚拙さは許してください、やる気だけはあるんです。やる気は。)

 

 10年代にはそれをRoc MarcianoやArmand HammerなどのMC達がさらに極端な(アブストラクトな)形で継承したり、メインストリームのMCがハッシュタグラップ(文末をくぎって固有名詞だけ置くライム)を多用しはじめたり...って感じの流れになってるわけです(めちゃザックリかつ浅い知識なんですが)。

 

 

 で、これって要するに技術が建設的に成長していってるんですよね。前提をふまえてスキルが発展しているし、そこに文脈がある。もはやマルチライムなんてメジャーのラッパーですら普通にこなしてるものになりましたし、メジャーとインディーの境界はあるものの、基本的にどちらでもハードルは上がり続けてるわけですよ。

 

 もっと重要なことは、おそらく日本ではこういった技術を単なるスキル自慢としてしか捉えていない(あるいはその様にしか利用できていない)のに対し、海外は技術を通すことでリリックの質量を増やしている/増えていると感じると見受けられることです。

 

 簡単に説明してみると、まずリリックには①表面的な意味がありますよね。で、そこに脚韻が加わることで②言葉選びに必然性が生まれるわけで、さらにその対句(2行の韻文)に意味が通って明瞭なメッセージや新規性があるのであれば、③韻という制限による完成美が成り立つわけです。ここまでは日本でも(一握りですが)存在するかと思います。

 

 ですが海外では前述のとおりマルチミーニングを構築することで、1度の文章で2つを意味するラインってのが既に数えきれないほど作られてるんですよ。それってつまり単純に言えば、④そのラインが流れる一定の時間内で意味の量が2倍になってるってことなわけじゃないですか。

 

 

 例えばこのUKのConfucius MCというラッパーの曲"Lanterns"で、同じくUKのアブストラクトMC、Jehst(4番手)がコロナ情勢についてラップしてるんですが...

 

We're all aspiring to a living contradiction
俺たち皆、矛盾を生きるために熱望してる 
Precog recognition for criminal conviction
犯人(ウィルス)を確信するための予知能力

 

We're in a critical condition on this blue marble
俺たちはこの地球危機的状況にある
The food sparkle
糧のきらめき
Strap the zoot, loop the sample
だぼつく服(患者衣)をしめ、試供品を繰り返そう
Set a crude example, for the next gen
ざっと見本を示すのさ、次の世代に
Collect ends, trying to cop a mansion like the X-Men's
終わりをまとめろXメンみたいなマンションを手にするつもりでさ

 

 非常にポジティブでよろしいですね。クソみたいな陰謀論抜きで、ワクチンを推奨してコロナ禍を終わらせようってわけです。いやあ、素晴らしい。

 ...ところがどっこい、それで終わらないんですね。下の5行をよく再考してみると、まったく違うメッセージが浮き出てくるのです。

 

We're in a critical condition on this blue marble
俺たちはこの青いピル批評的立場
The food sparkle
餌が燃える
Strap the zoot, loop the sample
ジョイントを巻き、サンプルをループしろ
Set a crude example, for the next gen
がさつな見せしめを設けろ、次の首領へ向け
Collect ends, trying to cop a mansion like the X-Mens
死体を集めろXメンたちみたく豪邸を奪うつもりでな

 

 やっぱり陰謀論者じゃないですか!やだー!

 

 ...とまあ彼の思想(本心がどっちかは定かではありません、念のため)はともかく、この5行の中に10行分の意味が含まれているのがお分かりいただけたと思います。そしてそれと並行しつつ、ほぼすべての単語に渡ってマルチライムを展開しているという剛腕ぶり。こんなことが、現在の英語圏のシーンでは平気で行われてるんですよ。あ、ちなみにこのJehstが気になる方は、初期代表作をアルバムごと訳してるのでよろしければぜひ(2002年なのでマルチミーニングは控えめですが)。

 

 

 最近で言えば...特にArmand HammerがAlchemistと組んだ、あの豚の生首で有名なアルバム『Haram』なんかに対して、日本の大体のリスナーは「このラップまったく首が振れないじゃないか!しかもハーコー気どりでしかない退屈なドラムレス!ゴミですね」みたいな感想を抱くと思うんですが、この現在の前提を知っていれば違った考えになるでしょうし、おのずと彼らが言うHaram(イスラム教でいう"禁忌")が「豚/警察批判」だけを指してないことは分かってくるはずです。

 じゃあリリックを出せって? えっと、他のやつが忙しくて...

 

 ここからさらに補足すると、英語圏のひとたちは⑤詩の中にタイムラインを作成(つまりストーリーテリング/コンシャスラップを問わず起承転結を作成)することで、韻に限らない「行の順番の必然性」を生み出すようなことも行ってるわけですよ。つまり安易なパンチラインラップと反して、行の前後を入れ替えたら成立しなくなるようなリリックの記述です。もちろん全てがそうではないのですが。

 

 まとめると、

 

  ①表面的な意味

  ②押韻による言葉選びの必然性

  ③制限下による完成美

  ④マルチミーニングによる意味の倍増

  ⑤詩の中のタイムライン作成

 

 これらによって、海外のMCはリリックの質量を増やし、競争原理を維持してシーンのレベルや代謝を上げていたわけです。もしそれがなかったら、おそらく安易な個性賛美に終始してクオリティの指針もなく、簡単にトラップシーンなどに追いやられていたでしょう。

 

 

 話を戻して、じゃあ日本語ラップが現在どのレベルに居るのかというと、表面的なフロウの模倣を除いたら、ほとんどのMCのリリックはまだ80年代レベルにすら到達してないんじゃないかと思うんです。

 

 マルチライムはあってもほとんどの場合がバトルライムやパンチラインラップに終始しているし、日本って「この曲は中身あるやつにしたいから韻は控えめに...」とかいって急にポエトリーリーディングみたいになるパターンが多すぎます

 Kool G RapRakimの"初期の"レベルの起承転結あるマルチライムですら、我々には珍しい表現なのです。

 

 マルチライムをこなしつつ、割と多彩なトピックを扱ってその峠を越えてたのは...K Dub Shine、O2、志人、MEGA-G、ZORN...くらいなものじゃないでしょうか。あと数名のバトルMCとか。

 

 とにかく海外は...もはや日本とは次元の違う領域でリリックを推敲してるんです。我々が「まだ"日本語じゃラップできない"とか言ってんのか」みたくあぐらをかき、ほとんどのMCが"「できる」以上のことをやってない"うちにですよ。

 

 つまり日本語ラップがダサいかどうかは別として、絶対評価でなく相対評価で海外と並列したとき、日本のインディラップは明らかにレベルが低いのです。

 

 

2.コミュニティの方にこそ問題がある

 

 それで...カタログの技術面での乏しさを説明したとこで、なんでこんな風になったかを考えていくと、それはラッパー以上にコミュニティにやる気がなかったからなんじゃないかと。

 

 例えば00年代の日本語ラップシーンとかを振り返ってみて、USのラップに対する考え方でたびたび見かけたのが「リリシストといえばNas」という言葉。本当にこれはよく見かけました。よね?

 

 なんでこんな考え方が決まり文句になったのかって、単純に日本に翻訳されたヒップホップの絶対数が死ぬほど少なかったからなんじゃないかと思うんですよね。

 全ての国内版を買ったわけじゃないのでどれほど訳されてるかは知らないんですが、リリシストの定義が圧倒的に多様になり始める90年代後半~00年代前半の傑作群で、公式に翻訳がでたアルバムってどれだけあるかという話なんです。

 

 そんな状況の中じゃ、確かに『Illmatic』が神聖化され続けたのも頷けるんですよね。筆者も買いましたよ。ドハマりしましたよ。ええ、Pete Rockのビートに合わせて「Whose world is this♪」とか歌いながら(Nasは天才や...)みたいな感慨にふけってましたとも。

 これだから識者のGenaktion氏がIllmaticを目の敵にするわけですよ。あの方がどんだけIllmaticを忌避してるかって、Hiphopクラシックを総ざらいするKaの"Off The Record"の対訳で、数々のクラシックの引用箇所にリンクを貼ってるのにIllmaticにだけリンク貼ってなかったくらいですからね!

 

 

 思うにその期間に下々のボランティアで翻訳が出なかったこと、加えて技術的な解説をしたり、プレイヤーとして技術を輸入するような人間がいなかったことが...今日の日本語ラップのインディ/アングラの空洞化に繋がっちゃったんだと思うんですよね。

 

 だって見てくださいこのクソブログを。2022年にもなって何で00年代のアルバムを翻訳してるんですか? しかも中学3年で英検3級の試験に落ちるような語学力(実話)で? 時代遅れもいいところでしょう。

 

 

 

 

 誰も訳さねえからだよ馬鹿野郎!!!!!

 

 

 

 

 いいですか、もう何度だって言ってやりますよ。なんで誰も『Madvillainy』を訳してなかったんですか?『Labor Days』は?『Cold Vein』は?『Marcberg』は? それらの傑作の中身を検証しなかったのが今にシーンに繋がっているのでは?

 ISSUGI氏が「あいつが昔言ってた/Accordionみたく自然に揺れる身体Keep On」とラップした時、内心「DOOMを引用してなんでライムスキームを練らないんだよ」と半ギレになってましたよ(八つ当たりもいいところですが)。

 

(断っておきますが、ISSUGI/16FLIPS氏が日本シーンの良心なのは疑いようがないです)

 

 Kaは、Quelle Chrisは、Miloは、Open Mike Eagleは、billy woodsは...クソ有名なのに翻訳がまったく見当たらないですねえ! いったいどういうことなんですか。え? レビューサイトにあんだけ載ってるのに、ツイッターエゴサすればやれ「クソ渋い」だの「最近ハマってます♪」みたいな感想はアホほど見かけるのに誰一人訳しやがらねえ! 

 

 著作権的に若干あやういってのは分かりますよ。でもインディレーベルがこの時代にわざわざ日本版リリースして翻訳権買い取らせると思いますか? 結局のとこ、英語を分かってる人たちに「シーンを育ててやろう!」という気概がまるでなかったのも原因のひとつだったんじゃないんですかね? Genaktion氏が現れなかったらほぼゼロでしょう。どうなっていたことやらですよ、まったく。

 

 

3.文豪を見習うべきかもしれない

 

 でですね、おそらくこんな状況は今後もずっと続くと思います。一部の人がNoteかなんかで無料公開したり、そういうちょちょっとした動きはあるんですけど、アルバム単位で翻訳したり、ましてや技術がどういう構造になってるかなんてオタク的解説を設けるひとはまず居ないでしょう。自慢じゃないですがね!

 

 で思うんですよ。コミュニティが頼りにならないならラッパーたち自身が翻訳すればいいじゃないと。

 

 うろたえるかもしれませんが、これは何も奇抜な話じゃないんです。明治や大正、現在に至るまで、小説家や詩人たちの中には、日本の文学を豊かにするために積極的に翻訳に取り組み、シェアした作家も多くいたのです。

 森鴎外二葉亭四迷中原中也谷崎潤一郎芥川龍之介...最近なら村上春樹もそうでしょう。西洋の数々の言葉を日本語に落とし込んだ福沢諭吉の存在も忘れられません(そもそもこの"西洋"という言葉じたいが福沢の広めたものだったり)。

 

 

 元はといえばキングギドラブッダブランドの"輸入"から日本語ラップシーンが始まったわけで、今一度プレイヤーがそれを再実践することは何ら不自然ではないと思うんですよね。個々が誤訳を掲載する辱めに耐えなければならない、という致命的に高いハードルはあるものの(大丈夫です、筆者は絵本の猫くらいは死んでます)。

 

 というわけで最後に、筆者がまったくの素人から始めた翻訳の手法を載せることにしましょう。今はサービスが発達しているので、素人だとしてある程度の域まで到達するのも無理ではないのです。

 

 自分は参考書によくある、いかにも「ここに赤い下敷きをしいてください」とでも言いたげなページを見るだけで学習意欲がゼロになる人間だったので、ほぼすべてネット頼みで翻訳知識を得てきました。初期の翻訳を見ればその酷さが察せます。

 

 でおそらく、自分がたどったこの手順でやってれば、どんな方でもある程度の"ライム理解"が得られるんではないかと思います("翻訳理解"が得られるかは疑問ですが)。

 では始めていきましょう。

 

 

①Rap Genius、Deep L、英辞郎、メモ帳を用意する

 

 まずこれらのサイトとアプリを開くところから始めましょう。PCでタブを複数展開した方が圧倒的にやりやすいでしょうね。ではリンクを貼っていきます。

 

 Rap Geniusはご存じ、アーティスト本人や有志によってラップ楽曲を中心とした歌詞が掲載されている09年スタートのサイトですね。筆者は基本的にここからリリックを引用してるんですが、たまに単語が違ってたりもします。

 

 まずはここから翻訳したいアーティストのリリックを探すことから始めましょう。ただしインディの場合だと載ってないケースもよくあるので、無かったら諦めてください。無から有は生み出せないのじゃ。

 

 

 Deep Lは最近有名になってきた、ドイツのディープラーニングを駆使した翻訳ツールですね。ちょっと前までは日本の総務省が設立した「みらい翻訳」というサービスの方が上だったんですが、ここ最近はDeep Lの翻訳抜けや誤訳がかなりの割合で減ったので、鞍替えすることにしました。まだまだ完ぺきとは遠いですが、綺麗な文章はきれいに翻訳されます。

 

 

 英辞郎 on the WEBは数ある辞書サイトの中でも一番使いやすく、見やすいという点でオススメできます。Deep Lにかけた文章が上手く訳されなかった時なんかは、コイツで1語や2語ずつ検証するとうまい解が見つかるかと思います。

 

 ただこの辞書でもヒップホップにあるようなスラングが載ってないこともあるので、そういった場合はUrban Dictionaryを使用することをお勧めします。

 

 英語で読めないんですが、特定の単語を検索して一番それっぽいヤツの解説をDeep Lにかけると、何となく意味が分かると思います。

 

 

②脚韻している箇所だけ翻訳する

 

 さて準備ができましたね。そしたらまずRap Geniusでお気に入りの曲の歌詞をコピーして、メモ帳に貼り付けましょう。そうしましたら...まず、脚韻を踏んでいる箇所だけの翻訳をしてみてください

 

 

Skyzoo - One in the Same feat. Patty Crash

 

 ランダムなんですが、この稿ではSkyzooの本曲を使わせていただくとしましょう。最初の10行ほどをRap Geniusから引っ張ってきてメモに貼り付け、脚韻の箇所だけをDeep Lにひとつずつ貼っていきます。こんな感じに。

 


 これだけではリリック全体の内容は分かりませんが...本場のMCがどういう風に韻を組んでいるのか明らかになります。"Pardon me G-O"、"bordering Leo"、"wanted to be Theo"、"thought of a kilo"、"bored as a free throw"、"home with a P.O" ...数文字で踏む、というよりは"数語で踏む"ということが感覚的に分かってくると思います。

 

 これはまだ今より翻訳ツールが貧しく、マシなのが古いGoogle翻訳ツールだけだったとき。その時に苦し紛れでやってた作業なんですが、これをやることでアメリカのラップ技術に対する解像度がバカみたいに跳ね上がったんですよね。なので全ての方にお勧めします。作業にも慣れますしね。

 

 

パンチラインを1~2行訳してみる

Evidence - Pardon Me

Never forfeiting, or forbidding what the greatness of my aura is
決してオーラの大きさを失ったり禁じられたりはしない
I'm orbiting
俺は軌道に乗ってる
My son gave me more living
息子が人生の続きをくれたのさ

 

 脚韻の翻訳に慣れたところで、さて全体のリリックを...と行きたい所ですが、いきなりハードルを上げてもまず長続きしません。なので、パンチラインとおぼしき箇所を数行だけ訳しましょう。

 

 とはいえ「英語が分からないのにどこがパンチラインか分かるか!」という話。その場合、各種レビューサイトや、Youtubeの好きな曲のコメント欄を漁ってみるといいでしょう。そうすると、大体のばあいリリックを引用して反応してる方が何人か居るはずです。

 

 なのでそれらを引っ張ってきて、①で挙げたサイトを駆使して翻訳してみましょう。最初は1、2行でも30分とかかかる時もありますが、繰り返してるとそのうち慣れます。例に漏れず、上記にEvidenceのリリックもコメント欄で反応があった箇所です。

 

 

④1バースまるごと翻訳してみる

 

 てなわけでこっから1バース、1曲、アルバム全体と徐々に規模を拡大しながら、翻訳スキルを身に着けていくことになるわけです。筆者はだいたい2年半前くらいから本格的に曲を翻訳してるんですが、今ではそこそこマシなものが書けるようになりました。ご覧あれ。

 

 

 しかしそうして習熟しつつも、遊びを投げ打って3か月かかり切りになってもたった5枚のアルバムしか訳せないというスピード感なのです(しかもその内の2つはEP!)。これではとてもインディの傑作は網羅できそうもないですね。

 

 で、ぶっちゃけてしまうと筆者は上で挙げた2つのようなキープ・イット・リアルな楽曲にはあまり興味がないので、本サイトで待ってても出てきません(ドン)。そういう作風が好みの方はご自分で訳してくれという感じになりますね。それも含め、本稿では翻訳を勧めたいわけです。

 

⑤翻訳をする上での初歩的なアドバイス

 

 もはや言えることはないんですが、未だ初心者から抜け出せない筆者が得た気付きを最後にシェアしておこうと思います。常識中の常識というか、もはや義務教育でならうかもしれないような話なんですが。まず...

 

 1.イディオムに気をつけろ!

  イディオムとは複数の単語で成り立つ、日本でいう熟語みたいなもんなんですが、これの存在を知らなかったので自分はしばらく死んでましたね。

 ~upとか~offとかいう分かりやすいものはいいんですがね。でも例えば"Daddy knows people, he's important"というリリックがあって、これを適当に訳すと「パパは人々を知ってる、彼は重要だ」みたいな感じになるんですよ。

 で、流れ作業で意識散漫のなか訳してるので「なるほど、パパは博識なんだな」みたいな感じで、たまにスルーしてしまうんですよね。そして後で死にたくなるという。

 

 これ、"know people"で「顔が効く」という熟語らしいんですよ。それが分かると後ろのimportantが重役という意味で、「パパは顔が効く、彼は重役だ」というちゃんとした一文になるってわけなんです。

 

 しかもタチが悪いことに、これをDeep Lに通しても「パパは大事な人を知ってる」とかいう、もっともらしい誤訳を吐き出してくるんですよね。なのでイディオムの事を常に念頭に入れておいて、何か変だと思ったら2語、3語とかで辞書サイトやGoogleにあたってみる習慣をつけるといいと思います。

 

 2.イディオムのサンドイッチに気をつけろ!

  これも似たような話なんですが、イディオムは他の単語を挟んだりすることがあるんですね。例えばblow offで「吹き飛ばす」という意味なんですが、これが「頭を吹き飛ばす」みたいになると"Blow the head off"になるわけなんです。

 

 これ分かる人は全然大丈夫なんですけど、筆者みたいな頭おかしい人になると中々気付けなかったりするので注意が必要です。ときにイディオムは目標となる単語をまたいだりするんで、連続する単語とは限らないということを覚えておいてください。

 

 3."間に挟まってるヤツ"が省略されてることも多いぞ!

  これもたまに混乱する時があります。文章をあとから修飾するときに使う"who"や"which"や"that"、いわゆる関係代名詞と呼ばれるものは、可能な時はたまに省略されていたりするのです。

 

 例えば"Cream uncoiling in the coffee she's pouring(彼女の注ぐコーヒーにクリームがほどけていく)"という文章のばあい、本来であれば"Cream uncoiling in the coffee that she's pouring"という形になるんですが、話者の都合で略されてることもままあります。

 

 こういうのを認知せずに、「ん?ここにカンマでも入れるのかな?」とか考えると破綻するので、たまには関係代名詞くんのことも思い出してやってください。

 

 4."Of"は「の」以外の意味もあるぞ!

 これは最近知ってクソびっくりしたんですが(これで英語初心者であることが証明できると思う)、Ofには複数の意味があるんですよ。

 

 例えば"I know NIGO"は「NIGOなら知ってるぜ」とか「分かってるよNIGO」みたいな意味になると思うんですが、これが"I know of NIGO"になると「NIGOの噂を知ってるぜ」みたくなるのです。ofには「~について」という意味もあるんですね。

 

 あるいは"I cleared the cake of strawberry"だと「苺ケーキを一掃した」といった感じになるんですが、"I cleared the cake of the strawberry"だと「ケーキから苺を取り除いた」という意味になるのです!

 

 これには2つのマジックがあって、まず前者のofは「の」と訳して構わないんですが、後者のofは"clear A of B(AからBを取り除く)"というイディオムのofなんですね。なのでここではA(ケーキ)からB(苺)を取り除いたわけです。

 

 それに加えてもうひとつ、冠詞が問題になります。前者は"the cake of strawberry"でひとつの名詞、一体となったモノであるのに対し、後者は加えてstrawberry単体にもついてることから、この2つは別々の名詞(AとB)であることが分かるわけです。なので"clear A of B"のイディオムが駆動して、まったく違う意味になったってわけなんですね。

 

 これを知ったとき「Ofってレジェンド・オブ・ゼルダのオブちゃうんかい!?」と心底おもったんですが、どうやら英語は日本語に負けないくらいのクソ言語らしいです。他にもwithとかtoとか、このofのような前置詞と呼ばれるものには複数の意味があるので、気をつけてかかってください。自分もまだよくわかってないですが、辛抱強くノートに向き合うほかありませんね。

 

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 まだまだ勉強中ですが、このコラムは以上になります。00年代中盤から日本語ラップを聞き続けてきましたけど、伸びしろは腐るほど残されてると思わずにはいられないですね。メインストリームはいいんですよ、メロラップやトラップ、UK Drillの真似は。

 

 ですが硬派や王道を行くアングラ/インディがこれでは本当にイカンと思うんですよね。育つものも育たない。ラップに興味を持ってなさすぎる。

 そんなわけで本記事を書かせていただきました。長くなりましたが(約1万3000字!)、それだけ熱意があるってことでひとつ許してください。

 

 今後もこのブログは続きますが、こういう意志の元にやってるんだってことは覚えておいて欲しいですね。それでは、次の記事でお会いしましょう。Tachibuanaでした~~ピース!