韻とアイデアほか

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【翻訳練習】Viktor Vaughn - Lickupon

Viktor Vaughn - Lickupon

 

 己紹介が終わったところで、作品コンセプトの中核に目を移していきましょう。そもそも彼がなぜタイムスリップをすることになったか――それはMF DOOMよりも前の名義、つまりKMDのZev Love Xの頃まで話をさかのぼる必要があります。

 

 1988年、彼はラッパーのZev Love Xとして弟のDJ Sub Roc、そして後にM.I.C.に所属し本作にも客演するRodanとグループ"KMD"を結成(Rodanはすぐ別のMC、Onyx the Birthstone Kidと入れ替えになってしまいますが...)。元々はグラフィティクルーとして始まったらしいのですが、その直後、当時人気だったHiphopグループ"3rd Bass"にお呼ばれして、楽曲に客演することになります。 

 この時の縁から、後に同グループのMC Serchとコラボしてたりもします

 

3rd Bass - The Gas Face

 

 この曲をきっかけにElektra RecordsのA&RだったDante Rossに注目され、KMDとして契約することになります。そして91年5月14日リリースしたのがKMDの1stアルバム『Mr. Hood』でした。

 

KMD - Who Me?

 

 この曲ではセサミストリートを始め、子供の教育番組から大量にサンプリングしているらしいんですが、それは弟DJ Subrocの発案だったとか。SubrocがいかにDOOMにとって重要な存在だったかをうかがわせるエピソードですね。

 

 そして93年に2ndアルバムのレコーディングを開始するんですが、メンバーのOnyx the Birthstone Kidがグループを脱退します。そしてその後...ご存じの通り93年4月23日、弟のDJ Subrocがロングアイランドの道路を横断中、車にはねられて死亡してしまいます。まだ19歳でした。

 

 その後、相当苦心していたと思われるにも関わらず、Zev Love Xは単独でアルバムを完成させます。しかしこの時CDのアートワークに載せた「首を吊った黒人カートゥーン」が原因で、Elektraからリリースを拒否されてしまいます。不幸は重なるというかなんというか...

 

 そしてその2nd『Black Bastards』は最終的に2000年5月15日、別のレーベル"Readyrock Records"からリリースされました。1stからちょうど9年経ったころでした。で、そこに収録されてた楽曲がまた良くてですね...

 

KMD - Sweet Premium Wine

Sweet Premium
甘くプレミアム
See me, I'm chillin' like the maniacal villain that I am
見ろ、俺は狂気じみた悪党かのようくつろいでる
Pull a scam
詐偽を働き
This is my kind of jam, buddy pal
こいつは俺好みのジャムだ、マブダチ
See, first name Al, last name Key-holic
ほら苗字はアル、名前はヤク中さ

 

 めちゃくちゃ格好良い! のはもちろんなんですが、カルマを感じるラインもたびたび登場してきます。残念ながら前述の理由で、アルバムのミックスのクオリティはまばらなんですが、当時リリースされなかったのが惜しまれる出来です。

 

 その後、音楽業界を事実上追い出された彼は、94年から97年のあいだ、マンハッタンでホームレス生活を送っていたそうです。そしてつのる音楽業界への憎悪...この時から彼は、業界への復讐を固く誓っていたそうです。(参考:Wikipediaリンク各種

 

 

 さてそろそろ本筋に戻りましょう。本稿で取り上げるアルバム3曲目"Lickupon"は、なんとそんな彼がタイムスリッパーViktor Vaughnに扮し、90年代に戻ってZev Love Xに会うというもの。つまり自分で自分に会いに行くのです。

 

 この曲を翻訳して分かったことがあるんですが、DOOMのリリックによく出てくる、"He"という3人称。Madvillainでもよく使われていたんですが、最初はこれ、急に自分を俯瞰してラップしているもんだと思ってたんですよね。というか英語が読めないリスナーは誰であれそう思ってたと思うんですが。

 

 しかし本作のコンセプトから、この"He"という主語の指す所は、一人称(Viktor Vaughn)から眺めた、まぎれもない他人、"過去の自分Zev Love X"だったのです。ビックリですね。マリファナでぶっ飛んだ人の気まぐれな視点変更か何かだと思ってたんですが、この表現にもバッチリ必然性があったのです。

 

 そして他の作品とリンクするいくつかの記述。例えば「どんな話にも4つの側面がある」というラインは、Madvillain"Meat Grinder"での「全四種の香りで、主人は我々をお守りくださる」という謎ラインと対応しているよう。

 

 この"4"は何かといえば、彼の名義Zev Love X、King Geedorah、Viktor Vaughn、そしてMF DOOMのことなのです。さらに彼のKing Geedorah名義は、胴たるZev Love Xから派生した、他の3つの名を”キングギドラの3つ首"と掛けているんですね!

 

 日本に辛うじて存在する彼についての記事とは反対に、彼のやることなすことにはどれも明確な理由があったというわけなのです。知らなかったよ!誰か教えてくれればよかったのに!

 

 

 

 

[Verse]
Mmm
ふむ
Confirmation of your worst fears
お前が最も恐れるものを確かめる
Ever since his first years, had a thirst for beers
初年度の頃から、ビールに飢えてたな
Back from the future, it'll make you more sober-er
未来から帰還だ、酔いがよく覚めるだろ
And brought back a long list of fakers who crossed over
長い"裏切ったフェイクのリスト"を持ち帰ってきたぜ

 

I'm like, fuck it, bubble-baller
俺はまるで、クソ、"泡(玉)蹴り"だ
Catch 'em up at Bob's show, stall him with a troubled caller
ボビットショーで囃し立て、曰く付きの客で引き止めるわけ
Bastard, who could make G's faster
ろくでなしだよ、手早く大金せしめるのさ
Than a newly remastered while being truly plastered
- 完全に酩酊して作った最新リマスター(KMDの2nd)よりも

 

There's four sides to every story
どんな話にも4つの側面がある
If these walls could talk, they'd probably still ignore me
もしこの壁が話せたなら、きっと俺を無視し続けるだろう
Contemplate war over a cup of warm coffee
暖かいコーヒー飲みながら戦を検討する
It's really getting gory, tell your problem to Maury
マジでムゴくさせるぜ、悩みを話しな、モーリー

 

Don't bore V with the "glory, hallelu-ey"
"栄光を、ハレルヤ"(米共和党賛歌)でVを退屈させるな
Crews be like, phooey, it's all a buncha hooey
クルーどもは"馬鹿な寝言の投げ売りだろ"って様子だ
I knew he had new G, who he? Viktor Vaughn
奴が稼いだのは知ってた――誰って? ヴィクター・ヴォーン
He had a new sicker song, I think he call it "Lickupon"
イカした新曲持ってきたとさ、思うに"強奪(強打)"って題だ

 

Umm, but, uh――he study rhymes and putter-ins
ああでも、えー――彼はライムと放浪(パターゴルフ)を学んだ
Climb so steep sometimes the beat don't be matterin'
急な上り坂もあるが、ビート(打撃)は問題にゃならない
Sounded like a half-dead from Scurvy band rock
クズのロックバンドから来た死にかけみたく響いた
A programmed, computer bio-grafted Herbie Hancock
プログラム化し、計算で伝記と化したハービーハンコック

 

Maybe next life, he'll try harder
おそらく彼は来世、もっと頑張るだろう
Died a martyr at the hands of the fire-starter
着火手の罠にかかり殉教者として死んだのさ
All scripts ripped available for viral barter
口コミさせるため裂かれた全脚本を入手し
Transport a stack to the lab via charter
チャーターを介してラボに書類を運び出す

 

On the microphone he came to daze and amaze ya'
奴はマイクで惑わせ、驚かせにやってきた
What a guy, practice bangin' flies with razors
なんて男だ、カミソリでハエ叩く練習してる
And watch out for the robot, he got eyes with lasers
あとロボットに注意しな、レーザーで目を焼くぜ
Tell 'em when they come with more topics besides blazers
奴らがブレザー脇にお題抱えて来たら言っておけ

 

Enough with the guns already, they all toys and lames
銃はもういい、ありゃ偽物で時代遅れオモチャだし見え透いてる
The joy's in the aim, he asked him, how's ya' poison game?
成功が射程に、彼は訊ねた「アンタの毒物(毒されたゲーム)はどう?」
Do you bust your crossbow? Also, more so
クロスボウぶっ放すのか?」「それもね、もっと言えば -
Accurate body blows to torso, thought so
- 胴体に正確なボディブローも」 「だと思った

 


These flows you won't find in no "how-to"
このフロウは入門書じゃ見つからないぜ
If the blacksmith doubt you, he smack the shit out you
鍛冶屋(黒い奴)が懸念するなら、クソを叩きつけてくれるさ
Make nuttin' gone, let nuttin' twitch
精を放ち、"木の実拾い"を痙攣させる
Just don't be near the mic, when the on-button switch
とかく"マイク"に近寄るな - ONボタンが押されたら

 

V bring the beef like a trucker to Fuddrucker
Vはファドラッカーの運転手みたく"ビーフ"を持ってくるぜ
Delivery to all y'all motherfuckers and bloodsucker
お前らクソったれと吸血野郎にデリバリーだ
Coppin' more pleas than when a rap nigga bicker on
口論してるラップニガより多く言い訳を捕らえていく
And that's my word as Vaughn, I think he call it "Lickupon"
それがヴォーンとしての言葉さ、思うに奴は"強奪(舐めずり)"って呼んでる

 

Umm, he wrote this one with a fever, sick in bed
ふむ、奴は熱出してコレ書いたな、寝込んでる
With his dickhead inside a chickenhead
- 亀〇チキンの頭(フ〇ラ女)に突っ込んで
No, a dead chicken's head, he said it help his nausea
違う、死んだチキンさ、いわく吐き気を抑えるんだと
If he lost ya', wait till he tell you about the flyin' saucer
狂ってたら空飛ぶ円盤のこと話すまで待ってやれ

 

Dag, the kickback'll leave your wig ragged
変人、報酬がほつれたカツラ取りかえるさ
For a big bag of good grizzle and some Zig-Zag
- デカい袋の良いマリファナジョイントにね
Survival, keep a rival in denial
生存しなライバル現実逃避させ続け
And bust what he got just for comin' out his pie-hole
無駄口のデビューのせいで喰らったものを放て

 

Die calmer than a suicide-bomber
自爆テロより静かに死にな
V just the type to do a hoo-ride with Momma
V、ただママと草吸ってドライブするタイプの男さ
Said to James Bond, my name is Viktor, Viktor Vaughn
ジェイムズ・ボンドに言った、俺はヴィクター、ヴィクター・ヴォーン
Told the chick the quickest way to get on, lickupon
ヤる最速の方法で女に言ったぜ、"舐めろ(稼げるぞ)"とね

 

 

 

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